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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
帝国騒乱編
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執務室はぬくぬく

 

 ひょうっと冷たい風が吹いて来た。


「団長!ただいま!」

「うお、さみいな。マーカス、早く閉めろ。」

「ひどい!一週間ぶりに遠征から帰ってきて、一番に団長に会いに来たのに、第一声がそれですか?」


 騎士団の執務室の窓から、マーカスが飛び込んできたのだが、真冬の外気も一緒に入って来てしまい、ラグが寒がる。


 今は、シンダルシア王国で最も寒い時期に当たる、『ダルタン・ムーア』と呼ばれる時期で、ダルタン山脈から吹き下ろす風が一週間ぐらい吹き続ける期間のことを言うらしい。風の神様『シッダムーア』から来た名前なんだろう。


 普段は椅子に座っていることすら珍しいラグが、この数日は、執務机から一歩も動かない。…何故なら、私作成の『あったかグッズ』が、執務机周辺に仕込んであるからである。


「悪い悪い、よく戻ったな。良いから窓を閉めろ。」

 謝りながらも、椅子に座ったまま手ぶりで、さっさと閉めろと言う。


「ええ、窓から出入りするなと何度も言っているでしょう。早く閉めてこちらに報告に来なさいマーカス。」

 ヨシュアの冷たさはいつものことである。ただ、誰一人身動きしないのは、やはり私のせいかもしれない。


「マーカス、来たついでに、そこの水差しとってくれ。」

「暖炉の薪も足しといてー。」

「あ、この書類13−D棟に届けてもらえます?マーカスさんなら直ぐっすよね。」

「ついでに食堂から人数分のおやつ貰ってきて下さい。」

 どんどん要求がエスカレートしている。


「なんだよ!みんな酷くないか?なんで仕事机にテーブルクロスが掛かってるんだよ!」

「ミア様考案の、『あったか机』です。」

「このお陰で、仕事から全く離れたくなくなりました。」

「もう一歩も動けない…。」

「むしろ退勤したくない…。」


「ひいっ、ミレイア様!なんて恐ろしい物を!なんの洗脳魔法ですか?団長まで罹ってしまうなんて!」

 人聞きの悪いこといないでくれ、マーカス。ただのテーブルタイプのコタツだよ。

 仕掛けは、非常に簡単で、ラグが魔法で熱した大きな石(ヨシュア作)を耐熱の土の箱(ヨシュア作)に入れて机の下に入れ、机の縁にぐるりと毛布を取り付けただけの代物だ。


 私の魔力で動く魔法紋では、作れるものに限界があるので、ラグの有り余る火魔法を効率よく使おうと、考えた結果である。ラグの机で試していたら、他の皆も羨ましそうだったので、まとめて作ることになった。ラグ以外の机は、皆くっついているから、石の数も少なくて良いしね。


 しかし…、その結果がこれである。ヨシュアは、仕事が捗るとご機嫌だが、うっかりこの部屋に訪ねてきた人が、マーカスのような被害に合い始めたのだ。


「…ごめんね、マーカス。」

「ミレイア様が、一番暖かそうっすね。」

「ヘヘっ」

 私がいるのは、特等席のラグの膝の上だ。寒がりのラグを温めるという名目で居座っている。


「ああ、でもラグ、マーカスの報告を聞かなきゃ。降ろして。」

「駄目だ。マーカス、俺とミアとヨシュアに聞こえるようにそこで報告しろ。」

「何を言っているんですか。大声で話せるような内容ではないでしょう。私に概要を報告してから、書面にまとめて、団長とミレイア様に見せなさい。」


 人間カイロ役の私がいなくなるのを嫌がるラグと、それを反対するのが面倒臭い上に自分も動きたくないヨシュアが、好きなように言う。


「はあ?今から一緒に打ち合わせ室に入れば、一回で済むじゃないですか!報告書も適当で済ませられるし!」

「何を堂々とほざいているのですか。さあ、早く済ませなさい。」

「酷い!鬼!」


 ヨシュアの方が正しくはあるのだが…理由が酷いね。マーカスがちょっと可哀想になり、私はラグの膝から飛び降りた。


「マーカス、私が打ち合わせ室で話を聞きながら、報告用にまとめます。それを二人に見せればいいよ。」

「甘やかすのは良くありませんよ。」

「そうだ、戻りなさい、ミア」

 …こらこら。


「ラグにはいっぱい暖かいやつ付けてるでしょう?」

「まあ、そうだが…。」

 ラグの椅子の、座面と背もたれには、それぞれあったか効果の魔法紋を施してある。もちろん靴下や机の上にも色々仕込んでいる。

 …ぶっちゃけ長時間くっついてると暑かったりする。ちょっと付けすぎちゃったな…。


「ありがとうございます!ミレイア様!…それにしてもいいっすね、団長の靴下とか。遠征にすごく欲しい。」

 うーん、作ってあげたい気持ちはあるんだけどね。


「ごめんなさい。私の魔力は全部、ラグに貢いでいるの。」

 ここ数日寒くなってからは、家の道具とラグの身の回りの物に補充するだけで、魔力が半分以下になる時もある。

 全く余裕がないわけではないが、いたずらに広めたくもないので、今はこうして断ることにしている。来たるべき時のために、色々仕込む必要もあるしね。

 そう答えれば、マーカスも残念、と言いつつ、さほどがっかりした様子も見せなかった。


 むしろラグが引っかかったようだ。

「貢ぐ…、俺は貢がれていたのか。」


 ラグが呟けば、ヨシュアが面白そうにからかう。

「これは、悪い男に引っかかりましたね。お可哀そうに。」

「は?どこがだ。」


 …

 そんな会話が交わされるのを聞きながら、私とマーカスは部屋を移った。



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