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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
帝国騒乱編
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旦那様の好きな色

 

「この布はいかがでしょう?ミレイア様、厚手の生地で暖かそうですよ。」

「丈夫でよさそうだけれど、仕立てあがる頃には春になっているではないかしら?」


 ダルタン・ムーアの峠は越え、まだまだ寒くはあるが、人々は春を迎える準備を始めている。

 今日、村に行商人が来たのもこのためだ。その行商人の中で布を商う荷馬車を、丸ごと庭に連れ込んで、先ほどから皆で、布を眺めている。


「へい!毎度あり!」

 村人では買えない様な、高価な布をガンガン買ってくれるとあって、行商の主人の表情は緩みっぱなしだ。


 買うと決めた分の布が、どんどん積み上がっていくのが、先程から、気になって仕方がない。

「カイル…買いすぎではない?」

「いえ、ミア様は、こちらに来てからの短い間にも、どんどん成長しています。もっと沢山仕立てなくては。…ああ、そちらの布は上等ですね、王宮に行く服も仕立てられそうです。」

「まあ、きれいな布が沢山あるのね、こちらの青い布も、染め色が素晴らしいわ。ミレイア様にぴったりですわ。」

「ルシアまで…。唯でさえ、ドレスをいっぱい作ってもらってしまっているんだから、普段の服はそんなに沢山は要らないわ。」

 ルシアまで、次々と布を選別している。…買う方に置く布の方が、多くないか?


「ご安心ください。旦那様からは許可を貰っています。この荷台すべての布を買っても、家計には響きませんよ。」

「ええ…本当?今までは無かった出費なのに?」

 私が来たせいで、この村の財政が…なんてことになったら辛い。


「我が家の…この村の財産貯蓄は、やたら多いのですよ。村の維持管理も生活費も、旦那様の騎士団からの給料で賄えてしまうので、村の税収はほとんど溜め込んでいたんですよ。旦那様がこの村を任されてから、ざっと十年分ぐらい。」

 カイルの説明に、私は驚く。


「小さな村といえど、それってかなりじゃ…」

「ええ、今では、税金自体を他所より安くしてはいますが、人が流れ込んできても困りますので、あまり下げることも出来ず、貯まる一方だったのですよ。」


 他所の貴族は、領地の城や、王都の邸宅なんかも管理しなきゃいけないし、使用人もいっぱいいるからね…。村の維持管理といったって、大抵の土木事業は魔法で出来てしまいそうだし。


「なるほど…、案外この規模が一番上手く行くのかもしれませんね。」

「ええ、後はこの貯まった税収を、少しは吐き出さなければなりません。沢山買って、余れば村人に回せばいいのですよ。ミア様が着れなくなったら、孤児院に下げ渡すでも、古着屋に売るでも、どうとでもなりますよ。」

「そういうことなら…」

 まあ、いいか。


 そう頷くと、カイルとルシアは、嬉々として、再び物色を始める。

 二人が楽しそうで、私は嬉しいよ…。


 …ルシアやカイルには、私が帝国に行くことはまだ話していない。

 何をしに行くかは、言えないだろうが、何日も留守をするのだ。旅の準備も、こっそり出来る訳もないから、そのうち話さなきゃならないけど…。


 ルシアは悲しむかな…、怒るかもしれない。

 カイルとロイには、また大慌てで準備をさせるはめになるかもしれない。



 ラグは今頃王宮で、任務の打ち合わせをしているはずだ。


 先日、ラグの昔の話を聞いて、色々と考えることあったが…、

 その一つに、金髪ひげ陛下に私はもっと感謝しなくてはならないのだろうか、ということがあった。


 ラグがあの境遇から、今の地位までこれたのは、おそらく陛下の力添えによるものが大きいのだろう。

 もちろんラグの強さと、人望のなせる技ではあるが、曰く付きの平民が、英雄になるというのは、自力では不可能だ。貴族が黙っているわけがない。


 ラグにとっては、きっと一番の友人で、かつ大恩人…、くそう。

 思わず口に出る。


「ラグにとって大事な人なら、大事にしなきゃ嫌われちゃうよね…。」


「ミア様?なんとおっしゃいました?…旦那様なら、ミレイア様が何を着ようとも、嫌いにいはなりませんよ?」

 カイルに聞かれてしまった。慌ててごまかす。


「わ、わかっているけど、…ああそうだ、ラグの好きな色は?せっかくならその色が良いな。」

 適当にごまかしたただけだったのだが、カイルはこの質問に考え込んでしまった。


「うーん、…何色が好きなんでしょう?

 普段の服は、白や茶色などの、シンプルな物を好まれますが…。」

「じゃあ、私の服もシンプルに…」

「そういうことではございませんよ。」


 ルシアにピシャリと言われた。


「小物とか、調度品とかで、旦那様が選んだものというのも、あまりないですし…、ああ、贈り物の宝石やお花などはよく…」

「『よく』…?一体どなたに…?」

 わ、ルシアが怖い。カイルの口が滑ったね。しかもそれラグの好みじゃなくて、相手の好みに合わせてるでしょ。


「え、ええと…、あ、ロイ!丁度よいところに!」

 ルシアのじっとりとした目に、珍しく焦ったカイルは、たまたま通りかかったロイを呼び止めた。


「何ですかー?おれ布とかよくわかんないよ?」

「いえ、そうではなく、あなたは旦那様の好きな色とかご存知ですか?」

「えー?難しい質問だね。」

 ロイもやはり考え込んでしまった。


「…そう言えば昔、騎士団の装備の色を考える、ってなった時に、かなり赤色を押していたな…。」

「まあ、赤ですか、ミレイア様の瞳とも合うし、良いですね!」

 よかった、ルシアの機嫌が直った。…騎士の装備と、私の服の色では、また違う気がするけど…。


 案の定、ロイが小さな声で付け加えた。

「『返り血が目立たくていい』ていうのが理由だったんですけどね…。」

 やっぱりですか。もしかして、今の黒一色の装備もそれが理由ですか。



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