解説! 丸太至上主義!!
丸太至上主義。それは丸木村に蔓延する奇妙な思想。
それは日常生活にまで浸透しており、丸太の無い光景はこの村に於いては稀な程だ。
遂にその正体が明かされるのかと思うと自然に背筋が伸びた。
『丸太至上主義。その正体は――丸木杉の花粉を……【丸木症候群】を利用した、凶悪な洗脳だ』
洗脳。その言葉に皮膚が粟立つ。
『そもそも【丸木症候群】とは先ほども言ったように脳の変異疾病だとは言え原因はただの花粉。変異と言っても丸木杉を守ると言う観念を植え付けるに留まる』
……植え付けるに留まるとは言え、それだけでも結構危険なものなのではなかろうか。
そう考えたのは枯葉も同じようで、ピシッとその場で挙手した。
「それだけでも十分危険ですよっ!? え、でも、あれ。それが丸木村以外に生えてたらとっくにこの国は夢と丸太の王国になってるんじゃ……」
「いいや、枯葉クン。それは出来ないよ」
しかし、讃岐さんは研究者然とした態度でそう断じた。
「確かに丸木村以外にこの樹が生えていたなら全国的なアウトブレイクは免れない。けど、そうはならないからこそこんな生態を持っているんだ」
この国は当然ながらアウトブレイクになどなってはいない。それは丸木杉がこの村にしか生えていないから。
なら導き出せる答えは――
「生存競争に於いて、丸木杉は弱かった?」
僕がそう言うと讃岐さんは「正解」と言って笑みを浮 かべた。
「丸木杉が全国に広がらなかったのは生存能力が他の植物と比べて数段劣るからなんだ。花粉の飛距離は極々短く、湿気、紫外線に弱い。その上加工される前の本体は傷つくと直ぐにその部分が腐食する。だから、他の生態系では生存出来ない。他の生物に守ってもらうしかない。だから脳変異の花粉を持っているんだ。これで、自発的に丸木杉を守ろうという意識を植え付けてやればどれだけ脆弱でも生存自体は可能だからね」
「何だか思ったよりも弱っちいですね。丸木杉」
見事な手のひら返しだった。その様はいっそ清々しささえ感じられる。
「でも、丸木杉を守りたいって観念を植え付けるにしてもこんな風になるものなんですか?」
それはちょっとした違和感だった。
今の説明の通りで あるならば丸木杉を神樹と崇めるのは理解出来る。しかし、それが他の植物……丸太にまで及んでいるのは、ちょっとおかしい。
それに、確かに丸木杉は危険な植物なのかもしれない。けれど、多くの村民を丸木人に変えてしまうような凶悪極まりない植物には思えなかった。
「それは絶対に無い。断言出来るよ。だから、そうなるように仕向けた人間がいる」
そこまで言うと讃岐さんは再び画面に視線を向けた。
『然り。その狂気の男こそ樹々茂。丸木村現村長だ』
半ば分かっていたこととは言えいざその名前を耳にするとやはりゾクリと身体が震えた。
『奴は自身が思い描く理想の世界を作るために丸木杉 の花粉を改造し続け、耐性の無い者が吸い込むと思想が丸太化する凶悪な生物兵器を完成させようとしている。 そして、奴の理想とは――』
村長の理想の世界。僕には思い当たる節があった。
……今思えばあの言葉は全部本心からの言葉だった のだろう。
「糞のようなプラスチックや金属を捨てて木目と温かみに溢れる世界を作ること、ですね」
僕がこの村に来た初日、村長は確かそう言っていた。
文明の進化の上で胡座をかいている連中を叩き起こすとも言っていたっけ。
だからこそ讃岐さんは村長の事を『時代に取り残された敗北者』と呼んだのだろう。
『そうだ。奴は人類の進化を否定し、電子機器及びプラスチックを全く使わないアーミッシュのような生活を送る人々のみで構成された世界を作ろうとしている。そしてその足掛かりこそがこの丸木村という訳だ』
「つまり、丸太で世界征服をしようとしてるんですね! ……あれ、丸太って世界征服出来ましたっけ」
……それを言い始めたら負けだと思う。
『奴は改悪した丸木杉を基にした生物兵器――【ユグドラシル】を完成させつつある。もし、それが世の中に流れてしまったなら世界は瞬く間に丸太に染め上げられてしまうだろう。故に、我々は丸太至上主義に断固として反抗する。否、しなければならないのだ』
「でも、一体どうすれば丸太至上主義に対抗できるんだろう」
僕がそうつぶやくと今まで沈黙を守ってきた――いや、 今の今まで寝こけていた朽木が口を開いた。
「そんな事決まってんだろ。――【神樹祭】当日に決行される大反抗作戦【オペレーション・ラグナロク】。こい つで気色悪い洗脳を一気にぶっ壊してやるんだよ」
「…… ラグナロク」
ラグナロク、それは北欧神話に於ける終末の日の事だったか。
『【オペレーション・ラグナロク】。それこそが我々の最終目標にして悲願。【神樹祭】当日、我々は集った村民達に対し大規模の【マルタナティブ】を実行、村民を正気に戻した後、村長――樹々茂を強襲。これを撃破する事で丸太至上主義にピリオドを打つ』
画面の中の男がそこまで説明すると「はいはいはー い!」と枯葉が手を挙げた。
「それって何で【神樹祭】の日にやるんですか? もっと早いうちにバァンとやっても良いと思うんですけど」
確かに【神樹祭】まで引き伸ばしにしてしまえばその 間に丸太至上主義者が増えるのは必定。総力戦が大きなハードルになる事は間違いない。けれども。
「いや【神樹祭】の日で正解だよ、枯葉」
「ほぇ?何でなんですか?」
「【神樹祭】には殆どの丸木人が参加する。一気に叩くならそっちの方が好都合なんだと思う。それに下手に丸木人を残すと折角やったその……【マルタナティブ】がまた上書きされる可能性がある」
資料館で村長に合った日、村長は言っていた。丸木人は【神樹祭】を前時代的と廃絶しようとした村民を容赦無く村八分にしたのだと。
この事からは丸木人の【神樹祭】に対する執着がありありと見て取れる。
だから、丸木人ならこの祭りには必ず行く筈だ。いや、寧ろ【神樹祭】に丸木人が全員集結しない場面を想定する事が出来ない。
だからこそ、一網打尽にする作戦には【神樹祭】当日が一番最適な訳だ。
『さて、最後に戦士達に相応しい装備を提供しよう。再度すまないが、朽木』
「あいよ」と言うと朽木はまたまた何処からか黒くて巨大な箱を取り出した。
それはテレビドラマでもそうそうお目にかかる事は無いであろうガンケースだった。
『その中には我々が開発した対丸太特化型ライフル……アンチマルタライフルとも言うべき代物が収納されている』
そう言うが早いか、枯葉はサッとアンチマルタライフルの収納されているケースに手を伸ばした。その速さは正に強風に吹かれて舞い散る枯葉の如く。驚きの反射神経だ。
「私、これ使いたいですっ!」
『……誰が使うかはそちらに任せよう。存分に活用してくれたまえ。そうそう、【AMT】本部にある備品はどれでも好きに使えば良い。状況に合わせて有効に使うことだ』
最後にそう言い残すのと同時に画面は暗転した。
「ってな訳だ。俺達で村長をブッ倒して、丸太至上主義 を打ち砕く。そんでもってこの世界をドンと救ってやろうじゃねえか!!」
朽木の掛け声に合わせてその場の全員が拳を掲げる。そこにはたった一つ、同じ決意があった。
―― 丸太至上主義をぶち壊すのだと言う、そんな熱い決意が。




