ルシアの手紙
陛下は、突然のおじいさん二人の交換条件の提案に、少し渋い顔をしながらも、数通の手紙を差し出して言った。
「今日ここに呼んだ、もう一つの用件だ。…別にわからなくても、会わせないというわけではないから気にするな。バルディ、ちゃんと説明してくれ。」
陛下に促され、宰相がちゃんと説明してくれた。
…孤児の誘拐、魔石の買い集め…。
悩み込む私に、ラグが声を掛ける。
「はっきりした答えは気にしていないんだ。ただ、何か見たこともない兵器とかを使われると、騎士団の犠牲が大きくなりそうでな…、ちょっとしたヒントでもあれば、と思って聞いているだけなんだ。あまり悩まないでくれ。」
うーん、これどこまで話していいんだろう?
お祖父様に「皇族だけの秘密」とされたのは、出来れば話さないほうが良い…。話せそうな部分だけ…。
「孤児は、恐らく魔力が目当てでしょう…」
そう口にすると、皆が驚いたようにこちらを見た。
「魔力?魔法石だけでなく、孤児も魔力目当てなのか?」
「帝国と王国の民の魔力差は、かなりのものがあると感じます。帝国の平民には、ほとんど魔法を使えないものもいますから。」
話に聞いていた印象よりも、開きがある気がする。
「…やはり戦争に使うということか?」
「直接攻撃させる可能性は少ないでしょう。そんな事をしても騎士団には勝てないのは自明の理ですから。」
「では、やはり兵器か何かを開発しているということかの?」
「兵器は、新しいものを開発している可能性は高いでしょう。でなければ勝ち目はありませんから。…ただ、ラグ達なら用心すればそれほど問題はないかと思います。」
「というと?」
「起動を魔法でやるにしても、結局は物理攻撃になるからです。魔法を使って、大量の矢を降らすとか、巨大な何かを飛ばすとかですね。帝国側としては、罠をたくさん用意しておいて、王国に攻めてきてもらうのが、一番効率が良いでしょう…。騎士団に対抗できるような強力兵器は、開発できたとしても機動力はなさそうです。」
あっても重火器の類だけど…、ラグなんか、そのままで歩く火炎放射器だからな。
地球の拳銃を用意しても勝てる気がしない。
「なるほどな…罠をならば、時間をかけられれば、攻略は可能だろう。地上で何をしようが空を飛べばいい。」
…飛べんのかい!!
…まあ、ラグ並みの魔力で、風魔法の使い手がいれば、そりゃあできるよねー、今日あったマーカスなんか、まさに出来そうだ。
「本当にそれだけかの?あの皇帝が勝算もなしに仕掛けてくるじゃろうか。」
やっぱりそう思いますよね~。私もそう思う。
「王国の騎士団の魔力を甘く見ている部分はあるかとは思いますが…、…陛下、国境の管理は、現在、国王が管理していますか?」
突然の質問に、陛下は首を傾げる。
「騎士団の国境警備隊が守っているが…?」
違う、そうじゃない。
「国境の、結界魔法の管理のことです。」
こう言っても、陛下は更に首を傾げる。もちろん他の3人もだ。
まさか、この国の王族は、国境の結界魔法を知らない…?
考え込む私に、宰相が焦れたように聞いてくる。
「国境を守る結界魔法などは、古代魔法の類で、今生きている人間がどうこうできるものではないだろう?」
そう、一般的にはその認識で間違いない。
この長細い大陸を3つに分ける2本の国境線は、東西に真っ直ぐ引かれている。定規を引いたように真っ直ぐだ。
その国境は、黒い石で造られた塀が続いており、塀自体はそれほど高くないのだが、その上に天まで伸びる結界の壁あり、その結界は何も通さない。
本当に何もだ。矢も魔法も、空気すら通さないという。
人の行き来には、この黒い塀に取り付けられた、2箇所の門だけが、唯一通れる関所である。
…だから、この世界の亡命は、めちゃくちゃ大変なのですよ。
とにかくこんなわけで、誰が、いつ、どうやって作ったのかもわからない。『とにかく凄いもの』、『古代の遺物』として、使い続けられているのに、どうやって動いているのかは誰も知らないという代物だ。
無言になった私に、慄くように陛下が尋ねる。
「まさか、結界を消す方法があるのか…?!」
宰相や公爵の顔色も悪い。国境沿いのどこから来るかわからないのは、怖いよね。
…でもラグは平気そうだな。頼もしい。
「そう聞かれますと、分かりません、と言うしかありませんね。…お祖父様は、私を最初から国外に出すことを念頭に教育して下さいましたから。他国に漏れて困るような知識は教えてもらっておりません。」
…これは本当。推測させようとはしていたと思うけどね。
「…ただ、国境の魔法について、『私は知る立場にない』と言われたことがあるだけです。そして、『簡単にどうにかできるものではない』とも。」
陛下の眉間の皺が深くなる。
「帝国の皇帝は、『知る立場』である可能性が高いということか…」
…そういう事ですね。そして、『どうにか』の方法に、孤児の魔力の使い道があるのではないかと思う。結界魔法がどのような属性で動いているのかは分からないが、子供はまだ、属性が決まっていないから、どんな配分の属性も作れる可能性は秘めている。
…
私の発言により、諸々考え直すと言うことで、私は一足先に返された。おじいさん二人も、ルシアを迎え入れる許可をしてくれた。ルシアは、ラグが迎えに行ってくれるらしい!
…………
………
帰りの馬車で私は、本当にあの発言をしまって良かったのか、1人で悶々としていた。
国境を守ることが難しいとなれば、騎士団が帝国領土に先制攻撃をするという話になるかもしれない…。いや、王国国民を守るのには、それが最善だろう。利用されている孤児のこともある。
…ラグが、叔父上を殺すのは別に良い。けれど、お祖父様が守り続けている帝国の地に、ラグが攻め入るのは、想像するだけで辛い。
木造の建物の多い、地方の村々は、ラグの炎で一瞬で消し飛ぶだろう。そうして
帰ってきた、ラグを、私は笑顔で迎えられるのだろうか。
ただ、勤めを果たしただけのラグを、詰ってしまったりしないだろうか。




