魔法研究塔
「じゃあ、マーカス。国境沿いの話を聞かせて下さい。」
紙とペンを用意し、話を聞く態勢をとる。
「そうですね…、俺と、一緒に行く予定の情報部隊のやつ…名前を名乗らないので、俺はクロって呼んでるんすけど…、そいつと国境沿いの村を確認しながら、西へ移動して行きました。」
「目的は、偵察と、協力者探しの為でしたっけ?」
「帝国からの密偵がいないか、クロが目を皿みたいにして探していましたけど、異常はなかった様っす。」
「そう、それは一安心ね。」
「ただ、月に数人は、旅人が通ることもあるらしくて、何かあったら知らせるようにと、騎士団直通の伝書鳥を備えて置きました。」
旅人か…、紛れている可能性は十分にあるな。
「村人は協力的でしたので、道中はさほど困らないかと思います。帝国内の情報を、いち早く我々に伝える手筈も整えられそうっすね。」
「よかったわ、侵入予定の周辺の様子はどう?」
「国境の向こうに、帝国の宮殿が、ドーンと見えましたよ。こちら側は、所々に低い灌木が繁っているだけの荒れ地だから、夜陰に紛れるか、国境の塀にへばりついて移動するしかないっすね。」
ふむ、どのみち侵入は、夜陰に紛れて行うことだろう。帝国に侵入してからのことを考えても、夜の方が都合が良い。
マーカスが、ここで思い切ったように質問する。
「それにしても、あの国境の魔法って凄いですよね?どうやってあれを破るんですか?」
「マーカス…」
「いや、だって、全力で魔法ぶっ放しても、空飛んで上空を飛び越えようとしても、何やっても弾かれるんすよ?仕組みがわかるなら是非知りたいなー、って…」
妙に熱心に聞いてくるな。
「…仕組みは正直私も解らないわ。何でずっと作動し続けるのかは、私もぜひ知りたいところね。侵入には…一回しか使えない、特別な手段を使うの。だから帰り道も、今後も二度と同じ事は出来ないわ。」
「ええ…、そうなのか〜。だから地下通路あんなに覚えろって言ったんすね。」
まあ、それもある。
「ちなみに…どうやって通るんですか?」
ぐいぐい来るな…。
「…な・い・しょ。」
指を口に当て、ウインクをしたら、マーカスの顔が赤くなった。
…あざと可愛いを狙ってみました。
押し黙ったマーカスに、首を傾げて聞く。
「マーカスは、ああいう古代魔法とか興味があったの?」
ちょっと意外。絶対本とか読まなそうだけど。
「…俺は、魔法で工夫して色々出来る様になるのが好きなんです。魔道具とかも集めてるんですよ。だから、正直ミレイア様の作る道具にはずっげえ興味あります。…暖房用道具はあんま使わなそうですけど。」
へえー、マーカスがそんな趣味を持っていたとは。色々器用にこなすと言われているのは、そのせいか。
「…どんな道具を持っているの?」
ラグの家は、私が作ったもの以外はほとんど魔道具を置いていない。ランプくらいかな。
「小さな竜巻を作るやつとか、水蒸気を出すやつとか、風呂で泳ぐ人形とか!すごいでしょう!」
…水蒸気を出す…加湿器?以外はあまり実用性はなさそうだけど、玩具が好きなのかな。
「面白いものがあるのね。そういう感じのが好きなの?」
「魔法研究塔にいる友人がいて、時々作ったのを貰えるんです。」
良いでしょう、という顔をするマーカス。
…なるほど、王宮内の機関が開発するなら、ミニチュアの試作品なのかも知れないな。それならば納得だ。
「研究塔ですか、是非言ってみたい所ですね。それこそ、国境の結界の研究者とかも居るんじゃないですか?」
「…どうだったかな?古代魔法の研究は、教会がいい顔しないらしくて、やってる人は少ないみたいっすよ。」
まあそうか…、しかし魔道具研究者には、是非会ってみたい。ラグ用の魔道具をつくヒントがほしいのだ。
ラグは、魔法の属性の偏りが強すぎて、調整しても上手くいかないのだ。多くの人が使える魔道具を研究するのは、参考に出来るるかも。
マーカスの友達なら丁度いい。
「今度その友人の方を紹介していただけませんか?」
「え、いいの…?」
ん?なんで驚くの?
「以前からミレイア様を紹介して欲しいって、研究塔の奴等が陛下に直訴しているらしいんだケド、団長が全部はねつけているって聞いていますよ…?」
え…?
―――――
――
「ラグ!どうして私は、研究塔の人と会っちゃ駄目なの?」
「……。」
部屋に戻るなり、ラグに尋ねたら、ラグはマーカスを無言で睨む。
「え、俺を睨まないでくださいよ!言っちゃ駄目だったんすか?」
マーカスは訳が分からず涙目だ。私も訳わからん。
「ええと…、ラグがだめっていう理由があるなら、無理に行きたいなんて我儘は言わないよ…?」
行きたいけども…。
「ミレイア様が行きたがるって、知っていて黙っていたのが、とうとうばれてしまいましたね。」
口を愉快そうに歪めてヨシュアが言ってくる。マーカスの報告書が手に入ってご機嫌なのかしら。
「勿論、悪気があって黙っていたわけじゃない…。あいつ等は、魔法の研究のためと言って、後先を考えない所がある。ミアの能力や知識に対して、ありとあらゆる方法で、自分たちの興味を満たそうと迫ってきかねない。」
ええ…、それは怖いな。
「ラグが怒るよー、って言っても駄目かな?」
ラグって多分王国最強だよね?
「…ある意味、騎士団並みの命知らず揃いだからな…。」
これにはマーカスも同意する。
「団長の魔力が強すぎるから、研究したいって言って、ごっそり血を抜かれた事もありましたね。」
「『ちょっとだけ』て言って酒樽一個分ぐらい採られたんだぞ!?」
ひえっ、それは普通死んじゃうよ!?彼らも怖いが、ラグも凄い。
「陛下を護る為の魔道具を作ろうとして、私生活を調べるって言って、風呂場まで付いていって連行されたやつもいたな。」
わあ、仕事熱心ね。
「う…、危ない人が多いのは解ったわ。気を付ける…」
私もあまり追求されたくないことが多いしね…。でも、教えてほしい事もあるんだよなあ。
「…マーカスの友達だけとか、人を選んで会っちゃだめ?…魔道具の勉強がしたいの…。」
じっと上目遣いでおねだりをすると、困った様に天を仰ぐラグ。
ヨシュアが珍しく助け船を出す。
「学院で魔道具の仕組みは、勉強できますよ?」
学院?貴族が通う王立学院のこと?
「私って通えるの?」
「ええ、全ての貴族は通う事が義務付けられています。王族や既婚者にも例外はありませんよ。」
へえ…、それは凄いな。貴族の心得とかを学ばされるのかな?
魔法の授業があるのは、楽しみな反面、魔力の少なさで苦労もしそうだけど…、友達が作れるかもしれない…!
「いつから通えるの!?」
「えー、12歳になってからですので、後2年と少しですね。」
「2年…」
そんなにあるのか…。むう、と思わず口が尖る。
そんな私を見て、ラグがマーカスに尋ねる。
「…マーカス。その友人はミアに無茶を言ったりしない、信用できる人間か?」
バッと私もマーカスを見る。
「え、ええ…、家族を養う為に頑張って研究塔に入ったやつですから、趣味全開の貴族の方々よりはまともなはずです。」
「…ならば、いざとなれば家族を盾に脅せば、何とかなりそうだな。」
ええ…
「脅すとかはやめてよ…、こっちが教えてほしいのに、迷惑かけたくはないよ。」
「ミレイア様が、彼の研究を少し手伝ってやれば、十分な返礼ですよ。」
そんな凄い人に助言なんかできないと思うけど…。
「それでは、あいつが周りから嫉妬されてしまいませんか?」
「もしバレたら、されるでしょうね。」
「俺が陛下に頼んで、まともそうで、かつ身分の高い奴を教えててもらうよ。そうすれば、そいつだけ妬まれることはないだろう。」
「ご配慮感謝します!」
ピシッと礼をしたマーカス。
そんなに嫉妬されるようなことはないと思うけどなあ。




