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二人で参道を頂上まで上ると、磐座という神様のお家があった。中に入ると、お稲荷様が座っていた。
「「熊に会いませんように!」」
全力で祈ってから磐座を出ると、まだまだ真っ青な空が眩しい。ゆっくり垂直のような石階段を下り始める。手を繋いで歩く航ちゃんがしょんぼり言った。
「お守り、売ってなかったね」
「あーそうだね、欲しかったな」
お守りを持って林間学校に行けば、航ちゃんも安心だったかなと思っていると、航ちゃんの足が止まった。
「なっちゃん、渡したいものがあるんだ」
航ちゃんは鞄の中から財布を出した。その中から一枚の小さな紙を取り出して私に渡す。紙を広げてみると下手くそな字が書いてあった。
「なんでもけん?」
「これ、なっちゃんが六歳のときに、お母さんにプレゼントしたなんでも券だよ。お母さんが大切にしていて……事故の時も財布に入ってたんだ」
お母さんの鞄だけは帰ってきていて、今もお母さんのものを集めた場所に置いてある。財布の中にそんなものが入っているとは知らなかったし、そんなのをプレゼントしたことも、もう忘れていた。
「なっちゃんのお母さんが言ってたんだ。このなんでも券は、なっちゃんが大人になるまでずっと大事に持ってるって」
「どうして? そんなのすぐ使っちゃえば良かったのに、勉強しなさい~とか」
航ちゃんがくすっと笑う。
「お母さんはなっちゃんが成人して、家を出ていくときに使うって決めてたよ」
「なんでも命令ができる券だよね?」
私たちの間を、海風がするりと抜けていく。
「お母さんは私に何をさせるつもりだったの?」
航ちゃんがにこにこ岩みたいに、やさしく笑う。
「なっちゃんに『いつも幸せでいなさい』って言うんだって、笑ってたよ」
お母さんは私のために、私があげたなんでも券を使うつもりだった。
そんなの何枚だってあげたのに、六歳の時に書いた下手くそな字の券をずっと持っていたのかと思うと、目の奥が熱かった。航ちゃんの赤い目もまた潤んでいる。
「お母さんの願いを僕が預かっておこうと思ってたんだけど」
航ちゃんが私の手の中にあるなんでも券ごと、私の手を両手で包むように握る。
「お母さんには早すぎって怒られるかもしれない。けど、俺は弱いから。これが、今、必要なんだ。お母さんの代わりに、使ってもいい?」
航ちゃんの大きな手が細かく震えている。航ちゃんは恐ろしいんだ。その恐ろしさをお母さんが使いたかったなんでも券と一緒に、乗り越えようとしてくれている。
私はこくこく何度も頷いた。
「いいよ!」
「ありがとう、なっちゃん」
航ちゃんはぎゅっと私の手と、なんでも券を握る。
「なっちゃん、いつも絶対、幸せでいて。そのために僕はなんでもする」
熱い手が私を包んで、涙の目が私を強く見つめる。航ちゃんの手の震えが、ぴたっと止まった。
「だから僕はなっちゃんを、送り出すよ」
私はへへっと大きな声を漏らして笑った。
「うん! このなんでも券をお守りにするね!」
私が必ず幸せになるためのなんでも券。
こんなの最強のお守りだ。
私は瀬戸大橋と青い空を背負って、ぎゅうっとお守りを抱きしめた。
「最高の誕生日プレゼントだ! ありがとう航ちゃん!」
笑い合って手を繋いだ私たちは無事階段を下りて、それから、三日連続で焼肉を食べに行った。
帰ったら、大地の家に行く。
お土産を渡して、「林間学校、楽しみだね!」って、ずっとしたかった話をするのだ。




