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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第二章 想いが重い宝石謎解き

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9

 私が腰を上げて、彼女と一緒にソファに座ったタイミングで、心くんが戻ってきた。

「話がひと段落したようなので、二つ目の謎を始めてもよろしいでしょうか」

「え、まだあるんですか?」

 瑞葉さんが目をぱちくりする。

「いくつかあるときも、ないときもあります」

 心くんは意味深に笑い、彼女に一枚の紙を手渡す。

 紙を見ると、以前も見た五十音表を使った解読謎解きが描かれている。私が瞬時に答えを口にしようとすると、瑞葉さんが私の口をぐっと塞いだ。

「待ってください、七瀬さん!」

 瑞葉さんは私の口を塞ぎながら、心くんの方を振り向いた。

「心くん、もしかしてこれは私のための謎じゃないですか」

 彼が素直に頷く。

「はい、先ほどの謎は七瀬さんがメインでしたので、次は瑞葉さんに謎解きを楽しんでもらおうと思って」

「ほら! 七瀬さん、ヒントがほしいって言うまで、何も言わないでくださいね」

「わかりました」

 私は肘に頬杖を突きながら、懸命に謎に取り組む彼女の横顔をのんびり眺める。

 久しぶりに彼女を穴があくほど見ることができて、懐かしい思い出が蘇る。

 イギリスで執筆しながら、息抜きに日本中の大福を通販購入していた。

 そんな折に、ネット販売限定の手づくり大福店にたどり着いた。瑞葉さんが運営していたネット店舗だ。

 彼女の作る大福が口に合った私は、大量購入の常連と化した。

 購入のたびに彼女に味の感想メールを送り、楽しげな返事をもらっていたのだ。

 そして、彼女が大福を作るたびに配信する作業動画を延々と見ていた。

 あの時の気持ちを思い出す。

 時折、彼女は「上手にできたよ」と、画面に向かってピースしてくれる。

 その笑顔がたまらなく、可愛かった。

 だから、海を越えて、スカウトするために、会いに行った。

「七瀬さん見てください、謎が解けました! 答えは『ゆるぎ石』!」

 にっと笑ってピースする彼女はあの頃のままで、私の胸をきゅっと掴む。

「はい、よくできました」

 そう言うと、彼女はもっと嬉しそうに笑った。


 心くんに見送られてアクアマリンを出発した。瑞葉さんの体調を確認しながら、二人でゆるぎ石という御神体がある岩上神社へ向かう。タクシーに一時間乗ってたどり着いたのは、竹林の奥にある小さな神社だ。

 神社自体に特段変わったところはないが、拝殿奥には巨石群がある。

 ゆっくり巡っていくと、御神体として祀られるゆるぎ石が現れた。

 ゆるぎ石の前に立った瑞葉さんはぽかんと口を開けて、その奇妙な石を見上げる。

「こ、これはどうして落ちないんでしょうか」

 長さが四メートルほどありそうな巨大な台石の上に、なぜかさらに大きい、五メートルはあるだろう巨石が重なっている。

 上に乗っている石の方が大きいのだ。

 さらに二つの石はべったり重なっているわけではなく、わずかな接点のみで、絶妙なバランスを保っているのだ。私も同意する。

「本当になぜ、この状態で留まれているのか謎ですね」

 記念にとスマホでゆるぎ石を撮影し始める瑞葉さんの隣で、私は心くんが出した第三の謎について考える。

「瑞葉さん、心くんが出した最後の謎の答えがわかりましたか?」

「『どうしてこの場所を紹介したでしょうか』ってやつですね。うーん……先に七瀬さんの意見を聞いてもいいですか」

 瑞葉さんが茶目っ気たっぷりに私を見上げて問う。彼女の頭をかき回して撫でたくなるのを堪えて答える。

「私と瑞葉さんの状態を見ていた心くんからの問題ですから、この石は私たちを示していると考えるのが妥当でしょう」

「ほう、それでそれで?」

「私が瑞葉さんに寄せる想いが傾き過ぎているので、気をつけなさいと警告していると受け取りました」

 瑞葉さんが、ふはははとお腹を抱えて笑う。

 そんなに可笑しいことを言っただろうか。

 笑いを収めた瑞葉さんは、私の冷えた手を握る。

「私は、私と七瀬さんは絶妙なバランスで成り立っている素敵な二人ですよって、心くんが言ってくれたように思いましたよ」

「それは私にとって……とても都合が良い解釈ですが」

 最悪を想定し続ける私にはできない荒技だ。

 けれど、その都合の良さを今は採用したい。

 私は今だって、自分が彼女に相応しいとは思えない。

 けれど、彼女が言うなら幽霊だって、「素敵な二人」だって、全て、信じたい。

 そう在れるよう、最大限努力したい。

「瑞葉さんの意見を、採用します」

「やりましたー! 七瀬さんより正解だなんて嬉しい!」

 心から朗らかに笑う彼女の手を握り返して、私たちは歩き出した。神社の静かな空気の中で、ふと竹林の香りが混じった風が私の前髪を撫でる。足が止まる。きょろきょろと誰もいないのに、あたりを見回してしまった。

「どうかしましたか、七瀬さん」

 何かが前髪に触れたような気がしたが、気のせいか。私は思い立って瑞葉さんに訊いた。

「テトは……今回のこと、何と言っていましたか」

 彼女は照れたように微笑む。

「良かったねって、喜んでくれています」

「テトに先に報告していたんですよね」

「え、あ……それは、バレてしまったというか。話を聞いてもらったりしていました」

 私がふがいないばかりに瑞葉さんが一人で悩んでいるところを、テトは支えてくれていたのだろう。

「瑞葉さん、今、テトはいますか」

「七瀬さんの背中にくっついて遊んでますよ」

 瑞葉さんはおそらくテトに向かって、くすりと笑った。私は背中にくっついているらしい彼に言った。

「テト、あなたが私より瑞葉さんに信頼されていると僻んだりしたのも、見ていたと思います」

 風が吹いて、竹林を抜けていく。瀬戸内の風が私の顔を少し、上げさせる。

「私には何もかもが欠けています。だから、瑞葉さんを支える手は多い方が良いです。これからも瑞葉さんを、よろしくお願いします」

 どこにいるかわからない。本当にいるのかもわからない。けれど、瑞葉さんに見えるテトは、彼女の支えになる。

 テトは私が誰よりも信頼している男だからだ。

「いいよーって、言っています」

 瑞葉さんが通訳してくれる。

「軽いですね」

「テトくんはいつも軽いですよ?」

 ゆるぎ石のような、私たちの絶妙なバランスには、きっとテトの存在も関わっている。私たちにはテトが必要だ。

「では帰りましょうか」

「どこかで大福をお土産に買います?」

「買います」

 笑う彼女と手を繋いで、神社を後にした。


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