判明! 丸太至上主義の背景!!
その場は不気味な沈黙に支配されていた。
その原因は勿論本部のソファーに我が物で腰掛ける肥満男性。樹々茂に他ならない。
「さて、一体どこから語ったものか。ああ、私が【アスガルド・バイオテクノロジー】を離反した事から話そうか。どうだね? 諸君らもこの名前には耳に覚えがある事だろう」
「【アスガルド】を……離反?」
讃岐さんは驚愕の声を漏らした。しかしそれも無理なからぬ事。その【アスガルド・バイオテクノロジー】こそが僕たち【AMT】の支援者なのだから。
「……裏切り者」
僕はボソリと呟く。
思えば御老公は村長の事を『裏切り者』と、そう呼んでいた。
それはきっとこの離反の事を指していたのだろう。
けれど何故。何故人類の文明を進化させる側だった村長は退行の道へと走り始めたのか。それだけが分からない。
「そもそも【アスガルド・バイオテクノロジー】は人類の文明を進歩させるべくたった二人の研究者が立ち上げた組織なのだよ。そして、その研究者の片割れこそが――この私、樹々茂という訳だ」
「貴方が【アスガルド】の設立メンバーだって!?」
「そうとも。いやぁ、実に、実に懐かしい。あの頃の私は人類の発展を願い、愚直に研究を行っていたものだ。どうだね、心底馬鹿馬鹿しいとは思わないかね?」
過去を思い出している村長の顔は……とても憎々しげで、思い出したくもないと言った風だった。
「……いいえ。僕はそうは思えません」
僕がそう言うと村長は目を細めた。
「ほう、面白い事を口にする。ああ、あの男も…… 楠世界も同じ事を言っていたか」
「楠……世界?」
その名前を耳にした瞬間、また頭がズキリと痛んだ。
全く知らない名前なのに、どこか懐かしい気さえする。
「諸君らが御老公と呼ぶ人物であり【アスガルド】のもう一人の創設者。いや、【丸太至上主義】を作る原因となった人物だ」
「貴方が、全ての黒幕……ではないと?」
「そうとも。……奴は賢い男だった。しかし、同時にどうしようもなく愚鈍な男だった。この村で丸木杉を研究していた頃に奴は言った。『この植物をこの世界に存在させてはならない』とね。ああ、思い出すだけで悲しい気分になる。奴は手前勝手な理由でこの世界に存在するこの樹を、絶滅させようとしたのだッ! そこで私は決意した! 認識した! 理解した! 人間はこんなにも手前勝手に振る舞う。傲慢に、残酷に、狂気的にッ!! 故に私は人類の失敗を確信したのだ。だからこそ、人類は傲慢を知る前に、要らぬ知恵の実を食す前に退行せねばなるまい。だからこそ私は拳を振り上げたッ!!」
楠世界は丸木杉を――絶滅させようとした? 数多の疑問が頭に浮かんでは消えていく。
けれどそれよりも。
一方的に悪と断じていた物が崩れたような気がして、それだけのことがひたすら怖かった。
「さて、その上で問おうじゃあないか。諸君らは一体どちらの側に付くんだね? 【アスガルド】に付いて間違いを犯し続けるのか。それとも、【丸太至上主義】の尖兵となって我々と共に、世界と――人類と戦う同志となるのか。さあ、答えてみたまえ」
村長は射抜くような瞳を以って僕に問い掛ける。『お前はどちらに付くのだ』と。
「僕は――」




