帝国の企み
俺がジークフリートに呼ばれて執務室に行くと、そこには、宰相のバルディに加えて、シルバ公爵が待っていた。
「すまん、遅くなった。」
「ああ、忙しい中すまないな、座ってくれ。」
ジークフリートに促され、シルバのジジイの隣に座る。そこしか空いていないからだ。
「いや、要件は例の件に関してだろ?」
あれ以来、調査が進められているが、きな臭い気配はそこかしこに出てきているのに、核心には届かない、なんとも消化不良の状態が続いている。
「ああ…グスタフの聴取でも、中々成果が出なくてな…。騎士団から得た人攫いの件で揺さぶりをかけたものの、『王国の為にやった』の一点張りでな。正直、真意がわからん。」
ジークフリートも手詰まりを感じているようだ。厄介な人物を、捕まえられたのは良いが、何を企んでいたのかわからない、では気味が悪いからな。
「それで、シルバ公爵はなぜここに?」
「ほっほ、わしが陛下の執務室にいては悪いのか?」
「悪いとは言っていない…、何か用があるから来たのだろう。」
「わしも呼ばれただけじゃよ。陛下に聞いてくれ。」
質問を回されたジークフリートが、説明する。
「公爵は、長年帝国との外務に携わってきたからな、帝国の言語や文化にも詳しい。そのため意見を聞きたくて呼んだのだ。」
バルディがここで、何通かの手紙を取り出した。帝国語で書かれているようだ。
「グスタフの家で発見された、手紙です。目を通したところ、やはり人身売買を伺わせる内容と、魔法石なども帝国の商人を介してやり取りをしていたようです。」
「公爵は、帝国が王国民を使って何をしたいか推測はつくか?」
そう聞かれ、シルバ公爵は手紙を眺めながら、少し考え込む。
「この手紙を送った商人が、皇帝に近しい人間だということは解る…、紙やインクは上質なものだし、封蝋が皇族御用達に許された物のようだ。じゃから、現皇帝の企みに繋がっている可能性が高いとは思うが…、王国の孤児を何に使うかまでは…、魔法石に関しては戦争に使うと考えるのが妥当じゃろう。とすると、孤児も戦争に使うのか…?」
戦争に…、一番嫌な使われ方は、盾にされる事だが…。それはバルディが否定する。
「人質にするなら、孤児ではないものを攫っているだろう。…そのほうが効果が高い。」
良家の子供であっても、孤児に比べて面倒はあるが、けして攫えないではない。…孤児に同情を寄せてまで、自分達の身を犠牲にする者もほとんどいない。経験上知っている。
「戦争に…と言うことは、孤児が必要な、何らかの武器を使うと言う事か?我々が知らぬ、新しい武器でも開発したのだろうか?」
「そのような情報は入っておらぬが、秘匿されていれば、あり得るな。」
…見た事もない武器を使われるのは危険だな…、初見で当る隊士の犠牲が大きくなる。
「何とか、少しでも情報が欲しいな…。」
そう呟くと、シルバ公爵がとんでもない提案をしてくる。
「ミレイア様に聞いたらよかろう?いま王国にいる中で、もっとも皇帝ついて知るものであろう。」
何を言い出すんだ。
「子供に戦争について知恵を借りるのか?!ミアは、現皇帝とはほぼ顔を合わせたことはないと言っていたぞ。」
「そうではあろうが、少なくともわしに聞くよりは、何か知っているかもしれぬ。子供といえど、智慧の神バッファーラルの化身とまで言われた、かのセンドリア上皇に教えを受けたものじゃ」
センドリア上皇…、ミアが言う「お祖父様」か。ミアは「お祖父様」のことを、強く慕っているようだから、聞き方が難しいな…。
俺が悩んでいると、バルディも賛成する。
「わしも聞く価値があると思いますぞ。先日の対面では、子供とは思えん思慮深さじゃったからな。」
…ようやく痩せこけた頬がまともになってきたあの子を、巻き込みたくないと言うのが正直なところだが…。確かにミアは、俺でも全く知らない知識や、その辺の大人以上の判断力を持っている。
「…聞くにしても、何処まで話せばいいんだ?」
そう尋ねると、ジークフリートは考え込んでから、何かを決意したように言った。
「一度、王宮に呼ぶことにしよう。…話したい事もある。」
「話したい事?」
ミアはもの凄く嫌がりそうだな。ジークフリートのことが話題に出ると、未だに顔を顰める。
「ああ、グスタフの持ち物の中に、ミレイア皇女宛の手紙があったのだ。…恐らく届けずに途中で盗ったものだろう。それを返そうと思うのだが、内容がちと厄介でな…。」
それを早く言え。だが厄介とは?
「厄介?」
「上皇が亡くなったことを伝える内容なのだが、皇女と親しくしていたものからのようで、会って話がしたいと、連絡を取る方法を記載しているのだ。…王国に亡命してきているらしい」
「一刻も早く伝えるべきだろう。それが理由なら、ミアも直ぐに了承する。」
今の情勢で、簡単に接触させることはできないため、王宮に呼んで話を伝えることになるのは仕方がない。本当に親しい者ならば、ミアが喜ぶだろう。
…ずっと知らせを出せなかったことを悲しみもするだろうが…。




