交渉 その2
まず一つ目の確認をする。
「王家の事情に踏み込むようで心苦しいのですが、シンダルシア王家は現在、教会との意志の疎通が測れていない、という認識でよろしいでしょうか?」
「…真に踏み込んできたな。」
よろしいらしい。
確認の2つ目。
「王族だけに伝わる口伝や、知識なども、何らかの原因で、失われたものが多いのでしょうか?」
陛下が答えたくなさそうだが、無言の肯定をする。
「…王が若いうちに暗殺されたり、簒奪され、一族もろとも処刑されるなどの歴史があれば、そのような事もあるでしょう。」
お祖父様に習ったところによると、この国は300年前に議会制度を導入して以来、権力者の入れ替わりが激しい。王族も、それに伴い交代が頻繁だ。
権力の集中が無くていいけど、口伝の保持という観点から見ると、あまり良い状況ではない。
「…帝国も、簒奪者が出たばかりではないか。」
口を曲げたまま、陛下が反論する。そうなんだけどね。
「その為に、フォルモナン教会があるのです。政治に関わらないことと引き換えに、皇家の介入も禁止された存在の組織が。…そして、引退した皇帝や、帝位につく予定のない幼い皇族が、教会幹部として入る事で、皇家とのつながりも保たれています。」
皇家で伝承が途絶えたら、教会が繋ぎ直す。そういった方法で、途絶えさせずに来たのだろう。
「…教会が何を知っているというのだ。」
そうね。そこが気になるよね。
「解りませんわ。」
「は?」
陛下と宰相が愕然とする。
「ですから、推測しただけ、とお伝えしました。」
「…その推測を続けよ。」
ふっふっふ。
「陛下は、古語は勉強されていますか。」
「…あまり馬鹿にするな。度重なる内乱でも、残された書物はいくつかある。」
それ読みたいな…。
「では、『フォル=モナン』の意味とは何でしょうか?」
「確か…『守る』『伝える』であったか。」
うん、流石だね。すっと出てきた。宰相は驚いたようだ。
「そのような意味を持っておったのですか!…それが教会の役割を示しているのであれば、確かに教会に伝わる情報は多いと思われますな。」
「私もそれぐらいの推測はしたことがある。しかし奴らに書物を見せろと言っても、代わりに金をよこせだの、王族を人質に渡せだの、厄介な要求ばかり言ってくる。そこまでして、調べたいこともなかったからな。」
そうだね、今までは。
「今まではそうでしょうが…、国境の結界について記されている書物もある可能性が高いのではないでしょうか?」
大司教には直接伝えられていることもあるかもしれない。
陛下と宰相は、揃って苦味を潰した顔になる。
「…教会は、正直協力を求めるには、信用できませんぞ。グスタフが繋がっていたという噂もある。」
「ああ…、帝国の教会は政治不介入というが、我が国の教会は頻繁に介入してきた歴史がある。私も何度か痛い目に合わされた。」
ほうほう、根が深いようですな。しめしめ。
「王国の教会に、教えを求める事はできない、ということですね?」
「ああ、そして教会に攻め入ることも、国民が許さぬだろう。」
ですよね。
「それでは、一つ提案なのですが、帝国の教会に、教えを乞うのは如何でしょう。」
「…帝国と講話して欲しいということか?あちらにその気がない以上不可能だ。」
「いいえ、そういう意味ではございません。」
「ならば攻め入り、支配下に置けということですじゃろうか。」
「そのようなことをしても、教会が協力する事は無いでしょうね。帝国の教会は、帝国の地を守る事ためだけに存在しています。…これは大司教であったお祖父様がよく言っていた言葉です。」
「では、どうするというのだ。」
またちょっとイライラしてきましたね。まあ、こっちのペースには引き込めているな。
「言った通りです。教会が守るものは、『帝国の地』であり、『皇帝』ではありません。これは絶対的な教義です。」
…だからお祖父様は、お父様を守りたくても何も出来なかった。
これに初めてラグが反応した。
「それでは、皇帝だけの暗殺ならば、教会は何も反対しないというわけか?」
「うん、個人個人の感情はともかく、教会の司教様達なら、そう判断するはず。」
「教会の上層部と、裏で通じて、交渉するわけか。彼らが守りたいものを盾にして。」
流石ラグ、執務室での姿を忘れるほど、察しが良い。
皇帝だけを排除し、帝国の民には一切手を加えない代わりに、教えを請いたい、と言うならば、戦火に巻き込まれるよりは、そちらを取る可能性はあると思う。
「国王が裏で敵国と通じろと言うのか…。」
汚いと言う人もいるかもしれないが、結構よくある話だと思うけどな…。
ラグがいるから、今までは力押しの戦いが多かったのかもしれない。
…ここでもうひと押ししておくか。




