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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第三章 橋を架ける謎解き宝探し

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 次の日、また青空ぴかぴかの下、朝から航ちゃんと一緒にサップ体験に出かけた。アクアマリンからすぐ近くの浜辺で、インストラクターのお兄さんから説明を受ける。

「海の上で散歩するみたいなイメージで、らくらく~っと進むから簡単だよ~!」

 お兄さんのゆるい説明を鋭い眼光で聞く航ちゃんは、同じように親子体験に来た人たちからジロジロ見られていた。私はこそっと航ちゃんに言う。

「航ちゃん、恥ずかしいから睨むのやめて」

「え、あ……ごめん」

 航ちゃんは肩をすぼめて小さい声で言った。説明が終わり、ついに海に入水することになると、薄手のウェットスーツの上に付けた私のライフジャケットに不備がないか、航ちゃんは何度も確認していた。

 海の浅瀬で、サーフボードみたいなカッコイイ板の上に立って、すいすいっとパドルを漕ぐだけだ。

 こんなの簡単。

 事故なんて起こるわけがない。

 航ちゃんの過保護ぶりに、ちょっとため息をつく。

「じゃあみんな行くよー! 出発!」

 インストラクターさんの近くにいるように、という航ちゃんの指示に従いながら、一人乗りのボードで海へ繰り出す。

 航ちゃんも私の後ろから同じように、ボードに乗ってついて来ている。

 浜辺の浅瀬から、だんだんと深い所へと進んでいく。

 海の上に立っているからか、水に浸かって泳いでいては見えない高さで海を見ることができる。

「すご……!」

 エメラルドブルーの海が広がり、アクアマリン色の空はどこまでも高い。この海にある青を全部抱きしめているみたいだ。

「ふわー! 海の散歩すごぉーい!」

 もやっと曇っていたお腹の中が、急に晴れ渡ったように気持ちが良い。

 遠くへ、遠くへと海に誘われるように、私はパドルを漕いだ。

 この青い海の真ん中を突き進めば、何が見えるのか知りたくなって、漕ぐ手が止まらなかった。

「なっちゃん! インストラクターさんから離れすぎだよ!」

 強い声に呼ばれて、びくりと手を止めた。

 航ちゃんがパドルを漕ぎ、隣にボードを並べた。

 海の上で二人で並ぶ。

「なっちゃん全然返事してくれないから、びっくりしちゃったよ」

「ごめん、楽しくなりすぎちゃったかも」

「……夢中になれて良かった」

 航ちゃんはゲジゲジ眉を下げて、困ったような顔で笑う。見回すと浜辺からかなり離れていて、もう海の真ん中と言えるような場所だった。

「おーい! 大丈夫ですかー?」

「はい、大丈夫です!」

 航ちゃんはインストラクターさんの呼びかけに、大きな声で答える。インストラクターさんや他の参加者たちはまだ浜辺の近くにいた。

 私は一人で飛び出していたようだ。

 海の上に立って、ぼんやり空と海を眺める。

「気持ち良いね、航ちゃん」

「うん……そうだね」

 航ちゃんは口では同意してくれたけど、「無茶なことはやめて」って顔をしている。

 なんだか、ごめんねって思った。

 そのとき、そよそよとゆったり吹いていた小さな風がぷつんと止んだ。

「あれ? なんか、風が止まった?」

「え、そう?」

 航ちゃんはわからないみたいだったけれど、風が止まったのを私は感じ取っていた。

 すると、小さく打っていた波がすーっとなくなって、海がぺったんこの平面になる。

 海面が、私の顔が映りそうなくらい、つるつるだ。

「えーなにこれ……鏡? みたい」

「すごいね」

 航ちゃんも海面をじっと見ている。航ちゃんはこくこく頷きながら、静かに言った。

「これ、凪だよ」

「へ?」

 私の名前を呼ばれたのかと思った。

 航ちゃんは私のきょとんとした顔を見て、くすりと笑う。

「こうやってぴたっと風が止まることを、凪って言うんだよ」

「これが、凪?」

「見て、なっちゃん。遠くまで、止まってる」

 顔を上げて、青い空が映る水面を遠くまで見る。まるで海が、大きな一枚の鏡になったみたいで、空の青と、海の青が、一つになっている。

「綺麗……」

 ふわりとまたあたたかい風が吹き始め、波が戻る。凪が止んでしまった。航ちゃんにすごかったねと言おうと思って顔を見ると、航ちゃんは泣いていた。私はぎょっとする。

「ど、どしたの?」

「ごめ……」

 航ちゃんは腕でごしごし顔を拭いてから、泣いたあとの顔で笑顔をつくる。

「なっちゃんのお母さんのこと、思い出しちゃって」

「お母さん?」

 航ちゃんは空の向こうを見るように、遠い目で空を見上げた。

「なっちゃんのお母さんが、『凪』って名付けたのは、どんな時でも穏やかで静かなしあわせを生きられるようにって願ったからなんだよ」

 お母さんは、私にあの時間が止まったような、静かな凪の中にいてほしいのか。たしかに、あの中は安全な気がする。何も怖いものがないような、静けさがあった。

「凪って名前は、お母さんが私を大好きって意味?」

「もちろんそうだよ」

 航ちゃんが目を細めて、にこにこ岩みたいな笑い方をする。

「なっちゃんが凪の中で暮らせるように、俺はなんでもするからね」

 インストラクターさんが心配したのか、ゆっくりこちらへ向かっている。私の名前にお母さんの「大好き」が込められていると知って、お腹の中がほかほかあたたかい気持ちになった。

 なのに、航ちゃんの「なんでもする」っていう言葉になんだか、凪から外へは行っちゃダメって言われた気がした。


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