強襲! 樹々茂!!
「これはマズイ事になったね……。枯葉クンはどうやら村長の雇った黒服に捕まってしまったらしい」
僕はその言葉を耳にして体が強張るのを自覚した。
枯葉が、攫われた? この【AMT】の本部で?
「嘘だろ……。【AMT】の本部の丸木人対策は万全の筈だぜ。それがどうして攫われるって事に繋がるんだよ」
そう、本部には丸太を踏まなければ解除不可能な対丸木人用のロックが掛かっている。
つまり丸太を崇拝する丸木人の侵入する可能性は絶無。例え場所が割れていたとしても枯葉が攫われるような事態は絶対に起きない筈なのだ。
「……監視カメラの映像を見れば分かるよ。村長が如何にしてこの対丸木人の封を破ったのかがね」
讃岐さんが手元のリモコンを操作すると巨大なモニターに監視カメラの映像が映し出された。
「なっ!? 嘘だろ!? コイツ――」
「丸太を、持ってない?」
そこに映っていたのは、丸太を手に持っていない男に袖を掴まれながらギャイギャイと騒ぐ枯葉の姿だった。
「彼は丸木人じゃない。きっと村長が外から雇ったんだろうね。だから対丸木人用の封が機能しなかった。これが答えだよ」
「にしても何で枯葉を……」
「それは今回の誘拐犯が丸木人じゃなかったからだろうね。丸木人だったら膂力任せに本部を壊滅させようとするだろうけど彼にはその力がなかった。だから場当たり的に非力な上一人でいた彼女を攫ったんだよ」
「そうなると、今回の誘拐は偶発的なもので、枯葉は行きつけの駄賃代わりに攫われた……って事ですか」
「……断定は出来ないけどね。それにちょっとこの一件でマズイ事も分かっちゃったんだよね」
「本部の位置が敵にモロバレって訳だ。畜生ッ!!」
基地に侵入された挙句枯葉が攫われたとなると現状は深刻極まりない。
何せこちらの戦力は僕、朽木、讃岐 さんの三名のみ。その上、讃岐さんは負傷中、朽木に至っては戦えば命が危うい。
「…… 僕が、枯葉を助けに行きます」
なら、僕が出るしかない。多数の丸木人との戦闘があるだろうけど、幸い僕のペンドラゴンならばある程度の数的有利も覆すことも可能だ。
「俺も出るぜ。ここで出ねぇと『ラグナロク』自体がおじゃんだ。ここで出し惜しみなんて出来る訳ねぇだろうが」
讃岐さんは俯きながら唇を噛み締めた。
「正直、君を出すのは今でも反対だ。けど、そうも言ってはいられない……か。分かったよ。二人で枯葉クンを救出して――」
「おやおや、中々に面白い事を話しているじゃあないか。全丸木市民を前にたった二人で対抗させるとは」
それは、酷く楽しげな声だった。例えるならばそう、猫が反撃出来ない鼠をいたぶるような。
己の絶対的な有利を確信しているかのような、そんな声色。
思えば、この男は絶対に来て欲しくない場面になると必ず現れる。
この男――樹々茂は。
「ああ麗しき神々の住まうアスガルドよ、私は警告する。私は汝を征服すべき来たれり」
ニヤリと粘着質な笑みを浮かべるその様は正に狂気の世界の住人という言葉が相応しい。
その場に居るだけで、背筋が凍りつくようだ。
最悪という言葉がこれ程までに似合うシチュエーシ ョンもそうそうあるまい。
「クソが……ッ!!」
吐き捨てる様にそう口にするが早いか、朽木の手の中では彼の代名詞とも呼べるチェーンソー【フォリウム】が低い唸り声を上げていた。
正に、一触即発――
「――とは言え。これでは余りにもつまらない。こんな児戯のような演出は退屈極りない。そうは思ないかね?」
「は?」
村長はごくごく普通に話をしていた。……但し、素手で【フォリウム】を受け止めながら。
「まさかこの程度で私を倒せると思ったのかね? この程度で私を止められると思ったのかね? ――笑止、 笑止、笑止ッ!!」
【丸木村】はかつて鬼の棲む村だとされて来た。
では その村の長は? 人間足り得るのか?
否だ。人間である筈がない。
鬼の村の長の本質は、やっぱりどうしようもなく鬼なのだ。
「さて、今回私は大切な話をしに来た訳だ。無論この場で諸君らを嬲る事は容易い。けれど、それを今回に限って態々見逃すつもりでいる。場合によっては枯葉君も開放しよう。どうかね、話し合いのテーブルに着くつもり はあるかね?」
「テメェ……ッ!!」
「ストップだ。朽木クン。今の僕たちには勝ち目は無いよ。……勇敢と蛮勇を履き違えちゃいけない」
尚も【フォリウム】を稼働させ、再び攻撃しようとする朽木を讃岐さんはそう制した。
「実に賢明な判断だ。私はその判断を賞賛しよう」
「それで、村長。話とは?」
「この世界の功罪を、この世界の終焉を、新世界の創造を、或いは愚かしい人類の進化の否定を。凄絶に、饒舌に、声高に、語りに語ろうじゃあないか」




