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給食の塩ラーメンの匂いが残る昼休み、五年三組の教室で幼馴染の大地とおしゃべりをしていた。
「凪は今週、誕生日だよな。パーティするの?」
「パーティじゃなくて、航ちゃんが岡山へ旅行に連れていってくれる! 海に近いゲストハウスってところに泊まるんだ!」
「さっすが航ちゃん、優しいな。まあ、見た目はプロレスラーみたいでちょっと怖いけど!」
「だよね~」
ガタイが良くて、顔もいかつい航ちゃんを思い浮かべて二人で笑う。
同じマンションの下の階に住む大地とは、保育所のころからの友だちだ。
大地は私の家の事情を、一番よく知ってくれている。
二人で話していると、同じクラスの梨々花が話しかけてきた。
「ねぇ凪、ママに聞いたんだけど。あんたのお父さんって『モンペ』なんだって?」
梨々花といつも一緒にいる子たちが、私を見てクスクス笑う。
「えー何それ、サイテーじゃん」
「カスハラってやつだ」
嫌なことを言われていることはわかったが、言葉の意味がわからない。
「モンペって何?」
梨々花が得意げに答える。
「モンスターみたいな親ってこと。先生に文句ばっかり言って、先生を困らせて、先生の時間を奪う迷惑な親って意味」
「まさか航ちゃんが、そんなモンスターだって言うの?」
胃に冷たいものが落ちると同時に、私は思い当たる。航ちゃんは家で何度も、私の担任の先生や、校長先生とまで電話で話しているのだ。
大地が口を挟む。
「航ちゃんは凪のことを心配してるだけだろ。航ちゃんのこと知らないくせに、余計なこと言うなよ梨々花」
「保護者懇談会で『林間学校の行き先を変えろ』だなんて、常識がある親が言うことじゃないでしょ。わたし、何か変なこと言った?」
梨々花が隣の女子に聞くと、彼女は素早く首を横に振る。
「わたしは常識的に言っているだけ、非常識で人に迷惑かけてるのはそっち。虐待とかされてない? わたしクラスメイトが事件に遭わないか心配なんだけど」
わたしって優しいでしょと言わんばかりに、梨々花が私を指さしてふっと笑う。
航ちゃんが先生たちと揉めているのは事実だ。
でも、航ちゃんは非常識でもないし、私に暴力を振るうだなんてありえない。冷えていた胃の中から、ぐっと熱いものが吹き上げたように、口から声が飛び出した。
「航ちゃんのこと、バカにすんな!」
爆発音みたいな私の声が教室に響くと、梨々花は怯んだように一歩後ずさった。
「わ……わーコワ、やっぱりモンペの子だわ。大声も服装も髪型も全部、男みたいで品がないんだから」
梨々花が背を向けて去って行く。
彼女のフリルの裾がおしゃれな服装と、揺れるポニーテール。
私のスポーティな服装とベリーショートヘア。
身だしなみの差さえ、品がないと罵られて、それ以上言い返せなかった。私は全部気に入っているのに、そう言われると少しへこむ。
大地が隣で、梨々花の背に言った。
「おい、梨々花。スカートめくれてるぞ」
「え!」
「ウッソだよ!」
梨々花が憤慨した顔で去っていくと、ちょっとすっきりする。大地がにっと笑った。
「気にすんな、凪。航ちゃんは良い奴だって知ってるだろ」
「うん……」
「旅行、楽しんで来いよな」
「ありがとう」
大地のおかげで、昼休みはなんとか過ぎていった。
午後の社会の授業が始まって、近ごろ多い熊の出没に関するニュースについて先生が話す。「熊が人里に下りてくるには事情があります」
航ちゃんにも、人に迷惑をかけてしまうほどの事情がある。
本当は私もわかっている。
航ちゃんは、ちょっとだけモンペだ。




