ラタの実
今日も奇跡的に、団長は大人しく机に向かっているが…。流石にちょっとソワソワしているな。執務室で書類に目を通している団長の足元は少しせわしない。
しかし、忙しいタイミングで、行方を眩ませないでいてくれるのは、正直助かる。
「団長、グスタフ侯爵家の、捜索班のメンバーと、王妃達の実家の捜索班のメンバー候補がこちらです。よろしければ、サインをお願いします。」
「ああ、…良いだろう。これでやってくれ」
「団長、後宮内の捜索班から、昨日分の報告書が上がってきました。確認お願いします。」
…などなど。
後宮の大掃除に伴い、騎士団はてんやわんやの状態だ。主に動いているのは、王宮警護を担当する近衛隊と、陛下直轄の情報部隊ではあるが、人手が足りずアチコチから人員を確保しようとしている。
「帝国の国境警備班も、そろそろ交代しないといかんしな…」
「ええ、真冬に向けて、装備を整えた者たちを向かわせなければなりません。」
国境近くは、寒さが厳しいため、隊員達も敬遠しがちだ。
後宮捜索班の報告を読んでいた団長が、顔を上げた。
「ヨシュア、グスタフの取り調べの報告は上がっているか?」
「いいえ、そちらは情報部隊が担当ですので、直ぐには来ないでしょう。…何か気になることでも?」
「ああ…、後宮の捜索班の報告で、グスタフが王妃たちを通じて、彼女たちの実家に手紙を送っていたらしいのだが、その中に、何度か『ラタの実』の文言を見かけたという証言が上がったそうだ。」
「『ラタの実』?普通にその辺りで売っている果物ですよね?夏によく食べる…」
「そうだ、…お前は知らなかったか?ラタの実は、苗や種植えなくても、鳥が運んでくれて勝手に生えてくることが多い。…親がいなくても育つ、という意味で、犯罪組織では『孤児』の隠語に使われることが多いんだ。」
近くにいた、平民出身の隊員も同意する。
「一般人でも、下町じゃあ時々聞きますね…、きな臭い話になってきましたね。」
「もとから容疑は真っ黒だからな、人を攫って帝国に売りつけているっていう噂が、現実味を帯びてきたというところか…。」
湧き上がる嫌悪感に、思わず顔が歪む。国民を外国に売るなど、貴族として頭がどうかしている…!他の隊員の顔も険しい。
「至急、王都警備隊に聞き込みを徹底させましょう。実際に居なくなっている事を確認できれば、取り調べにも役立つでしょう。」
先程の隊員が飛び出していく。
「自分が行ってきます!今までは孤児のことは取り合っちゃくれなかったけど、帝国が絡んでるとなれば、警備隊も真剣にならざる得ないでしょう!」
…攫い易いから、孤児を狙うとしても、一体なぜ…。
「帝国は、王国民を攫ってどうしようというのでしょう?」
「わからん、グスタフが何か喋ればいいが…、捜索班にも伝えて、徹底的に洗い出せと伝えろ。攫った孤児を集めている場所も見つかるかもしれん。」
「はっ、了解致しました。」
「俺は、陛下にこの事を伝えてくる。」
「いえ、報告には別のものをやらせますので、団長はここの仕事を続けてください。」
「…ちっ」
逃しませんよ…。




