ルシアがやってくる
家に戻ると、どっと疲れが襲ってきた。
カイルが着替えを手伝ってくれるが、私がぐったりしているせいで、脱がせるのにも苦労している。ごめんよう、精神疲労が酷いんだ。
「いい加減、ミア様には侍女が必要ですね…、何時までも私がお着替えを手伝うわけには参りませんから。」
…あ、そうだ、カイルには伝えてもいいよね?
「今日ちょうどね、陛下に呼び出された件が、私が帝国にいた頃に世話になっていた侍女が、王国に来ているという話だったの。」
「ほう!それは良いですね。信用できるお方なのでしょう?」
「うん、お祖父様が一番信用していた人なの。陛下も許可してくれて、ラグが近々連れてくるらしいわ…」
ちょっとウトウトしながら、報告すると、カイルが突然焦りだした。
「ヘ?近々っていつですか?まさか今日じゃ無いですよね?ミア様!」
うーん、いつだろう…、ラグはフットワーク軽いからな…
「わかんない…むにゃ。」
「ミア様!その方は一人ですか?住み込みですか?まだ寝ないでください!」
はっ、そうか、ルシアも一緒に住めるかもしれないんだった。
「住み込みなら、あの離れに住むのよね?女性でも大丈夫?」
「え、ええ、浴室等も個別に備えておりますし、鍵も付きますので、問題はないかとは思いますが…、女性は住んだことがないので自信がありません。ロイも呼んで、準備をしたほうが良さそうですね。」
困ったカイルは、庭の手入れをしていたロイを呼ぶ。
「え、ミア様の侍女?いくつ?美人?」
先ずそれか、この若人が。
「…年はカイルくらいだよ。すんごい美人だけどね。」
大分年上と聞き、残念がるロイに、ふんッと言った。
「全く…。ロイ、ご婦人が離れに住むとしたら、何が必要でしょうかね?」
「うーん、服とかは自分で持ってきてくれるといいけど…、村にはあまり種類がないからね。その人、上流階級なんでしょ?」
「うん、すごく。気さくで優しいから、二人にも馴染めるとは思うんだけど…働き者だし。」
ずっと皇族のお世話をしてきた人だからね。私よりよっぽど最高峰の文化に染まっていたはずだ。ただし、この家にいるところを想像しても、違和感はない。むしろ女主人かと感じるほどしっくりくる。
「ミア様のお世話以外は、今のところ特に仕事はないですが…。」
「村の管理なんかも手伝ってもらったら?カイルは村の女将さん連中にとことんやり込められてるし。」
「ああいい考えです…、いえ、今は準備する物の話ですよ。」
はは、カイルはおかみさん達に弱いのかー。
あ、そうだ…
「ルシアは、帝国人だから魔力が少ないの。だからお風呂を溜めて沸かすとか、洗濯で魔法を使うとかは、二人より時間もかかるし、できない事もあると思う。」
私は全部やってもらってしまっているから、さほど苦労していないけど。今は。
「そっかー、なるほど、その辺は俺たちがフォローすればいいね?もしくは、台所とかも、薪を使えたほうが良いのかな?」
えっ、料理全部魔法でやってたの?あ…、だから巨大肉パイが焼けたのかな?
「是非そうしてあげて下さい…。お水とかも、井戸があったら気兼ねなく使えるんだけどね…。」
「掘っちゃいますか。」
掘れちゃうんですか。
「穴は直ぐに掘れますが、組み上げ用の仕掛けや、木枠は職人さんを手配する必要があります。」
「そうですね、ではそれは追々…。」
「布団とかはあるのですか?」
「来客用の物があります。」
「俺、干してきますね!」
「では、私は家具の点検を。しばらく使っていないですから。」
「私もお部屋、見に行きたい!」
ルシアの部屋!
…
…
「うーん、ホコリが溜まっていますね。一度掃除をしますから、ミア様はここでお待ちを。」
カイルがいつもの、風魔法ブワーをやっている間、ロイは布団を干している。
「…もしかして、私が来る時もこんな感じだった?」
何となく、初めてここに来た日、二人が汗をかきながら出迎えてくれた姿を思い出した。
「ええ!全く良く似た状況でしたね!前日の夜に言われて、一日中カイルと、てんてこ舞いで…」
布団をバンバン叩きながら喋っている。
「…その通りです。だからこそ私は、旦那様が今日にでも連れてくる気がしてならないのです…夕食どうしましょう…。」
おお、カイルが困ってしまっている。珍しい。
「カイル、お部屋は私が見ておくわ。後はタオルとか、シーツとかを用意しておけばいいのよね?ロイとやっておくから、カイルは夕飯の支度に行って。」
そう言うと、カイルは、すみません、と謝りつつも、ホッとしたように母屋へ向かった。
私は、ルシアの部屋に、母屋で余っている調度品を運び込む。毛布やベッカバー、花瓶や水差しなどなど、ルシアに似合いそうな物を選び、並べていく。
カイルも、薪を運んだり、クローゼットの立て付けを直したりしている。
ある程度もう良いかな…というところで、馬車の音がした。ロイと顔を見合わせる。
「カイルの予想が当たりましたかね。」
「行ってくる!」
…と、駆出そうとして、ハッとしてから、しずしずとした歩きに変更した。
「どうしたんですか?」
「…走って行ったら、腰を抜かされてしまうわ。」
「…礼儀的な意味ですか?」
「うん…。」
今更、ラグに子供みたいに甘えている事が、ルシアにバレるのが恥ずかしくなってきたぞ。
いかん、ルシアにはどんな感じで接してたっけ。成長どころか、退化している事がバレてしまう…。
「おっあの方ですか!?確かにミア様と同じ色合いですね!」
「色合いって…、!!」
ルシアが駆け寄ってきた!
「ミレイア様!」
うわあ、ルシアだ…、胸がふかふかだ…。じゃない、
「ルシア、元気だった…?ずっと連絡をとれなくてごめんなさい…。」
「良いのです、事情はラグレシオン様から聞きました。本当にご無事で良かった…!」
ぎゅう、と抱き締めてくれた。
別れのときは、もう二度と会えないと思っていたのに…。
こうしてまた会えた喜びが、じんわりと心に染みてきた。
視界に入る髪色が、記憶よりも白い。薄いグレーの髪色が、ほとんど真っ白に近くなっている。
ルシアが、私の両頬に手を添え、じっと見つめる。オレンジがかった明るい赤色の目は、記憶と変わらず、暖炉の火のように暖かかった。




