人選
ドドーン
ゴオオオオオオ
ギャアアアア
私の目の前では今、現実感のない魔法バトルが繰り広げられている。周りにいる騎士が、風魔法で被害がないように守っていてくれているのだが、振動や熱の凄まじさに、思わず身が強ばる。
ここは騎士団の演習場で、驚く事に東京ドーム並の広さがある。私が居るのは、見物者が安全に観覧するための、全体を見渡せる放送席みたいな場所だ。
陛下達とのお話し合いのあと、ラグやルシアと打ち合わせをした。
…ラグの機嫌は、次の日なぜか直っていた。理由は不明だが、きっと広い心で許してくれたのだろう。
ともかく、それから私は、ラグの出勤に合わせて付いてきては、こうして、騎士団内の見学をしている。
というのも…、
「今やっている演習は、右側の3人が一つの班で、それに対し左側が、40人編成の第ニ小隊です。それぞれが対少人数、対大人数のための訓練になります。」
「…それは3人の方に勝ち目はあるの?」
「ええ、御座います。左側の第二小隊は、火力重視で、大人数での戦闘を得意としていますが、右側の三人は、個々の能力が高く、小隊単位での連携がしにくいため、機動力重視の少人数行動を常としている、第一部隊の者たちなのです。」
「…なるほど、第二小隊があのまま3人を端まで追い込めたら勝ちだけど、一人でも突破されたら、指揮官は負けてしまう可能性が高いってことね。」
「そういうことです。流石でございますね。」
「…副団長さんに褒められるなんて、何か不安を覚えますわね」
「いえいえ、ミレイア様に他意など御座いません。…それで、御めがねに適う隊員はおりましたか?」
「まあ、ふふふ、なんの話しかしら。」
……
…と言うわけで、
私は、ラグに提案され、帝国行きに一緒に行くのに良さそうな者を、こっそり物色しているのだ。
困難な任務へ行くのならば、気の合わない人間は良くないだろう、とのラグの考えは、大変もっともで、非常に有り難いのだが…、こっそりは無理だよ!
多分ヨシュアにはバレバレだよ!
ラグは、今日は大臣達との会議に行っている。騎士団にも慣れて来たので、一人でもそれ程困らないが…、ヨシュアと二人きりで尋問されるとなると辛い。
うう、細められた目の隙間から光る濃い金色の瞳が、本当に光っているようだ…。
思わずため息をついてから、しぶしぶ口を開く。
「私に話す権限は御座いません…、上の許可が得れましたら、ラグからお話されると思います。」
「私とて、無理に聞き出すつもりはございません。ただ、目的を知らなければ、案内にも不備が出るでしょう。時間の無駄遣いは御免です。」
最後のが本心だな。…確かにそうなんだよね。私も騎士団をうろつくようになってしばらく立つが、なかなか皆さんの人となりが分からない。執務室にいる面々とはすっかり馴染みだが、彼らは連れていけないだろう。
…あとの顔見知りは、頻繁にヨシュアにお仕置きを食らう方々だが…こちらも連れて行くには躊躇いがある。強そうではあるけど…皆がみんな脳筋はまずいよね。
ちょっと探ってみるか。どうせ今日の話し合いのときにでも、ヨシュアに話す許可は出るだろう。
「先程の副団長さんの話を聞きますと、…第一小隊の方々が、目的に沿っていそうですの。」
「…なるほど。機動力と隠密性はどちらが重要ですか?」
おお、話が早い。
「バランスが重要ですね、あらゆる事が起こり得ます。」
忍び込む際は、隠密性が必要だが、帰り道は、とにかく早く脱出せねばならない。大人数に囲まれた場合は、ある程度の突破力も必要だ。
「ふむ、尚かつ、ミレイア様と相性が良い方が良い、という事ですね。」
わあ、察しが良すぎて怖い。
「相性…がどうしたら解るのかは、私も今悩んでいるところです。」
…演習場で見ても、強い事しか分からん。
「ミレイア様の好みは、団長の系統ですか?」
「うえ?好み…ですか?」
好みで決めるの?
「要はそう言う事でしょう。キライなタイプでも良いですよ。」
え、え…そうなのかな。そうかも知れないな。一緒に仕事をするのにしんどいタイプを、逆に考えればいいのか。…うるさい人や、沸点の低い人は困るな。魔法が下手で、失敗する人も隠密行動には向かない。不真面目な人はもってのほかだし…。
「そうですね…、穏やかで冷静な方が良いですね。後は魔力調節が上手な人、勿論仕事に真面目に取り組む方が良いです。」
「驚くほど団長の逆ですね。」
「へ?え、あれ?」
わあ、ホントだ〜。いやいや、違う!
「ラグは、現場では真面目だし、冷静に判断もするでしょう?問題は魔力の使い方ぐらいで…、そんなのは使いどころ次第ですし!」
危ない危ない。
「…そう聞いておきましょう。」
いやいや!ちゃんと聞いてよ!
「後は、貴女に妙な嫉妬を抱いていないかも重要ですね。」
ああ、ラグファンの皆さんの中には、当然そういう人もいるよね。
「結構いらっしゃるんですか?」
背後に気をつけねば。
「…女性隊士の中には、団長との結婚を夢見ていたものもいるそうです。」
まあ、いるよね。当然。うちのラグですから!
「…何故そこで不敵な笑みを浮かべるのですか。」
「受けて立とう、と言う意気込みの笑みですわ。」
政敵が何百人いたと思ってんのよ。こちとら後宮出身よ。
…まあ、それはともかくとして。
「女性騎士に関しては、いてくだされば大変ありがたいですが、無理にと言う訳ではありません。相性よりもやはり能力を重視したいですね。確実に成功させねばならない任務なので。」
「…解りました。こちらでも思案しておきます。」
思わず話し込んでいたら、演習の動きがあったようだ。
「おや、第一小隊の方が勝ったようですね。」
「…あの方、今、飛びましたよね?」
本当に飛べる人いるんだ…。
3人が第二小隊に囲まれ、一斉放火を浴びたかと思ったのだが、一人が噴煙の中から、文字通り飛び出し、第二小隊の背後についたのだ。
第二小隊指揮官等が奮闘するも、あっさりと吹き飛ばされ終了となった。
「強いんですのね…あの方。」
「…第一小隊長のマーカスといいます。以前に一度、ミレイア様のお迎えに上がりませんでしたか?」
ああ!思わずポンと手を打つ。
「あのラグファンの方ですね!遠すぎてわかりませんでしたわ!…それにしても、隊長さんでしたか…」
全く気が付かんかった。威厳ゼロだったもん。
「ラグファン…、まあ間違ってはおりませんが。あいつは一応騎士団で3番目の実力ですから。頭は空っぽですが。」
「…隊長が、頭空っぽと言うことは無いんじゃないですか?」
「いえ、騎士団は完全実力制で、序列が決まります。頭と事務能力は一切考慮されないのです。腹立たしい事に!」
そりゃあ大変だ。と言うことは、ヨシュアはラグの次に強いのか。文武両道かあ、カッコいいー。すごい苦労多そー。
「そ、そうですか。でも空を飛べるのは便利ですね。調節も器用にこなせるということですよね。」
下手くそならば、勢い余ってどこかに激突したりしてしまうだろうし、着陸もあんなにスムーズにできないだろう。
「ええ、魔法の扱いや戦闘センスに関してはずば抜けています。紙とペンを前にすると、数秒で眠りにつくという特殊体質を別にすれば、素晴らしい人材でしょうね。」
けっ、と吐き捨てるヨシュア。
すっごい体質だね。昇任試験は、ラグと同じ特別パスなんだろうね。…あの人、いいかもしれない。
「そう…、候補に入れても大丈夫かしら?」
「あれを?」
そんな信じられないような顔をしなくても…。
「ラグに心酔しているのなら、少なくともラグの命令は絶対に守るでしょう?任務のためならそんなお喋りでもないだろうし。」
あの能力は素晴らしいからね。
そう言えば、ヨシュアもしぶしぶ同意する。
「まあ、器用さで言えば断トツですね。…ただ、女性に対するデリカシーは欠片もありませんよ。」
うん、何となくそうだろうな、とは思ってる。




