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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第二章 想いが重い宝石謎解き

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7

 一階に下りると、お土産に和菓子を買い求める人の列ができていたので、そこへ二人で並ぶ。

「七瀬さん、本は買う派ですよね? 僕は図書館が好きですが」

「図書館は調べもので使います。ですが、やはり新刊は大量にチェックしますね」

 最後尾の私たちが本について話していると、心くんの背中にとんと誰かがぶつかった。

「あ、すみません」

 澄んだ高い声に、女性であることがわかる。狭い店内の列を詰めようとしてぶつかったのだろう。心くんが振り返る。

「いえ、大丈夫、で……す」

 心くんの言葉が途切れ、彼にぶつかった女性と目が合って、間ができる。どうやら知り合いのような反応だ。

 ショートボブの細い髪がさらりと揺れた若い女性は、まるっこくてやわらかそうな顔に、そばかすが印象的である。

「瀬戸さん……こんにちは」

 心くんの声は絞り出したように頼りなかった。

「あ、心さん……ぐ、偶然ですね」

「そうですね」

 二人の間に妙な緊張が漂っているのを察する。彼女は友だち連れのようで、友だちに「知り合い?」と聞かれて「店のお客さん」と短く答えていた。

 心くんは前へ向き直り、そのあと二人は互いに話しかけることはなかった。あからさまにお互い意識しているのに、言葉を交わさない理由はなんだろうか。

 心くんは私との会話もなくなるほど、表情を硬くした。

 私たちの順番が回ってきたので、私は注文を始める。

「これと、これと」

 瑞葉さんの体調が安定しないので、大福はしばらく作らなくていいと言ってある。その間を持たせるために、お土産用にたっぷりと大福を購入する。

 後ろにいる瀬戸さんの友だちが私を見て「ものすごく買うね」と笑っていた。店で買い物をするとよく言われる。

 心くんと瀬戸さんは通りすがりに会釈しただけで、店を出る。タクシー乗り場まで歩く道すがら、私は問いかけた。

「瀬戸さんは元カノですか?」

「いえ、違います」

 心くんの口がやっと開く。

「彼女は岡山駅前のツタヤ書店に併設されたカフェの、店員さんです」

 そういえば彼女も、心くんをお客さんだと言っていた。

 気になった私はすぐに、スマホを開いてマップを検索する。

「そのカフェによく通っていたのですか」

「そうですね、一時期は……」

 心くんは前を向いて歩きながら、ぼんやり思い出すように話す。検索したマップを見せながら彼の隣を歩き、止まらない考えを口にする。

「心くんの住居はアクアマリンの近くだと、以前言っていました。つまり、最寄りの図書館は瀬戸内図書館です。しかも小さな書店なら瀬戸内市内にも、いくつかあります。岡山駅は意外と遠いですし、この書店は新刊販売がメインです。図書館派の心くんが、わざわざ、そこに通う特別な意味がありそうです」

 心くんが目を細め、私をじとりと見る。

 また、引きますと言われるのだろうか。

「こうなったらどこまで当てるのか知りたくなりました。続けてください」

 許可が出たので続ける。

「では続けます。あなたは彼女に会う目的で、岡山駅前の書店まで通っていたのでしょう。あなたのことですので、人当たりの良さで、彼女ともおしゃべりできる関係だったと考えられます。しかし」

 心くんの黒目がちな目が、私をまっすぐに見つめている。

「事故で記憶が飛んだ日を境に、彼女の様子が先ほどのようにぎこちないものに変わった。それが、あなたの一番の謎では?」

 はあと大げさにため息をついた心くんが、お手上げとばかりに秋空を見上げてしまう。

「七瀬さんに隠し事なんてできなさそうです。今回は全部正解。僕もミステリーが好きなんですけどね。さすが本職には敵いません」

「ありがとうございます」

 私は彼のように社交的ではないので引きこもって字を書いているのだが、そう言われるのは悪い気持ちではない。心くんは胸に手を当てる。

「今、ミステリーでよくある、探偵に追いつめられる犯人の気持ちになりました」

「どういう気持ちなのでしょうか」

「抱えた秘密を解かれて、なぜか少し……見つけてもらえたような感じです」

 心くんは穏やかな顔で前を見て歩く。

「見つけてもらえた、ですか。私にはない発想です」

 もしかして、瑞葉さんも「見つけてもらいたい」気持ちがあったりするのだろうか。大通りへ向かいながら並んで歩く私たちの間を、瀬戸内の海からきただろう、あたたかな風が通り抜ける。

「謎を解かれてほっとするということですね。そう褒めてもらうと、空白の一日の謎をさらに解きたくなりました」

「ダメでーす」

 心くんが軽く言うので、私も軽く返す。

「では解いてみて、心くんにとって都合が良さそうだったら、開示するのはどうですか」

「それ、なかなか融通が利いていいですね」

 二人でお互いの都合のよさに笑いながら、大通りに出る手前で、昔ながらの不動産屋の前を通る。

 店の前を通りかかったときに、自動ドアが開いた。

 何気なく顔を上げて不動産屋のドアを見ると、そこに瑞葉さんが立っていた。

 私は足を止める。

「待ってよ、お姉ちゃん。あ、七瀬さんじゃない」

 瑞葉さんの後ろから出てきたのは、妹の陽菜さんだ。

 彼女が私を指さして止まる。

 私と瑞葉さんは目が合ったまま動けない。

 不動産屋と瑞葉さん。

 私にとって最低の組み合わせだ。陽菜さんは引っ越したばかりだと聞いている。陽菜さんは不動産屋に用がないはずだ。家を探していたのは瑞葉さん、ということになる。

 彼女が日本に住むための新しい家を求める理由は、私と別れて暮らすためだ。

 私は瑞葉さんの言葉を聞けなかった。

 聞きたくなかった。

 だから先に言葉を立てる。

「イギリスはもう嫌でしたか」

「ちが……!」

「そうですか、では、不要なのはやはり、私ですね。そうなら、そうと言ってください。引き延ばすのは優しさではありませんよ」

 私は彼女の顔も見ず、溜まりに溜まった言葉を吐きつけてしまう。決定的な別れの証拠を眼前に、自分の衝動が止められなかった。

 もうここにいたくないと、背を向ける。

 瑞葉さんはもちろん、心くんすら置き去りにして、宿へと逃げ帰った。


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