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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第四章 迷子のココロのカフェ巡り謎解き

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 フラペチーノの写真を瑞葉さんに送り、カードに大福シールを貼った。

『ミッションクリア~! 次は、おかやまフルーツフラペチーノのカップを持ちながらここへ行ってね。着いたら写真を撮って送って!』

 瑞葉さんのメッセージと一緒に、次の位置情報が送られてくる。

 次の場所は、僕と自転車の事故現場だ。

 そうくるのはわかっていた。僕は瀬戸さんのカフェからの帰りに事故に遭った。

「カップを持ちながら、か」

 妙に細かい指示に従いながら、進み始める。

 葡萄とマスカットと桃がみっちり載ったフラペチーノが、溶け切る前に飲みながら道を歩く。

 違和感だ。

 僕は基本的に飲み歩きをしない。しかもこんなに具材が載っていては歩きながら食べにくい。

「あ、飲みながら……ではなく、持ちながら?」

 瑞葉の指示メッセージを読み返して、正確に反芻する。この書き方には作為がある。飲みながら、である必要はなかったのかもしれない。

「カップだけ持っていればいい。つまり、カップが重要ってことか」

 まだ半分ほどフラペチーノが入っているカップを見つめる。このカップにどんな意味があるというのだろう。

 考えながら事故現場へと足を進める。

 また違和感だ。

 カフェは一日に三軒回れば十分だ。アクアマリンの近くにある自宅へ帰るならば、まっすぐに駐車場へ向かうはずである。だが、あの日の僕は駐車場を通り過ぎている。

 駐車場をとっくに通り越したところの歩道が、事故現場なのだ。

「ここが事故現場」

 何の変哲もない歩道にたどり着く。人通りはそれほど多くないが、自転車がたまにスピードにのって走り去って行く、普通の歩道だ。

 フラペチーノのカップを持ちながら、紙袋の中に「中」が欠けたミステリー本を持って、ここで事故にあったらしい。

 今の僕は、あの日の僕と同じだ。ここからどうなった。

 自転車とぶつかった衝撃で、持っていた紙袋は車道へ落ちた。車に轢かれた紙袋の中身はぐちゃぐちゃだったので、処分したと親から聞いている。あのとき、持っていたカップも車に轢かれたのかもしれない。

 事故現場の写真を瑞葉さんに送る。

『ミッションクリア、お疲れ様。次が最後の到着点だよ。着いたら写真を撮って送ってね! 絶対にカップ捨てないでね~!』

「次?」

 ミッションクリアの大福シールをカードに貼って、首を傾げる。

 あの日の再現をするのが目的ならば、あの日の僕はここから救急車で病院へ行ったはずだ。どうして、次があるのか。

 訝しみながら、送られてきた位置情報の場所を目指す。

「ここが、最後?」

 事故現場から歩いて十五分でたどり着いたのは、旭川沿いにある小さな神社、森崎稲荷神社だ。

 小さな鳥居と社がぽつんとあるだけのローカルな場所で、観光客は来ない。けれど、岡山ローカル巡りをする僕は、ここが地元でだけ有名な縁結び神社だと知っている。

 神社の鳥居の前で写真を撮って、瑞葉さんに送る。

 するとすぐに、今度は七瀬さんから電話がかかってきた。

 カップを持つ手と反対の手でスマホを耳に当てる。

「心くん、お疲れ様でした。スタンプラリーはゴールです。では、今までの情報を加味して、最後の謎を解いてから帰ってきてください」

「謎?」

「なぜ私が『あなたにその場所を紹介したか』です」

 僕がアクアマリンのココロの謎解きで、最後に渡す謎と全く同じだ。

「あの日、事故に遭ってたどり着けなかったけれど、僕が本当はここを目指していたと、七瀬さんは言いたいんですよね」

「あなたは機会があれば、神頼みをする性質だと言っていましたからね」

 七瀬さんと行ったカフェで、そう言ったのを覚えている。彼は少し間を空けてから言った。

「これは受け売りなのですが、『ココロの謎解き』の正解は、自分で決めていいらしいですよ?」

 自分の言葉がこんなにまっすぐ返ってくることがあるだろうか。

 ある場所まで導き、最後は自らが決めることだと自由を与える。それが、アクアマリンのココロの謎解きのやり方だ。

「では、がんばってください。謎が解けたら、その先に行ってみるのをおすすめします」

 きっちりと、ココロの謎解きまで再現されて驚く僕を置きざりに、七瀬さんの電話が切れた。

「ヒントはそれだけですか……七瀬さんはスパルタですよ」

 僕ならもう少しヒントを残すのに、なんて考えても仕方ない。

 七瀬仕様だ。

 厳しいに決まっている。

「でも、七瀬さんの謎解きだからきっと」

 情報の不足はないはずだ。僕はフラペチーノの果物たちを食べながら考えた。噛むたびに甘くてジューシーな果汁が出て、僕の脳を働かせてくれる気がする。

 まずは本だ。

「中」の抜けた二冊で、僕がやろうとしたことは大体わかる。

 もし、その企てが成功していたとしたら、縁結びの神社に行きたくなったことも心情的に矛盾がない。

 僕は何か新しいことが始まる前にお参りしたい方だ。アクアマリンの開業時にも参った。

 次は、七瀬さんが僕に持たせ続けた「カップ」だ。

 フラペチーノのカップを、昼時の太陽にかざすように持ち上げた。晴れの国は今日も青天だ。

「カップ……」

 瀬戸さんと今まで交わした会話の中から、カップの話題がなかったか思い出す。

 そういえば、客足が全くない日のカフェ店内で、瀬戸さんがフラペチーノのカップにメッセージを書いてくれたことがあった。

「忙しいと書けないんですけど、たまにこれを書くのが楽しみなんですよね」

 カップには、にこにこマークと「Have a good day!」と軽快な文字が並んだ。僕はそのカップに見覚えがあった。

「あ、ドラマとかで見たことがあります。連絡先を伝えて、ナンパをしたりするんですよね」

「実際そういう話、カフェで働く友だちから聞いたことあるんですよ。そういうの、憧れちゃいます。いつかやってみたいです」

 照れたように笑った彼女の表情を、鮮明に思い出した。

 太陽にかざしたカップの向こうに、青空が透けて見える。

「あの日、このカップに、彼女の連絡先が書かれていたとしたら」

 そんなの嬉しすぎて、立ち止まって見入ってしまうだろう。

 そうして浮かれていたら、自転車が来るのを見ていなくて、ぶつかられてしまったのではないだろうか。それなら歩道の真ん中に突っ立っていた理由もわかる。

「しかしこんな、自分勝手な謎解き……アリか?」

 あの日のことはさっぱり思い出せない。

 確証も、証拠も何もない。

 僕が持つ手がかりは、自分の記憶と、自分の習慣と、このココロだけ。

 僕の推理は全部、そうであったらいいなという願望の答えばかりだ。

 かざしたカップに向けて呟く。

「七瀬さん、次の台詞はもしかして『答えを正解にするように、がんばるのもいいかもしれません』ですか」

 これも、僕が七瀬さんに言った。

 七瀬さんのココロの謎解きの再現が完璧すぎる。

「もし、彼女から連絡先をもらって、待ち合わせをしていたとしたら」

 彼女との会話を頭の中で検索し直す。

 彼女の好きな本、互いの趣味、好きなカフェ。

 あの日、神社に参ったあと、彼女と会いたかった場所。きっと僕なら、あそこに誘う。

『山の上の絶景カフェ、行きました?』

 小さな社に賽銭を入れて手を合わせ、彼女の声がまた聞きたいと願った。

 何も書かれていないフラペチーノのカップを道沿いのゴミ箱へ捨てて、僕は歩き始めた。



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