交渉 その3
ここでもう一度、陛下に質問をする。
「フェル=モナンのそれぞれの意味は、確かに先程、陛下が言った通りですが、合わせて使うと別な意味になるのは知っておられますか?」
「……」
良かった、知らないようだ。…全然違う意味になるんだよね。
「…『調整』という意味になります。」
魔法紋で使うときは、複数の魔力を合わせるときに、必ず入れないといけない、意味の記号でもある。記号と古語は、細部が違うだけでかなり形が似ているのだ。私は、本当の古代文字が、魔法紋に使う記号で、古語はそれが変化した物だと推測している。
「『調整』…教会が何かを調節していると言うのか?」
「再び推測の部分が多くなりますが…」
「良い、話せ。」
うむ、食いつきがよろしくて何より。
「ではこの紙に手を置いて誓ってください。消して口外せぬと。」
「それは…どういう仕組みなのだ?」
恐ろしげな顔して、私の出した紙を見る。
ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたね。
「お祖父様…センドリア大司教考案の、『誓いを破ったら、嘘つきって言葉が一生顔に刻まれる』魔法が発動する紙です。」
…3人とも押し黙る。死ぬ程嫌だけど、死ぬ程じゃないって所がみそだよね。
「…そんな事が本当に出来るのか?」
「試してみて構いませんよ?私は誓ってくれさえすれば良いのです。」
「…関係のない嘘をついたからと言って、発動する訳じゃ無かろうな?」
「話をする上で、言葉にしないと伝わらない、キーワードを予め組み込んであります。それを口にする事が発動条件の『一つ』ですので、そこは大丈夫ですよ。事がうまく済んだら、解除しますから。…害がない証明に、私も話し終わったら同じ行為をします。」
「わかった、どうやれば良い?」
ラグが真っ先に手を置いた。
「ああ…、うん、それでもう大丈夫。魔力が登録された。」
…ラグは魔力が垂れ流しだからな。
その様子を見て、あとの二人もしぶしぶ手を置いて、誓った。
念には念を入れてから、本題に入る。この時点で、私はかなりのタブーを犯しているのだ。…先程から、お祖父様の忠告の声が、頭の中で鳴り止まない。
「…それでは、教会が何を調整しているか、と言うことですが。…私の考えでは、この大陸の『魔力』を調整しているのではないか。と考えています。」
「魔力…」
陛下が考え込むように呟く。何か思い当たることがあるのかも知れない。
「そう考えたきっかけは、森で暮らしている時に、魔力を地面に流すと、植物の成長が早くなった事です。そして、土魔法を使っても、水魔法で水をあげても、僅かに植物の成長には影響が出ました。
…そこで思い出したのが、お祖父様がふと漏らされた言葉です。
『帝国の土は、凍り付いて栄養が乏しい。だから土に多くの魔力を回さねばならん。』
そう仰っていました。」
「魔力を回す…。」
どこから回すのか、というのならば、比較すればすぐわかる。
「この国に比べ、帝国の人は魔力が格段に少ないです。」
「まさか…、土地の魔力と人の魔力の調整ができるというのか…!」
「『人』だけではございません。帝国には魔物が一切存在しません。」
「!!」
3人が顔を合わせる。
「ここ最近の魔物の増加と関係があると?」
「さて…そこまではっきりとは。単に南に行くほど魔物が多いというだけかもしれませんし、確証があるわけでもございません。ただ、国境の結界は、魔力も通さないのですよね?そうすると、この国の魔力は余所から来たり出ていったりはしない筈です。」
…恐らくそのためにも、あの国境は在るのだろう。
「ですから、魔力を地上の生き物に多くある分、土地が痩せていっている事があるようならば、この説が正しいことになります。もちろん、人が魔力を注いでいる農地以外の話です。」
そういうと、陛下と宰相は、何やら心当たりのある顔をした。
森でも、不思議と王宮に近い森の方が、植生が豊かだったんだよね。芋や果実、小動物は、近場の森のほうが採れた。
陛下が、信じられないというように叫んだ。
「我が国の教会は、魔物の騒ぎのように、民に被害が出るような調整をしているというのか!?」
怒っているね…。私もそれが疑問なんだけど、教会という存在が、望んでそんなことするのかな…。
「…私には、教会が本当にそんな悪意を持っているとは思えません。やろうと思えば、きっともっと大規模なことができるはずだと思うのです。」
教会って、古代魔法がいっぱい眠ってそうなんだよね。建物が全部めちゃくちゃ古いし。
「なにか事情があるのでは?王家が歴史を失ったように、教会も王族とのつながりが絶たれたことで、何か不都合が出ているのかもしれません。」
な、の、で、
「古代の秘術を受け継ぎ、調整者の役割を完璧に果たしているであろう、帝国の司教様に、教えを請うことは、王国の未来をすくうことになるのではないですか?事情が解れば、王国の教会との歩み寄りも深まるのではないかと思うのです。」
だから融通効かせてよ。
この論理に、バルディは納得した様子を見せた。
「陛下、試してみる価値はあるんじゃなかろうか。」
陛下も、躊躇いながらも賛成の気配を見せる。
「うむ…。司教との交渉と、暗殺が成功することが、絶対条件になるな。」
秘密だから教えられません、と言われる可能性もあるからね。それに暗殺に失敗したら、戦局によっては、王国側に被害が出てしまう。
ようし、最後の切札…
「皇帝の暗殺は、俺がやろう。」
え、ちょっと待ってラグ。




