交渉を終えて
話し合いが終わり、騎士団の執務室に一度、戻ることになった。
もう家に帰ってしまおうとするラグを、まだ日暮れ前だから、と必死で止めて
聞いてもらった。ラグがさっきから口数が少なくて怖い。このまま帰ったら、お説教されそうな気がする。
「おや、珍しい。戻ってこられたのですか。」
ヨシュアが、少し嬉しそうな顔で、出迎えてくれた。
しかし、まだムスッとしているラグと、その顔色をそわそわ伺っている私の様子に気付いたらしい。
「いったいどうされたのです?あんなに仲良く出ていったというのに。」
…ぐーすか寝たまま、抱っこされて出て行ったのを、皆さんは目撃されていたのですね。
その事実に今更気づくが、騎士団ならまあ良いかな、と思い直す。石を抱かされて平然としている人の前で、恥がどうこう言ってもしょうがなさそうだ。
「お見苦しい姿をお見せいたしました。」
レディとして、一応謝罪はする。人前で寝るのは、はしたないわよね。
「いえ、あの姿を見たお陰で、貴女が子供だとようやく認識ができました。
うっかり忘れて、仕事をさせて申し訳ありませんでした。ですが、これからも出来れば是非お願いします。」
お手本のような礼をされた。慌ててこちらも礼を返す。
「いえ、こちらこそ、ラグレシオン共々、副団長様にはご厄介をおかけいたします。」
あなたが頼りですよー。よろしくお願いしますね!と、心を込めたら、それが伝わったかの様に、苦笑された。
「うえっ?」
笑顔を交わしていると、唐突にラグに持ち上げられた。そのまま、運ばれ、机の前に座ったラグの、膝の上に収まる。
「へ?」
ラグ?さっきまで怒ってなかった?何故に突然ご褒美に…?
と思ったが、書類をめくったり、判子を押したりひたすら無言で仕事している。
やはりまだ怒っているようだ。
怒っているのに、何故膝抱っこなのだ。おーい、丸秘文書丸見えですよー。
困ってヨシュアの顔を見ると、彼も気付いたようだ。
「団長…、文書の確認をされるのなら、ミレイア様をこちらに…」
ヨシュアからの助け舟。おーいラグ、離して。私は、ナントカ子爵さんの趣味が、老婦人の下着集めだったなんて、見たくないよー
なのにラグは、ふん、と鼻を鳴らして、言い捨てた。
「ミアなら既に、最高機密のど真ん中にいる。さっき自分から飛び込んでいった。」
う、そうだよね、怒ってるよね。巻き込まれないようにしてくれていたのに…。
しょんぼり項垂れる。
「…ごめんなさい。」
ラグの答えはない。
執務室内が、重苦しい空気に包まれている。誰も顔をあげない。
見かねたヨシュアが、声を掛けてくる。
「団長、そのような顔をして…、ミレイア様が泣きそうになっていますよ。何があったか知りませんが…」
「ミアは泣きそうになっても泣かないぞ。なあ、ミア、お祖父様との約束なんだよな?」
覗き込まれたラグの顔は、ニッコリ笑った顔にも関わらず、怒りが滲み出ていた。
怖いいいいい!さっきまでより怖いいい!
「ん?ミア、泣きたいのか?ほら泣いてみろ。」
恐怖の笑顔のままで、両頬を左右に引っ張られる。手加減はされているが、痛い。
うっうっ、ラグ、ごめんなさい…。
そんな私のピンチにも関わらず、他人のフリして仕事をしていたはずの隊員達の方から、ヒソヒソと声が聞こえる。
「なあ、団長って、あっちの趣味なのか…?」
「意外だな…」
「Sとは…」
「いや、これはこれで…」
コラ!何て話をしている!私も今ちょっと同じ事を思ったけど!
いえ、あの、反省はしていますよ?
「いい加減にしなさい!、団長、あなたはもう帰ってください!夫婦二人でしっかり話し合ってください!」
ビシッと叱り飛ばす、流石のヨシュア、ラグのお母さんはやっぱりあなたですよ。
ラグもちょっとやりすぎたと思ったのか、気まずそうに、頷いて帰り支度をする。…私を抱えたまま…
しっかりお話し合い…。しくしく。




