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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第一章 道が現れる解読謎解き

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5

 杏奈ちゃんが声を上げる。

「え、全然わからん!」

 私も即、同意だ。

「せやな、私の老いた脳みそでは全くわからんわ……とりあえず、数字が答えなんやな?」

「いや佳代さん、この数字とか図に意味あるやろ、絶対」

「なんやねんこの穴ぼこ、でこぼこの図は」

 私たちは問題用紙を見ながら、くるくる回したり、裏から見たりとあれやこれやと意見を言い合う。見比べるとNo.1はシンプルで、No.2の方が不思議なことが多い。

「No.2の『2』、やたら小さいよな」

「『1』の横に点々も変やわ」

「良い視点ですね。No.2の方が、情報が多いです」

 心くんは目をキラキラさせながら、私たちが謎について考えるのを見ている。そんな顔を見ているとがんばって解いてやりたくなる。

「なんかこう、この図……」

「何? 佳代さん」

「見たことないか? どっかで」

「えーあるかなぁー?」

 杏奈ちゃんが首を捻ると、心くんが嬉しそうに頷いている。

「見たことがあります。必ず。特に小学生の頃、よく目にしたはずです」

「待って待って、心くん、まだ言わんといて! なんかわかりそう! うちはもうちょっとだけ、粘りたい!」

 食い入るように図を見つめる杏奈ちゃんが闘志を燃やす。

「もちろん待ちます。謎は解こうとしなくては解けませんから」

 ぐっと拳を握る彼の応援に、杏奈ちゃんが頷く。

「見ようとせんと、見えてこないのは当たり前やんな。まだ、諦めるには早いわ」

 一生懸命、目の前の謎に取り組む姿が、本当に可愛い子たちだと思う。私もやる気が出てくる。だが、脳みそを絞ってみても、なかなか正解がつかめない。

「うーん、やっぱりわからん……」

 二人で行き詰まり始めてしばらくたち、心くんが口を開きかけた時、また後ろから声がかかる。

「五十音表ですよ」

 振り向くと、生白い肌の七瀬くんが立っていた。私の後ろから紙を覗いていたらしい。心くんが軽く息をついてむくれる。

「もう七瀬さん……先に言わないでくださいよ」

「もうお二人は限界でしたよ?」

「僕が言いたかったんです」

 心くんがその役割を楽しみにしていたのがまた可愛らしいが、七瀬くんは飄々と言う。

「それはすみませんでした。でも関係ない人間からヒントが落ちてくるのは、謎解きミステリーのあるあるです」

 ひょろりと背が高い七瀬くんは、素っ気なく言い捨ててキッチンへ引っ込んでいった。

「誰、あの人……」

「あ、杏奈ちゃんは知らんのか」

 杏奈ちゃんと彼は面識がなかったらしい。七瀬くんのヒントは、彼女からしたら寝耳に水だっただろう。心くんが気を取り直して言う。

「邪魔をしてすみません。実は七瀬さん、ミステリー作家さんでして」

 杏奈ちゃんが目を丸くする。

「作家? あの人すごい人なんや? でもさ、あの会話の入り方は、ありえへんよな」

 彼女の容赦ない指摘に心くんは苦笑いだ。

「そういうわけで、謎解きに目がなくて。絶対に見に来るんですよ」

 あの仏頂面で愛想もない。それなのに、職業柄とはいえ、みんなが楽しそうに謎解きをするのを覗きたくて仕方ないとは。

「ここは可愛い子しかおらんなぁ」

 私がケラケラ笑うと、心くんと杏奈ちゃんは顔を見合わせていた。杏奈ちゃんはじっとNo.2の紙を見つめる。先ほどの七瀬くんのヒントを考えているようだ。

「五十音表……そういうことか!」

 杏奈ちゃんは心くんがさっと用意したボールペンで、紙の端っこに字を書き始めた。

「佳代さん、これ五十音表に数字が書いてあるんや。だから、あ、か、さ、た、なーやから」

 No.2の紙の端に『ヴィーナス』と書かれる。

「あ、そういうことか!」

 ばちんと謎が解けた快感が体に走り、私も杏奈ちゃんから渡されたボールペンでNo.1の紙に書き込んだ。

「『くろしま』や」

「二人合わせて、答えは『黒島ヴィーナス』?」

 私と杏奈ちゃんが揃って心くんを見る。彼は両腕で大きな丸をつくって、今日一番の笑顔になる。

「大正解です」

「やったな! 佳代さん!」

「杏奈ちゃんのおかげやわ」

 杏奈ちゃんが私にがばっと抱きつくので、細い背をとんとんと叩いてやる。

 誰かに抱きしめられるのはいつぶりだろうか。

 謎解きで生まれた連帯感と高揚感、その勢いのある喜びが嬉しい。はーちゃんがいなくて切なかった隙間が少し、埋まるような気がした。

 ハグを終えた杏奈ちゃんが、首を傾げる。

「でも黒島ヴィーナスって何?」

「杏奈ちゃん知らんのか? 岡山の有名な観光スポット、黒島ヴィーナスロードのことやろ。私も友だちがドタキャンせんかったら、見に行こうと思ってたところや」

 瀬戸内市牛窓沖に浮かぶ黒島では、干潮時にだけ道が現れるのだ。

 小島が三つ、弓形につながった砂の道。

 それが黒島ヴィーナスロードだ。

「心くんはその黒島ヴィーナスロードをおすすめしたいってこと?」

 杏奈ちゃんが尋ねると、心くんがゆっくりと頷く。

「もちろん、おすすめです。ですが、ここを答えにしたのには理由があります。それが二つ目の謎解きです」

「謎は一つとちゃうんか?」

 驚いていると、企みが成功した顔で心くんが微笑む。

「僕がどうしてお二人に『ここを紹介したのか』が二つ目の謎です。もしお時間があれば、ぜひ見に行って考えてみてください」

 目をぱちくりしてどうしようかと考えていると、心くんが先回りして言う。

「強制ではないので行かなくても大丈夫です。その場合は一つ目の謎解きでおしまいになります」

 あれこれ考えて頭を捻る謎解き体験は思ったよりずっと楽しかった。

 もう一度この気持ち良さを味わうのも、楽しそうだ。杏奈ちゃんの顔を見ると同じことを考えているように思えた。

 心くんが言うように、私たちの相性は良いのだろう。

「なあ、佳代さん。良かったら一緒に見に行かん? 黒島ヴィーナス」

「私も今、誘おうと思ってたところや」

 二人で気が合うなと言い合っていると、いつの間にか席を立っていた心くんが地図と行き方を書いた紙を渡してくれる。

 しかし、黒島へはクルーズの予約が必要なはずだ。私はもうキャンセルしてしまっていた。

「本来なら、当日予約は受け付けていないのですが、地元のツテがあるので予約しておきます」

 さすが元教師だ。用意周到で、導き方に隙がない。

「気をつけて行ってきてください。お帰りをお待ちしております」

 用意を終えた私たちは、心くんの丁寧な礼に見送られて、アクアマリンを出発した。


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