決意
森の中で、焚火の傍で眠った夢を見た。
…
朝の気配を感じ、意識が薄っすらと周囲の気配を拾い始める。ラグと…誰かが話している声が聞こえる。
暖かくて居心地の良い場所から、目を覚ましたくなくて身じろぎせずにいた。私は座ったラグにへばりついたままの状態のようだ。
「―しかし、出勤―そろそろ―、朝食も――」
「もうちょっと――、夜もあまり―ようやく、――」
ん?私のことかな?それにこの声は…
「むにゃ…ルシア…?」
「ああ、ミレイア様、お目覚めになりましたか!」
もそもそと動いて、目を開けようとするが目が腫れぼったくて開かない。変だな…泣いてないのに。
「ミア、今日は俺が出た後に、ゆっくりと朝ごはんを食べればいいから。寝てていいぞ。」
「…いい。起きる…。」
お見送りはちゃんとしたい。
ルシアに手伝ってもらい、目をこすりながら、何とか身支度をする。
「ルシアは…お部屋、困ったこと無かった?」
「ええ、カイルさん達が親切にしてくださいまして、居心地の良い住まいになりそうです。ミレイア様もご準備していただいたそうで…とても嬉しかったです。」
へへ、喜んでくれてよかった…。
…
今日も皆で朝食をとり、ラグのお見送りをする。
朝、甘えきっていたのをルシアに見られてしまったので、開き直っていつものとおり「いってきます」のぎゅう、をしてもらった。…そんなに目を丸くしないで欲しい。
その後私は、考えたいことがあったので、部屋に引きこもった。
ルシアは、カイルに付いて、母屋の家事を覚えるらしい。…魔法のブワーッで済ませる家事にショックを受けなければいいけど…。
机に向かって作業をしていると、庭から楽しそうな声が聞こえた。
窓から見下ろすと、ルシアとロイが花壇の手入れをしているようだ。虫でもいたかな…。この国の虫は、サイズが大きめで結構ぎょっとするから、ルシアも驚いたかもしれない。
…
午後はルシアを部屋に招いた。
「まあ、可愛らしい部屋ですね。」
「うん、カイルが注文してくれたのよ。村の職人さんが作ってくれたから、素朴だけど可愛いでしょう。」
結構気に入っている。
「ええ…、カイルさんは、とても器用でいらっしゃるのね。今日仕事を教わっていてとても驚きました…。」
「そうよね、驚くわよね。何でも出来すぎて私もへこんだわ。…ドレスのお直しまで出来てしまうんだから。」
ようやくカイルの妙なスペックの高さを分かち合える人に出会えた。「ドレスまで…」とルシアがしょんぼりしている。普通は出来ないよ!
ルシアにはルシアで、やってほしいことがある。
「ルシア、ここに呼んだのはね、帝国のことを話したかったからなの。」
「…何についてでしょう。」
ああ、顔が曇った。
「ルシアは私に、帝国の問題に関わって欲しくないと思っているの?」
「もちろんです。危ないことはおやめください。」
間髪いれずに言われてしまった。だけど、ルシアはきっともう関わっているのだろう。
「お父様とお祖父様が人生をかけて守ってきた国よ。本当に何もしないでいいと思う?」
「…それがお二人の望みなのです。」
そう、だから苦しいのだ。
「私だけ、生まれの義務から逃げるのがつらいの。帝国が侵略されそうだというのに、敵国でのんびり暮らしているなんて…」
「…私は旦那様ならば、ひどいことにはしないと、ミレイア様への態度でそう思えました。もちろん、少なくない犠牲はあるでしょうが…。」
そうだけど違う。私は、私が一番嫌なのは。
「私は、ラグに、帝国を攻めて欲しくない。」
ルシアを目を見て訴える。
「ラグを嫌いになりたくない。ラグを失うのは嫌。もう、他にいないの」
この世界に、私が頼っていい人は、もう他にいない。
ルシアは、私から目をそらすように顔を伏せた。
「…では、どうなさりたいのですか?」
「サルージャ大司教のことを教えて。…あと、ドレスの準備をお願い。」
…
その日の夜、ラグにもお願い事をした。
「思い出したことがあるから、陛下にもう一度会いたい」と言ったのだ。
引き受けてはくれたが、何か口にすることを、我慢しているような顔をしていた。




