決行の時期
ミレイアが、様々な赤色の布を、ルシアとカイルに積み上げられて困惑している頃、王宮では、帝国の対策に対する打ち合わせが行われていた。
本来ならば、議会で話すべき案件だが、ことが事だけに、ジークフリート、バルディ、俺に、シルバ公爵の、最低限に人数を絞って話し合いが行われている。
「…以上が、情報部隊からの報告だ、」
ジークフリートが、自ら指揮をする部隊からの、帝国内部の情報を報告した。
「孤児が集められているのは、東の森近くの村か…。」
「それと移動式攻城兵器らしきもの…。」
シルバ公爵とバルディが唸る。
俺は、全員がすでに出しているであろう、結論を口にした。
「となると、狙いはここ(王宮)で決まりだな。」
「決め付けるのは早いとは、思うが、その可能性が高いな。」
ジークフリートも頷く。
「同時に帝都の方にも、城壁や周辺の村々に、かなり大きな道具を設置しているらしい。何に使うかは不明だが…。」
「まあ、十中八九何かの魔道具であろうな。設置式ということは、まもりに徹したものであろう。」
「力づくで攻めるのは、やはり厄介か。」
ミアも嫌がるしな。
「交渉の方はどうなっている?」
そちらは、俺は一切関わっていない。
「ああ、…陛下がお書きになった手紙の中身は存じませんが、あちらの感触はそう悪くはないですな。」
ジークフリートと帝国の教会上層部との交渉は、シルバ公爵とノアール商会が主に橋渡しを努め、交渉内容はジークフリートとバルディが練っている。
この交渉について知っているのは、この三人と俺、ここにいる四人だけだ。
シルバ公爵は、こちらが求める条件については打ち明けていないが、帝国の暗殺について交渉していることは把握している。その他にも、帝国内に独自の情報網を持つ公爵のことだから、なにか掴んでいるのかもしれないが…。
バルディが慎重に口を開く。
「あちらからの手紙の、要点だけを言えば…、『皇帝の暗殺』については『関わりのない』ことであり、こちらが望む条件については、帝国の領土が脅かされないのであれば『ある程度はのむ』とのことじゃ」
皇帝の暗殺は、好きにやれ、こちらが聞きたいことは、攻めて来なければ少しは教えてやるっていうことか…。
「…見事に、ミレイア嬢の読み通り、ということだ。」
「ほほう、やはりミレイア皇女が関わっておられたか。」
ジークフリートが漏らした言葉に、公爵が身を乗り出して食いつく。
「他所には話すなよ…。」
「あちらさんは、とっくに気付いているようじゃよ?『姫様はお元気か』と、やたら聞かれるしのう。」
俺が唸るように威圧したのに、飄々とかわされる。
「…帝国の行く先を憂いていた…、とでも言っておけ。」
ミレイアが、帝国を守るために行動していることが伝わればいい。
「予想はついていたが、『ある程度』か…一体どの程度なのやら。」
ミアに色々脅されたジークフリートは、やや不安そうだ。
「嫌だけどしょうがないってことだな。それほど譲歩の姿勢を見せるってことは、教会は今の皇帝が嫌いなのかね?」
条件を飲みたくなければ、ギリギリまで粘ったりしそうなものだと思う。帝国の事情に明るい、公爵に聞いてみる。
「ほっほ、そうじゃなあ…、わしの聞いた話では、皇帝のカルディアは、人心掌握には長けているようじゃが…、教会や、一部の貴族には、全く認められておられんようじゃの。」
「認められていない…?」
「皇帝となるための、『条件』が揃っていないんじゃと。」
「『条件』だと…?しかし皇帝に、後継ぎはいないのだろう?…暗殺を黙認しようとしている彼らは、皇帝が死んだ後はどうするつもりだと言っている?」
…ミアが『条件』を満たしていたら、返せなどと抜かすのではないか?
「…教会で保護している、『代わり』がいるそうだ。」
公爵は、あっさりとこれに答えた。
ジークフリートは顔をしかめている。教会に、そう簡単に玉座に座る者を、すげ替えられるというのは、人事とは思えないのだろう。
「準備をしていたというのか?」
用意が良すぎる気がして、疑問を口にすると、シルバ公爵が、どこで手に入れたのか、相当な内部情報を打ち明ける。
「センドリア上皇の私有地で、皇族がこっそりと育てられていたらしいぞ、…教会の協力を得てな。」
「一応息子なのだろう?それを排除するための準備をしていたのか?…まあ、もう一人の息子を殺した者でもあるがの。」
バルディは驚いたようだ。
「立場上、排除は結局出来なかったのじゃろう。いなくなっても良いように、準備だけはしっかりやっておったというわけじゃ。昔からあの方は、淡々と必要な準備をこなして行くという印象じゃったな。どこまで先を見通していたのか…、時には冷酷に感じたこともあったものじゃ。」
「今の皇帝が、皇帝の役割が果たせないと見通しとったわけか…。」
公爵は、どこか尊敬のにじむ声で、ミアの祖父について話す。
「俺は冷酷とは思わんぞ?おかげでミアは、なんの憂いもなく、帝国と縁を切れそうだ。」
…任せるべき人間がいるならば、ミアも、皇女の義務だ使命だとか言わずに、おとなしく家にいてくれるようになるだろう。
「あのセンドリア上皇が、孫娘を自由にするために行動したと?…わしには信じられぬのう。」
公爵は怪しんでいるが、俺は多分、それが正解だと思っている。
ミアが未だに、迷子の子猫のようなのは、元の主である、この『お祖父様』が、頼りになりすぎるくらい面倒を見ていたせいだと思っている。正直、あの信頼っぷりは時々妬ましくなる。
…頭を切り替え、皆に問う。
「とにかく、じゃあ、計画通り進めるってことだな?いつだ?」
「…当然、向こうが攻めてくる前が良いじゃろうな。情報部隊の感じじゃ、いつ来そうか、わかったのかの?」
「森の方には、冬支度に蓄えがあったそうだから、冬の間は動くまい。」
「雪が溶けたらすぐということか?」
「その心づもりでいたほうが良いな。」
「では決行は、こちらの春先…まだ帝国は雪が残る頃か。」
思ったより早い。春はもうすぐそこだ。




