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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
帝国騒乱編
70/250

暖房用魔法紋

 

 次の日も、その次の日も、ラグと一緒に目を覚まし、出勤の身支度に跡を着いて回る。ふかふか布団と安心感に包まれて眠ったおかげで、まだ半分夢の中のまま一緒に朝食を食べる。とてもおいしい。


 仕事に行ってしまう前にギリギリまで甘えようと、ラグに抱き上げてもらっていると、無常にも、ロイがラグの馬を引いて来て、出立を促す。


「名残惜しいのはわかりますけど、そろそろ出ないと」

「…ああ、ミア、すまんな、今日も早く帰れるようにするから。」

 ぎゅうっ、てしてくれるので、首元にしがみついて頭をグリグリした。

「うん、お仕事頑張って…。」

「ああ、頑張るよ。」

 申し訳なさそうな顔で地面に下ろされる。


「いってらっしゃい……」

 …やっぱりしょんぼりしちゃうな。


 3人で、姿が見えなくなるまで見送る。

 ……

 …

「さて、そろそろ家に入りましょう。私は、村の方で打ち合わせがあるので、掃除を急いで片付けなくては。」

「俺は馬小屋の掃除からかな。カイル、買って来て欲しい物がいくつかあるんだけど、村に行くときについでにお願いしていいですか?」

「ええ、かまいませんよ。ミア様は、今日はどうされますか?」

 カイルとロイが、今日の予定の話をして、私にも尋ねてきた。


 どうしようかな…忙しいなら、邪魔したくないし。

「村には、まだ行かない方が良いのよね?」

「最初に行くときは、旦那様が一緒の方が良いでしょう。何かあった時に、私どものでは対処が出来ませんから。」

「うーん、では、カイルがラグの部屋の掃除を済ませたら、部屋にしばらくいることにします。」

 持ってきた手荷物の整理とか、全然していないし、新しい道具作りのことについても考えたい。

「わかりました、手早く済ませてしまいますね。」


 …本当に、手早いよね、いいなあ、魔法上手…。

「ミア様、片付けましたので、後は自由にお使いください。棚や物入れには、武器なども入っているのでお気をつけください。」

「わかったわ、ありがとう。文机は使っても構わない?」

「ええ、机に紙とペンも入っているはずです。」


 次の作業に向かうカイルを見送ってから、寝台脇の棚から、ウエストポーチくらいの大きさの、後宮から持って来た唯一の手荷物を取り出した。

 中に入っていたものを、床に広げてみる。肌身離さず持っていた大事なものや、日用品の類だ。

 その中の、お祖父様から貰った魔法石と、ハンカチやドレスに刻んだ魔法紋の布切れを選び出し、文机の上に乗せる。自分で工夫した、魔法道具も、使えそうな物をより分けておく。

 非常用の干し肉と、焼いた木の実はどうしよう。…もうちょっと持っていようかな。同じく手製の、スプーンや器は、何となく捨てがたいので取っておく。手製の下着は、部屋の暖炉で即隠滅した。

 ローブや水筒等の、森でしか使わなそうなものは、スプーンや非常食等と一緒に、もう一度しまっておくことにした。


 椅子に乗って文机で作業をしょうとしたら、又しても背が届かない。仕方がないのでひざ立ちで椅子に乗り、文机に向かう。まずは魔法紋付きの布の整理から。

 魔法紋付きの布は、普段使わないものは誤作動を起こさないように、ノートに挟んでいる。


 このノートも、帝国時代にお祖父様と一緒に作った物だ。決まった手順で『開封』の手続きをしないと、ページ同士がぴっちりとくっついて開けられない使用になっている。「メモをしないと覚えられない」と言って、お祖父様に泣きついて作らせてもらったのだ…。

 もちろん、紋の作り方や記号の意味等の核心部分は、書かないように厳命されている。


 一枚ずつ、汚れや劣化がないか、確認して行く。汚れてしまったものは、効果の

 内容に合わせて洗浄しなくは。


 えーと、これは防音用魔法、こっちは毒探知用、…王国に来て一ヶ月は大活躍だったな。飲用や洗顔に便利な噴水魔法、乾燥用魔法は意外と使ったな。

 防御用が一番種類が多い。魔法攻撃無効化や飛来物防御は、王宮ではずっと握り締めていた。武器の防御は出来ても、体当たりで攻撃されるのは想定していなかったら、獣相手には通用しなかったけど、衝撃吸収用魔法のおかげで、致命傷は何度も避けられた。靴の痛み緩和用魔法や手汗防止用魔法はあまり使わなかったな…、すごく便利!って盛り上がったのにね。


「ミア様、どうされたのですか?」

 突然背後から声がかけられた。カイルが、私が居間で使っている、椅子を持って立っていた。何か驚いているようだ。


「あ、椅子を持ってきてくれたんですね。ありがとうございます。ちょうど困っていたのです。」

「…机に届かなかったので、泣いていたのですか?」

 ……

 …

「泣いていません。」

「……そうですか。」

「はい、椅子ありがとうございました。」

 にっこりと微笑んで、お礼を言った。


 カイルが再び出て行った後、顔をぬぐい、気合を入れなおす。

 さて、作業を続けよう。…汚れた魔法紋の手入れは、後でやることにして、この家で使えそうなものを、新しく作ることにしよう。助け出してくれたラグには、特に役立つものを贈りたい。

 以前、寒いのが苦手といっていたな…。実際に、この部屋にもとても大きな暖炉があり、まだ秋だというのに、夜はしっかり火を入れているので、これはかなりの寒がりと見た。

 部屋全体を暖めるのには、暖炉が有るから、作るとしたら…、空気循環用か、窓からの冷気を遮断するもの、後は…、布団を暖かくするとかかな…。


 しかし、暖かくしすぎると、私がツライ。

 私は比較的、寒いのは平気である。離宮では、布団だけあったか効果をつけて、ほとんど暖炉は使わなかった。気配を感じさせないように気を付けていたというのもあるが、帝国の冬と比べたら、あまり寒いとは思わなかったためだ。


 …ラグだけ暖める事が出来たら、便利かもしれない。

 そんな事ができるかな…?お祖父様の紋が何かヒントにならないかと、パラパラと見返す。すると、使えそうなものを一つ見つけた。

『魔力が多い生き物』、つまり想定しているのは人間だが、それが範囲内に入ると、『弾き出す』という紋があった。この魔力量の部分を調整して、効果を『暖める』にすれば、狙っているものが出来そうだ。

 …しかしめちゃくちゃ複雑な紋だな…、私にうまく作れるか自信がない。取り敢えずペンで紙に書いて、色々と思案する。

 服の内側につけちゃおうかな、そうすればラグだけ温められる。…イカンイカン、逃げてはいけない。日々精進ですよね、お祖父様!


 気合を入れて、あれこれと構想をねっていると、ロイが呼びに来た。もうお昼ご飯の時間らしい。

 森では、一日2食食べれれば良い方だったから、今の暮らしが幸せすぎてちょっと怖い。

 カイルが村に行ってしまったので、ロイが作ってくれた。バターとフルーツジャムがどっさり乗った、パンケーキ三段重ねだ。ああ、幸せが怖い…、パンケーキ怖い…。

 食事中のお話も楽しむ。


「ミア様は、何をされていたんですか?」

「ラグのために、冬用の暖房器具を考えていたんです。」

 ロイも、私が魔道具を作ることは聞いたらしく、驚きもせずに、話を聞いてくれる。

「良いですね、確かに旦那様は寒がりですからねー、どんなやつです?」

「んー、まだ考え途中で…、取り敢えず布団を暖かくしようと思うんだけど、ラグに合わせて暖かくすると、私が暑いかもしれないと思ってて…」

「なるほど…、そうだと思いますよ。毎年暖炉の火の加減については、よく旦那様とモメますもん。」

「やっぱりそうなのね…、というか、ロイも譲らないのね?」

 相手は旦那様なのに…、それほど暑いと言う事かな?

「カイルさんも寒がりだから、俺だけ我慢することが多くて、時々文句を言いたくなるだけですよー。」

「へー、カイルも寒がりなのね、じゃあ余計に作り甲斐があるわ。」

「そうっすね!是非個別に暖めるようなものを作ってください。…じゃないと、ミア様も暖炉の熱で、茹だる日々が続く羽目になりますよ…!」

 なるほど、それは嫌だ…。

 ロイはさらに、からかうように言ってくる。

「それに、暖かくしすぎたら、ミア様は今までのように旦那様にくっついて寝ていられなくなるんじゃないですか?ああ、むしろちょっと寒いほうが、旦那さまの方からくっついてくれるかもしれませんよ!」

 私は目からウロコが落ちた。なるほど!

「確かに…!ラグに作るのは、外出時用の物だけにしましょう!」

「いや、ちょっと待って、それじゃあ暖炉の熱問題は解決してませんて。ミア様を抱えていても、暖炉の火は抑えてくれないでしょう。」

「えー、じゃあ、足回りだけ何とかするか…」

 後は私が引っ付いて、人間カイロになろう。

「カイルがかわいそうですよ…」

「カイルには、懐に入れる温かいものでも用意します。」

 ホッカイロみたいなやつね。ラグにはあげぬ!

「まあ、それならいいか…?」

 変な悪知恵をつけてしまっただろうか…、とロイがぶつぶつ言っていたが、気にしない。ふっふっふ、良い事を教えてくれたわい。




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