呼び出し
ラグが驚くべき知らせを持ってきた。
ルシアが、この国に来ており、私と連絡を取りたがっているという。その事で王宮に来るようにと、呼び出しがあったそうだ。
もちろん私も、ルシアの事とあらば、王宮だろうと、金髪ひげ野郎(国王陛下)の呼び出しであろうと、喜んで応じる。
手紙が来ていたのは、2年前だと言う。…ルシアの身が心配でしょうがない。本当にもう一度会えるのだろうか。ひどい目に合っていたらどうしようかと、その夜は寝付けなかった。
明日のお昼過ぎに、陛下の都合がつくから行こう、と気軽にラグは言う。
「早いほうがいいだろう」というラグの意見に、気持ちとしては大賛成なのだが、王宮に上がるための服がないのだけが困った。後宮にあったドレスは、まだ届けられていないし、唯一着てきた服もボロボロだ。あの時は許されたが、さすがに今回は無理だろう。…ラグの評判にも係ってしまう。
カイルが午前中時間をもらえれば、王都の御用達の店に、買いに行ってくれるというので、朝はラグだけ出勤し、私は後から馬車で向かうことになった。
朝一番でドレスを取って来たカイルは、私に着せて最終調整をしてくれている。凄い…本職の針子のようだ。スペック高いな、カイル。
「それにしても、王宮に上がるための服なんて、こんな急に、よく用意出来たわね。」
危うくラグに恥をかかせるところだった。大変ありがたく思っているのだが、カイルは不満なようだ。
「…本当は、このよう既製品ではなく、デザインから調整まで、オーダーメイドでやってもらうべきなのです。」
「カイルの腕はプロ並みよ?まるであつらえた様になったわ。」
くるっとその場で回ってみせると、裾がふんわりと広がる。淡い黄色に深緑を基調とした、そこだけ春が来たような可愛らしいドレスだ。
ふふっ、と微笑むと、カイルも満更ではない表情で頷いた。
「今回のところは、これで我慢しましょう。旦那様に許可を貰って、今度仕立て屋をよびましょうね。」
「ええ、ありがとう。」
カイルが私の全身をぐるりと見て、チェックをする。
「…髪は降ろした状態でよろしいでしょうが、毛先だけ揃えさせてくださいね。」
一度ドレスを脱がせ、髪まで整えてくれる。野性生活ですっかり傷んでいた髪は、この家に来てからのカイルのお手入れで、すっかり艶を取り戻している。
背中の肩甲骨の辺りで切りそろえたら、何だか帝国を出た、2年前に戻った気分になった。ちょうどこんな長さだったな…。
軽くお昼を食べてから、再びドレスを着て準備をしていると、ロイが呼びに来た。
「お迎えが来ましたよー。騎士団の人らしいです。」
「おや、わざわざ隊員を寄越してくださったのですね。さあ、ミア様参りましょう。」
門の外には、馬車と御者が待っており、騎士が一人その脇に立っていた。
「お初にお目にかかります。王国騎士団第一隊所属のマーカス・フリントと申します。マーカスとお呼びください。…ラズノール…夫人?」
ぴしっと挨拶をした、隊士だったが、私を見て、最後が困惑気味になった。気持ちは解るが、もうちょっと頑張れ。
「ミレイア・ラズノールです。今日は宜しくお願いいたします。」
…うーん、「主人がお世話になってます。」とかやってみようかと思ったけど、いざとなると恥ずかしいな。
マーカスのエスコートで、馬車に乗り込む。カインとロイは、残念ながら付いてこれないそうだ。かなり内密の話になるらしい。
馬車の中ではマーカスと二人で、自然と共通の知り合いであるラグの話になる。
「マーカスは、ラグレシオンとは親しいのですか?」
「団長には、入隊時よりずっとお世話になっています。騎士団は皆、団長のことを慕っております。」
マーカスは25〜6歳くらいだから、入隊規定年齢の15歳で入ったとすると、かなり長い付き合いなのだろう。
「騎士団の皆さんの話は、よく聞いています。皆さん楽しそうな方々のようだから、会うのを楽しみにしていたんですよ。」
ニコニコと笑って言うと、マーカスは少しホッとしたようだ。私の肩書と見た目から、どんな人間か測りかねていたのだろう。
「そうですか!是非騎士団にも訪ねてきてください!…今日も、団長のお嫁さんの顔が見れるっていうので、この役の競争率すごかったんですから!」
私は、珍獣かなにかかしら?
「ふふっ、ラグは本当に慕われているみたいですね。許可が出ればぜひ行ってみたいです。」
特に副団長さんには、日頃の感謝とお詫びを言いに行かなければ。
「ええ!団長は皆の憧れなんすよ!、誰も敵わない怪物みたいな強さなのに、気さくで優しくて!この前の演習の時なんて…………」
しまった、何かスイッチが入ったようだぞ。ラグのファンか…大変結構。
思う存分、仕事中のラグの情報を頂いていると、王宮の門まで来てしまった。
分厚い王宮の門をくぐると、シンダルシア王国の宮殿が視界いっぱいに広がっているのが見える。
王宮の建物は、ボコボコと四角いブロックをくっつけて合わせたような、奇妙な形をしている。なんとも不思議な様式だと、初めて見たときは思ったが、ラグ達の魔力を知った今は、理由がわかる気がする。
恐らくは、土魔法で部屋を好き勝手増築したりくっつけたりいた結果なのだろう。魔法で作った宮殿の壁は、つなぎ目もなく、一枚岩から削り出したかのようだ。
ポコポコとあちこちに立つ建物の間を縫うように通り抜け、比較的スッキリとした四角い建物の前で馬車が止まった。
入り口でラグが手を振っている。笑顔で馬車から手を振り返すと、マーカスもぶんぶん振っていた。
馬車の扉が外から開けられ、ラグが抱えて降ろしてくれる。
「それでは団長、自分はこれで失礼します。」
マーカスはここでお別れのようだ。
「マーカス、楽しい話をありがとう。また機会がありましたらお会いしましょう。」
「ありがとな、マーカス。」
二人でお礼を言うと、嬉しそうな顔で敬礼をして、弾むような足取りで駆けていった。
建物の扉をくぐりながら、ラグがこっそり聞いてくる。
「…楽しい話って何だったんだ?」
「ラグの武勇伝。」
いっぱい聞いたよ!と笑うと、ちょっぴり渋い顔をした。
「やっぱりか…。あいつの言う事は、話半分に聞いておけよ。すぐ話を盛るから。」
「え〜、『反乱した領主の城を、証拠ごと砂粒に変えた』とか、『演習場を破壊し過ぎて、ラグだけ演習の時は魔法禁止』とかも嘘?」
超かっけえ!って思ったのに。
「…嘘ではないが、何でアイツは寄りにも寄って、叱られまくった失敗を話に選んだんだ…。」
ラグはうなだれるが、ファンが喜ぶ武勇伝って、そんなものだと思うよ。
「あれ、前と同じ場所だったんだ。」
扉の前の廊下まで歩いてきて気づく。後宮を出た後に通された部屋だ。
「入り口が前と反対側だからな。こっちが表側、前の場所が裏口だ。」
裏口とは思えない大きさだったから気付かなかったよ。
ラグが大きな扉をノックすると、中から声が聞こえた。
「入れ」
金髪ひ…陛下の声だ。
ラグに連れられて、部屋に入る。ラグにエスコートされるのは、なんだかくすぐったい。
部屋には、陛下とおじいさんが二人。内ひとりはバルディ宰相だ。もう一人も見覚えがあるな…。銀色の長髪に、緑の目…、あ、確か外務大臣の。
「シルバ公爵様、大変ご無沙汰を致しております。ミレイアです。」
ギリギリで思い出し、挨拶をすると、公爵も笑みで返す。
「ほっほ、先の婚姻式でちらりと挨拶をして以来ですな…。お元気そうで何よりでございます。この度の件、センドリア様に託されておったのにも関わらず、辛い目に合わせたこと、大変申し訳なく思っておりますじゃ。」
「いえ、お祖父様には、婚姻の為にご尽力くださいました事、聞き及んでおります。それだけで十分でございます。」
お祖父様は、私を国から出すことが最優先で、王の女嫌いについては二の次だと考えていたんだろう。実際に私はまだこうして生きているのだから、文句は…さほどは、ない。
コホンと、女嫌いの陛下が咳払いをして、本題を話し出す。
「ラズノール夫人…、ミレイア嬢でよいか?話しにくい。」
うん、私も一瞬誰のこと言っているのかわからなくなるよ。
頷いて承諾をする。
「ミレイア嬢に来てもらったのは…、2件ほどあるのだが、先ずは一つは、押収品の中から見つかった手紙の件だ。…こちらを読んでみてくれ。」




