うちの子がすごい
いつ戻ろうか…、呼び出しが来たらまずいし、早く戻らねばならんが…
「団長!俺にも稽古お願いします!」
「その次は自分で!」
「いやいや、先約は俺ですよね?」
「あー、…わかった、あと3人だけな。」
うん、まあちょっとくらいは…良いだろ。
…結局、一時間以上隊員達と稽古をしてしまった。
恐る恐る執務室の扉から中を覗くと、俺の机の所で、見慣れた色の髪の毛がちょこちょこと動いていた。
「ミア?何してるんだ?」
「ラグ!戻って来たんだね!」
パッと顔を上げ、俺を見ると目を輝かせた。
うん可愛い。髪色に合わせて作った、水色のフワフワがいっぱい付いたドレスは、最近ふっくらしてきた頬と相まって、尚更可愛く見える。
だが、その小さな手が持っている物は、どう見ても騎士団の報告書の書類様式のようだ。
「団長、今更職場に何の御用ですか?」
しまった、背後を取られた。身を翻して構えると、そこには、ここ最近見たことがないほどご機嫌なヨシュアが立っていた。
「団長?そんなに身構えて、どうされました?」
ニコニコするヨシュア。いや、ホントにヨシュアか?
「一体何があった…?」
思わず他の隊員に答えを求めようとするが、サッと目を逸らす。他の皆も、世にも奇妙なニコニコヨシュアを直視できないらしい。
そうしたらそのヨシュアが、ご機嫌なまま答えてくれた。
「団長が溜め込んでいた、報告書を、ミレイア様が全て代わりに書いてくださったのですよ。」
「は?ミアが?」
「ええ、団長よりも、余程しっかりした文章と、美しい文字、なんと言っても非常に簡潔明瞭でわかりやすい。」
…あの、何を書いても説教しかしないヨシュアが褒めている…。
ミアを見ると、ちょっと誇らしげだ。役に立つのが嬉しいのだな。
「内容はどうしたんだ?」
「仕事の事は、全部ラグがお話してくれるじゃない。それを報告書っぽくまとめただけよ?…私に秘密にしている部分は、あとからラグが付け加えてくれないといけないけど。」
…毎晩話した事を、全部覚えていたのか…。「報告書っぽく」って、なぜ子供が報告書の書き方を知っている。皇族の必須科目なのか?
「もう団長は、しばらく遊んでいてもいいですよ?ああ、もちろん後で判子だけはくださいね。」
邪魔者扱いしてやがる…。
このままでは、ミアに役立たずだと思われてしまう。ただでさえ、到着早々みっともない姿を見せてしまっていたのに。何かないか…
「ミア、ここにある分厚い本が、騎士団の規則だ。昇給試験では、全部覚えないと合格できないんだ。」
俺は特別枠で、受けたことはないがな!
「うん!さっき副団長さんに言われて全て目を通したよ。規則破りを報告書に書くわけにはいかないもんね。」
………
「そうか…、えーと、ほらこれ、この箱いっぱい、俺宛のお礼の手紙や、何かの招待の手紙なんだぞ。」
これぞ仕事している証拠だな。
「…ラグは本当に人気者だね…。」
なぜしょんぼりする。
「嫁にモテることを堂々と自慢する馬鹿がいますか。馬鹿ですね。」
…ミアが手にとっているのは、ひと目でいかがわしさを漂わせている封筒だった。
それは子供の見るものではない!
「ミア、これが今年の予算書だ!数字がいっぱいだろう。こんなにお金使ってるんだぞ。」
「…ラグ、それは私に見せてはいけない書類だと思うの…。」
そうだった…。
こっそり落ち込む俺に、ヨシュアが呆れたようなため息と、冷たい視線をよこす。
「団長、貴方の力は有事の際にこそ発揮されるもので、この執務室で良い格好しようとしても土台無理ですよ。」
全くその通りだった。
「ラグ、ラグはいつもカッコいいよ?もう、立っているだけで!」
「座ってたら駄目なんだな…」
「そ、そういう意味じゃ…。」
「…ミア、演習場を見てみたくないか?」
格好良いところを見せてやろう。
「できない仕事をサボるのはもっとカッコ悪いですよ。」
…仕事するか…。




