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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
帝国騒乱編
84/250

騎士団はファンクラブ

 

「副団長さん、こちらで大丈夫ですか?」

 おそるおそる、書き上げた書類をヨシュアに渡した。

 ヨシュアは、それにさっと目を通すと、わずかに目を見開いてから、押し黙った。


 …

 あの後、

 日頃の不満をぶち負けたヨシュアは、すぐに立ち直り、無表情で仕事をし始めてしまった。石を抱く隊員さんたちはそのままだ。…用意した手みやげは、ラグごといなくなった。


 ヨシュアも、今までの流れを静観していた隊員達も、何事も無かったように仕事を進めている。私は応接用のソファに案内されたのだが、多数の好奇の視線と、ヨシュアの能面顔にいたたまれなくなり、手伝いを申し出たというわけである。



「…駄目でしたか?」

「…」

 無言で、同じ様式の新しい紙を差し出された。

 …書き直しか。


「その次の日の、町に見回りに行った時の報告もお願いします。」

 合格だった。

「わかりました。行方不明の少年の捜索ですね。」

「さあ、私は聞いていないのでわかりません。少年だったということを、今はじめて聞きました。」

 おう、怒っている。

「ラグレシオンが話していたことを、文章におこしているだけで、実際にあったことがすべて網羅できているとは限りませんよ?」

 怒りを少しでも納めてもらうために、私が書こうかと提案したことなのだけど、一応伝えておく。


 ヨシュアは、ふんっと鼻を鳴らし冷たい口調で言う。

「何も書かないより百倍マシです。他に隊員が一緒にいる時は、それらと照合できますし、単独行動の時は、何かしら仕事をしている証明が出来ればよいのです。貴女に話せないことは、報告書にもかけないことである可能性が高いでしょう。」

 なるほど、しかしそうなるとこの報告書の存在意義とは…。ああ、だから面倒くさくてラグは書かないのね。書かなくても大局には影響がないから。


 しかし、

「事務方にとっては堪りませんね…。」

 そう呟くと、ヨシュアと、石を抱えていない方の隊員が「わかってくれるのか!」という顔をした。わかるわかる。一応勤め人だったからね。

 一方で、石を抱えてお仕置き中の方々は、きょとん、としている。…騎士団内でも脳筋系と事務も出来る人では、天と地ほどの価値観の相違があるようだ。


 こうして、せっせと公文書を偽造…もとい、代筆を行っていたのだが。ラグが帰ってこない。もう一時間以上になるのに…、置いてかれてしまったのだろうか。


 しょんぼりと扉を見ていたのがばれたのか、ヨシュアが慰めてくれる。ちょっと怒りが溶けてきたのかな?


「我に返れば戻って来るでしょう。大方、演習場に行って、訓練が楽しくなったといったところでしょう。」

「…さすが副団長さんですね。お見通しですか。」

 まるであなたが奥さんですね。すんごい嫌だろうけど。


「ふん…、どうせ貴女にみっともないところを見られて、恥ずかしくて逃げ出したんでしょう。落ち着いたら戻ってきますよ。」

「恥ずかしい?」

「恥ずかしいでしょう。到着早々に部下に怒られ、貴女に庇われたのですから。」

 おおう…、そう言われてしまうと確かに恥ずかしい。ラグにとっては、鎖なんてなんてことのなかっただろうに、私が騒ぎすぎてしまったか。


「私、ついびっくりして…、大げさにしてしまいました…。」

「………、小さな女性の前で、あのようなことをした私が悪いのですよ。」

「いえ、多分ラグが悪いので…。」

「それは当然です。」


 ピシッと言い切ったヨシュアは、少し表情を緩め、私を見る。


「…貴女様は、随分と団長と仲がよろしいようですね。騎士団では、皇女様が奥様になられるということで、勿論喜んだ者が多いのですが、団長があの性格ですから、不安視する隊員も多かったのですよ。」

「ええ、ラグはとっても優しいから。…私もこの幸運に感謝しています。」

 まあ、『皇女様』では得体は知れないよね。実物はこんなんですよー。


「団長も、貴女が来てからは、早く帰るように努力をしたり、身なりに気をつけるようになりましたので、良い変化であると思っています。」

「もしそうならば、嬉しいですね。私はまだこの年ですので、社交もままならず、何も出来ないのが心苦しいのですが…、副団長さんさえ良ければ、いつでも書類のお手伝いくらいはしますわ。早く帰って来て欲しがっているのは私ですし…。」

「甘やかすのはよくないと思いますよ。…正直それは助かりますが。」

 ラグのお母さんがここにいるよ!

「ふふっ、家では私がいつも甘やかしてもらっているから、いいのですよ。」

 思わず素で笑いかけると、ヨシュアは砂糖を噛んだ様な顔をした。近くで聞いていた隊員も同じような顔をしている。…はて?


「はい!質問です!ミレイアちゃ…

「ラブノール夫人と呼ばんか、馬鹿者!!」

 お仕置き中の隊員の一人が、発言をしようとしたら、ヨシュアの愛の棍棒が振るわれた。


「ミ、ミレイアで大丈夫ですわ。」

 騎士団の人たちならそっちの方がいい気がする。ああでも、ヨシュアはなんか怒ってる…。


「やった!ミレイアちゃ…

「せめて様をつけんか、ど阿呆!!」

 あああ、石ごと吹っ飛んだよ。なんで、あれを受けて生きているの。


「ミ、ミレイア様…、団長の家での様子を教えてください…。」

「様子?」

 なんだ突然。ボロボロになっても聞きたいことなのか?

 うわ、更に石が追加されている。ヨシュアは土魔法がお上手ですね。


「あ、俺も知りたい!団長が使っている石鹸ってどこの商会のですか?」

「俺も!私服ってどんなの着てます?寝間着は何ですか!?」

「家でやっているトレーニングとか!」

「あとあと…」


 ああ、と私は手を打って納得する。皆さんラグのファンでしたか。

 …教えてあげたい気もするけど、お教えちゃって良いのかなあ、ラグが嫌がるかもしれないしなあ。


 悩む私を、ヨシュアが止める。

「わざわざ教える必要はありません。お前らも仕事しろ!!」

 あら、真面目仕事していた方々まで、耳を澄ませていたのね。

「そんな!副団長だって知りたいでしょう!」

「そうですよ!宴会で、団長の隣は誰にも譲らないくせ…

 ドゴンッ


 …今までで一番強烈な一撃だね…。副団長、貴方もでしたか。

 どうやら騎士団は、ラグのファンの巣窟らしい。…私も入隊を目指すべきか。


 それからは、副団長の、何も突っ込ませないぞオーラによって、しずしずと仕事が続けられた。…ラグが戻るまでは。








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