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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第三章 橋を架ける謎解き宝探し

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3

 ふと目が覚める。

 まだ窓の外は真っ暗だ。

 航ちゃんは隣で、いつも通りいびきをかいている。妙に目が冴えてしまったので、大地にメッセージでもしようかと思ったが、さすがに迷惑な時間だ。

 私は少し考えて、夜のアクアマリンを散歩してみることにした。

 だって、こんなに綺麗なところに泊まるのは初めてだ。いろんな時間に歩いてみたい。

 航ちゃんを起こさないように、そうっと部屋を出る。

 廊下は少し暗かったが、螺旋階段の下のリビングには橙色の電気がついていた。

 吹き抜けによく知っている音が響いている。

「連続26打席ノーヒットが続く大谷選手。今日こそはと、こちらが意気込んでしまいますね」

 野球中継の解説者の声だ。

 螺旋階段をゆっくり下りていく。

 リビングの大きなソファに、若いお兄さんがスマホを見ながら座っていた。

 受付をしてくれて、大福を持ってきてくれたり、案内をしてくれた髪の短いお兄さん。

 たしか名前は、晴真くんだ。

 晴真くんが私に気づいて、ぱっと顔を上げる。

「あ、凪ちゃん、こんばんは~」

 こんな時間にウロウロしていたのを怒られなくて、ほっとする。

 にぱっと明るく笑うお兄さんの顔は、ちょっと大地に似ている気がした。大地が大人になったら、こんな感じかな。

「眠れない感じ?」

 私は小さく頷く。夜だから大きな声は出しちゃいけない気がした。

「じゃあ眠くなるまで、一緒に野球でも見る?」

 晴真くんは隣の席をぽんぽんと叩いて、こっちおいでと合図する。

「良かったら座って。今、良いところなんだ」

 スマホを見せてくれる晴真くんの隣に、ちょこんと座った。

「晴真くんはお仕事中じゃないの? さぼっちゃダメだよ」

 ぱちくりと瞬きした晴真くんは、すぐに笑う。

「仕事がないときは、自由にしていてもいいお仕事なんだよ」

 からっとさっぱりした答えに、そういう仕事もあるのかと知る。

「凪ちゃんは野球好き?」

 大得意な話題を振られて嬉しくて、つい自慢げに言ってしまう。

「習い事で、野球をやってる」

「え、マジで? すごいじゃん。じゃあ、大谷選手は好き?」

「大好き」

「だよね!」

 彼が野球好きと知って、すぐ仲良しな気持ちになる。二人で大谷選手の行方を見守っていると、ついにツーベースを打ってくれた。

「っしゃ!」

「やった!」

 晴真くんは慌てて口を手でふさぎ、私も真似する。

 二人でしーっと顔の前に人差し指を立てて笑った。

 だが、試合が終了してもまだ、目が冴えていた。

「はい、どうぞ。オーナーレシピのホットミルク! あ、アレルギーとかなかったよね? そんな情報はなかったけど、一応確認」

「大丈夫だよ。ないから」

「オッケー」

 晴真くんが作ってくれたホットミルクを、フーフーしながら口に運ぶ。

 温かいミルクは少しだけ蜂蜜の匂いがして、ふーと深く息ができる味だ。

 二人で一緒にホットミルクを飲み切ったとき、晴真くんが言った。

「まだ眠れないならさ、トランプしようか。心さんにおもしろいゲーム教えてもらったんだよね」

「心さんって誰?」

「このゲストハウス、アクアマリンのオーナー。えーと、一番偉い人かな」

 こんなにセンスが良い綺麗なゲストハウスを作った一番偉い人が心くんか。

 ちょび髭のハイセンスおじいさんをイメージする。

 きっとイギリス紳士的な、お金持ちのおじいさんだろう。

 晴真くんがトランプを持ってきて座り、私にカードの束を手渡した。

「まず、絵柄のカードを全部抜いて、数字のカードだけにしてね」

 言われたとおりにして、トランプを整える。

「そんでここから五枚引いて」

 トランプの束から五枚カードを引いて、ソファの前のローテーブルに並べる。

 数字は4、4、5、2、1。

「この5つの数字を足したり、引いたり、掛け算、割り算を使って、自由に計算するんだ。そんで、最後の答えを10にするゲームね!」

 一気に言われると難しい。

「どういうこと?」

「難しいよねー。俺もさっぱりで。でもさ、こういう頭を使うことをしたら眠くなるでしょ? 眠くなったらやめよ!」

 さっぱりとそう言う晴真くんはふんわりしていて、気が楽だ。

 眠くなるためにやることにする。

「私、頭使うと眠くなる」

「俺も」

 二人でそう言いつつ数字を見て、考え始めた。

 五つの数字を足したり引いたり掛けたり割ったりして10を目指すらしい。

「えーとね、コツは1を作ることなんだって」

「1? じゃあ4÷4で1?」

「それにしよう。4と4の二枚のカードを使ったら、1になった。よし、この1は『1くん』って名前にしよ」

「1くんって誰」

「まあまあ、とりあえず置いておいて。残りのカードは?」

「5と2と1」

「……5にはなんか掛けたい感じしない? 感覚的に」

「なんか掛けたい」のきちんとした理由はわからない。

 だが、私も5にはなんか掛けたい気がする。

 5は何を掛けても綺麗な数字になるから好きだ。

 頭の中で5と遊び始めると、ハッとした。

「あ! わかった! 5×2×1は10だ!」

 晴真くんがそれだと私を指さす。

「お、かしこい! 10×さっきの『1くん』で~?」

「答えは10! 五枚全部使い切った! やった!」

 二人でハイタッチしてスッキリ感を味わう。晴真くんがにんまり笑う。

「俺はもう一個のやり方を思いついた」

「もう一個って?」

「いくよ? 使う数字は同じ4、4、2、5、1ね」

 彼がテーブルの数字カードを順に指さす。

「5-2は3でしょ。3-1は2。で、2+4+4は10でクリア!」

「おーすごい! 違うやり方もあるんだ!」

 晴真くんがカードを揃えながら私を見る。

「そうなんだよ。なんか心さんが言うには『問題の解き方はひとつじゃないから』って」

「問題の解き方はひとつじゃないのか……うん、なんかそれって面白い!」

「だよね、俺もそういうのは好き。もう一回やる?」

「うん、意外と楽しい」

 彼と一緒に、私は眠くなるまで5つの数字ゲームをした。良い感じに眠くなってきてあくびをすると、晴真くんがゲームをおしまいにしてカードを片づけ始める。

「いっぱい解き方あったね。晴真くんと私、解き方がいつも全然違った」

「ふふっ、違う脳みそがある感じで面白かったよね」

「違う脳みそ、か」

 カードで硬くなった体でうーんと伸びをする。吹き抜けの高い天井が見えた。

 違う脳みそは違う考え方をする。

 そっか。だから私は、航ちゃんが先生と揉める気持ちがわからないのか。

 すっかり遊び友だちになった晴真くんに、私はこぼす。

「私ね、習い事で野球と水泳をやってるの」

「すごい、いっぱいだ」

「航ちゃんがなんでも好きなことをやらせてくれるんだ」

 水泳は前からやっていた。

 だけど野球は、お母さんがいなくなってから、習い始めた。

 航ちゃんは習い事をなんでもしていいって言ってくれて、誕生日旅行で好きなことをなんでもやらせてくれる。

「でも、どうしても、許してくれてないこともある」

 それが「林間学校」だ。

 航ちゃんは私が林間学校に行くのを反対している。

「何度も話してお願いしたんだけど、ダメなんだ」

 私がしゅんとした声を出してしまったからか、晴真くんの顔が硬くなる。

「それがどうしてもしんどくて。航ちゃんは大好きだし、なんとかしたいんだけど、お願いする以外の他の解き方がわかんない。脳みそが違うから、仕方ないのかな」

 会ったばかりの晴真くんにこんなこと言って困るかと思ったけど、一緒にうーんと考えてくれた。彼が私をまっすぐ見る。

「それってさぁ……ココロの謎って言うと思うんだ」

「ココロの謎?」

「こっち来て、凪ちゃん」

 晴真くんが立ち上がり、私を受付に連れて行った。

 受付のデスクにある小さな看板を見せる。

 その看板にはこう書いてある。

「謎解き、ご用意します?」

「うん、俺はこれを用意できないんだけど。凪ちゃんは三泊四日だよね。明日なら、うちの優しきオーナー、心さんがいるから用意できるよ」

 すごい。心おじいさんは、謎解きも作れちゃう、スペシャルハイセンスおじいさんなのか。

「心さんなら凪ちゃんの謎解き、助けてくれるかも」

「本当?」

「たぶんね。注文してみる?」

 考える間もなく答えた。

「うん、注文したい。謎解き面白そう!」

 彼は自信満々な笑顔で言う。

「だよね、きっとすごく面白いよ。心さんに伝えておくね」

 晴真くんが螺旋階段を一緒に上り、付き添ってくれて、部屋の前まで送ってくれる。

 行き詰まっていたココロの謎ってやつに、晴真くんが風を通してくれたような気がして、私はやっとぐっすり眠れた。


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