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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
帝国騒乱編
85/250

うちの子がすごい

 

 いつ戻ろうか…、呼び出しが来たらまずいし、早く戻らねばならんが…


「団長!俺にも稽古お願いします!」

「その次は自分で!」

「いやいや、先約は俺ですよね?」


「あー、…わかった、あと3人だけな。」

 うん、まあちょっとくらいは…良いだろ。


 …結局、一時間以上隊員達と稽古をしてしまった。


 恐る恐る執務室の扉から中を覗くと、俺の机の所で、見慣れた色の髪の毛がちょこちょこと動いていた。


「ミア?何してるんだ?」

「ラグ!戻って来たんだね!」

 パッと顔を上げ、俺を見ると目を輝かせた。

 うん可愛い。髪色に合わせて作った、水色のフワフワがいっぱい付いたドレスは、最近ふっくらしてきた頬と相まって、尚更可愛く見える。


 だが、その小さな手が持っている物は、どう見ても騎士団の報告書の書類様式のようだ。


「団長、今更職場に何の御用ですか?」

 しまった、背後を取られた。身を翻して構えると、そこには、ここ最近見たことがないほどご機嫌なヨシュアが立っていた。


「団長?そんなに身構えて、どうされました?」

 ニコニコするヨシュア。いや、ホントにヨシュアか?

「一体何があった…?」

 思わず他の隊員に答えを求めようとするが、サッと目を逸らす。他の皆も、世にも奇妙なニコニコヨシュアを直視できないらしい。


 そうしたらそのヨシュアが、ご機嫌なまま答えてくれた。

「団長が溜め込んでいた、報告書を、ミレイア様が全て代わりに書いてくださったのですよ。」

「は?ミアが?」

「ええ、団長よりも、余程しっかりした文章と、美しい文字、なんと言っても非常に簡潔明瞭でわかりやすい。」


 …あの、何を書いても説教しかしないヨシュアが褒めている…。

 ミアを見ると、ちょっと誇らしげだ。役に立つのが嬉しいのだな。


「内容はどうしたんだ?」

「仕事の事は、全部ラグがお話してくれるじゃない。それを報告書っぽくまとめただけよ?…私に秘密にしている部分は、あとからラグが付け加えてくれないといけないけど。」

 …毎晩話した事を、全部覚えていたのか…。「報告書っぽく」って、なぜ子供が報告書の書き方を知っている。皇族の必須科目なのか?


「もう団長は、しばらく遊んでいてもいいですよ?ああ、もちろん後で判子だけはくださいね。」


 邪魔者扱いしてやがる…。

 このままでは、ミアに役立たずだと思われてしまう。ただでさえ、到着早々みっともない姿を見せてしまっていたのに。何かないか…


「ミア、ここにある分厚い本が、騎士団の規則だ。昇給試験では、全部覚えないと合格できないんだ。」

 俺は特別枠で、受けたことはないがな!

「うん!さっき副団長さんに言われて全て目を通したよ。規則破りを報告書に書くわけにはいかないもんね。」

 ………

「そうか…、えーと、ほらこれ、この箱いっぱい、俺宛のお礼の手紙や、何かの招待の手紙なんだぞ。」

 これぞ仕事している証拠だな。

「…ラグは本当に人気者だね…。」

 なぜしょんぼりする。

「嫁にモテることを堂々と自慢する馬鹿がいますか。馬鹿ですね。」

 …ミアが手にとっているのは、ひと目でいかがわしさを漂わせている封筒だった。

 それは子供の見るものではない!


「ミア、これが今年の予算書だ!数字がいっぱいだろう。こんなにお金使ってるんだぞ。」

「…ラグ、それは私に見せてはいけない書類だと思うの…。」

 そうだった…。


 こっそり落ち込む俺に、ヨシュアが呆れたようなため息と、冷たい視線をよこす。

「団長、貴方の力は有事の際にこそ発揮されるもので、この執務室で良い格好しようとしても土台無理ですよ。」

 全くその通りだった。


「ラグ、ラグはいつもカッコいいよ?もう、立っているだけで!」

「座ってたら駄目なんだな…」

「そ、そういう意味じゃ…。」

「…ミア、演習場を見てみたくないか?」

 格好良いところを見せてやろう。


「できない仕事をサボるのはもっとカッコ悪いですよ。」


 …仕事するか…。




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