入団! 【AMT】!!
「着いたぞ、ここが【AMT】本部入り口だ」
黒服との戦闘を終え、僕は朽木に連れられて【AMT】本部入り口に来ていた。
「ここが【AMT】の入り口……」
【AMT】の本部はなんと丸木村では平凡な丸太組みの家……の地下にあった。
丸太を隠すなら丸太の中、とは違うだろうがこれには少し驚いた。
しかし丸太なのはその外見のみ。地下への階段は村ではまず目にする機会の無い銀色をしていた。
「……金属を見るのが久しぶりって感じる僕は末期なのかもしれない」
「お前は一体何に感動してるんだよ。良いからさっさとついて来い」
そうどやされながらも朽木の後ろを付いて行く。
先程まで戦闘を行なっていたのが祟ったのか僕の歩みは遅々としている。けれども朽木はそれを叱咤する事はしなかった。
暫く歩くといきなり近未来的な感じの扉が現れた。
そして……その足元には踏み絵のつもりなのかは分からないが丸太を模った足場がある。
朽木は慣れた様子で思いっきり丸太を踏んづけると、酷くあっさりと扉が開いた。
てっきり虹彩認証とか暗証番号やなんかがあるものだと思っていたからこれには少し面食らった。 けれどよくよく考えてみると、丸木人が床に使われている丸太以外を意図的に踏むシーンに遭遇した事はないし、この村に於いては合理的な施錠方法なのかもしれない。実に頭がおかしい。
僕も朽木に倣い丸太を思いっきり踏み付けた。この野郎、散々執拗に追いかけ回しやがってと怨嗟を込めながら入念に。
すると、僕を歓迎するかの様にドアが開いた。
「これが【AMT】、反丸太勢力の内部だ。右手にあるの が医務室、そんで正面が――」
「樹さぁぁぁぁあんっ!!」
ドンッと腹部に衝撃が走った。
何事かと思って腹部を見るとそこには腹部にしがみつく枯葉の姿があった。
「本当に、本当に心配しました……っ! あれから樹さんが黒服さんの極太丸太を教え込まれちゃって。それで、 丸太の悦びを知った樹さんは極太丸太が無いとダメな 身体になっちゃうんじゃないかって、凄く不安だったんですよ!!」
……高速詠唱だろうか。
「まぁ、うん。どうにか丸太にならずに済んだよ、ウン」
「あ、因みに私も【AMT】に入る事にしたんですよ! 隠れたりするのは得意ですから影ながらバンバンサポートしちゃいます!」
「お、おう」
知ってる人がメンバーにいるのは単純に嬉しいのだけれど、それが枯葉となると心象的にあまり喜べない自分がいた。
「やっぱり君タチは仲が良いね。ウンウン、仲良き事は美しきかな」
「あなたは……!」
耳に響くのは低く、落ち着いたテノール。 間違い無い。間違える訳が無い。だってその声は――
「やぁ、何だか僕だけボロボロだけどまた会えて良かったよ。いやぁ、柊クンを怒らせて話を有耶無耶にしてやろうと思ったらこの様。情け無い話だけど自分を勘定に入れるのをすっかり忘れてたよ」
あっはっはと自嘲するその男性は、資料館の職員にして僕たちを逃すために自らおとりになった讃岐風太郎さんだった。
「まさか、讃岐さんも【AMT】に?」
そう尋ねると意外にも讃岐さんは表情を陰らせた。
「そうなるのかな。個人的にはちょっと思うところはあるけどね。……と言うのもこの丸木村でこれだけの施設を構えられる組織だと考えると安易に首を振る事が出来なくてさ。何か、強大な力が裏にあるんじゃないかって、そう思えてならないんだ。まあ、どの道僕に行き場はないから結果的には加入せざるを得ないのだろうけどもね」
そこまで言うと今度は朽木が口を開いた。
「歓談の最中に割り込むようで悪いけどよ、そろそろ中継が繋がるからミーティングルームに移動するぞ」
「中継? 一体誰と?」
「そこのメガネが言ってただろ? ウチのスポンサー、【AMT】の裏にいる強大な力ってヤツ。その当のご本人様だよ」
ミーティングルームに移動するとその中央に巨大なモニターが鎮座しているのが見えた。
「あともう少しか、取り敢えずソファーに適当に座って待ってろ」
朽木はそう言うと慣れた動作でどっかりとソファーに座り込んだ。
ああソファー、何と甘美な響きだろうか。 学校でも、寮内でも、クッション付きの木製の椅子や切り株やベンチにばかり腰掛けていたからあの柔らかな質感が恋しくて堪らない。
「うわっ! このソファーとってもフカフカですっ!」
「そうだねえ。作りもかなり上等そうだ。僕としてもこれはかなり嬉しいな」
枯葉はソファーでピョンピョンと跳ね、讃岐さんはゆったりと腰掛けながらほうと溜め息を吐いた。とても平和な様子である。
平和ではあるのだけど、朽木は一人で結構な面積を取っているし、讃岐さんは兎も角枯葉がピョンピョンしてるから座りたくても座れない。
「…… 枯葉、一回落ち着こう」
「いいや無理ですねっ! 心がとてもピョンピョンしますから、それを身体で表現せずにはいられませんっ!」
「はったおしてやろうか」
と、そんな風にギャイギャイと騒いでいると件の巨大なモニターに一人の男性のシルエットが映し出された。
『聞こえているか、未来ある若人達よ。【AMT】の戦士達よ』
威厳と老練を感じさせる低く重々しい声。僕は直感的に理解する事が出来た。
この人こそがこの【AMT】の主なのだと。
「おう、聞こえてるぜ。アスガルドの御老公」
「アスガルドだって……!?」
朽木の言葉に讃岐さんにしては珍しく驚いた様子でそう口にした。
「その、アスガルドって何なんですか?」
「アスガルドって言うのは『アスガルド・バイオテクノロジー』の事だよ。その道を少しかじった人なら知らない人は居ない……世界規模の企業さ。でもそんなビッグネームが何でこの村に……」
いきなりスケールの大きな話になり思わずゴクリと生唾を飲み込む。
『ほう、博識な事だ。いかにも、我々は【アスガルド・バイオテクノロジー】。【AMT】のスポンサーにして丸太至上主義に断固として反抗する者達の集まりだ』
……世界規模の企業が恐れる丸太至上主義とは一体何なのだろうか。
『さて、話をする前に先ずは錠剤を飲んでもらいたい。朽木』
御老公がそう言うと朽木はどこからか茶色い瓶を取り出した。
当然、中には錠剤が大量に入っている。そして……僕はその瓶に見覚えがあった。
「この薬は……!」
【C501】とラベリングされたその薬は、僕が毎日服用している薬と酷似していた。
『その薬は【C501】。【丸木症候群】に対抗出来る薬だ』
母さんは免疫力を高める薬だと言っていたけれど、まさか【丸木症候群】に対抗する為の薬だとは思いもしなかった。
「言っておくけど、毒じゃねぇからな。と言うか、これ を飲まねぇと最終的には丸太至上主義に呑まれるぞ」
そう言うと朽木は瓶から一錠取り出すと慣れた動作でひょいと口の中に放り込んだ。
「うきゅう……。話が飛び過ぎて理解が出来ないです……」
「【丸木症候群】に対抗……にわかには信じられないな」
枯葉は目をバッテンにしながらその場で項垂れ、讃岐 さんは懐疑的な視線を画面へ向ける。
「そもそも、【丸木症候群】は神樹の花粉によって発症する空気感染性の脳の変異疾患のはずだ。それに対抗出来る薬だなんて……」
『ふむ、言っていることは正しい。確かに【丸木症候群】は空気感染の脳の変異疾患だ。言うなれば空気感染するプリオン病。現代の科学技術ではまず回復不可能とされている』
なら、と讃岐さんは食い下がったけれど画面の中の人物は動じる事なく続けた。
『しかし、【丸木症候群】を無効化する事自体は可能だ。世界に誇れる【アスガルド・バイオテクノロジー】の技術を侮って貰っては困る。我々は苦節の末、【丸木症候群】を反転させる技術【マルタナティブ】を完成させ、それを錠剤とする事に成功した。それがこの【C501】だ』
「えっと、反転……ですか?」
クエスチョンマークを頭上に量産する枯葉に朽木は捕捉する。
「要するに、脳みそがおかしくなっちまったら同じ部分を同じだけ逆方向におかしくすれば帳尻は合うってだけの話だ。」
成る程、考え方としては至極単純な訳だ。曲がったなら同じ分だけ曲げ返す。双方の力が釣り合えば、それは 実質足し引きゼロ。事実上、【丸木症候群】を無効化出来ると言う事になる……と言った感じだろうか。
「何てめちゃくちゃな……」
『無論、他にも方法はあるがそれには長い適応期間が必要になる。この場で【丸木症候群】に対応するには【C501】の服用以外に手は無い。飲まないのは勝手だが、君もあの醜悪な思想の内に埋没したい訳では無いのだろう?』
そう言われると讃岐さんは苦い顔付きをしながらも薬を飲んだ。それに倣って枯葉も薬を飲む。
「それで、取り敢えず飲んじゃいましたけど、結局これから何の話をするんですか?」
『それは――無論、丸太至上主義の実態と、裏切者……樹々茂の大それた陰謀について以外はあるまい』




