お手伝い
未練がましく見送ったあと、諦めて家に入る。
「今日は何するの?家事を手伝うわ。」
気を取り直して聞くと、カイルにやんわりと言われた。
「ミア様は当分、食べて寝るのが仕事です。こんな小さな家は、二人で仕事すればあっという間にやることが無くなるんですから、ミア様の仕事はありませんよ。」
私健康体なのにな…ちょっとガリガリだけど、動き回るのに不都合はないよ?
「流石に食べて寝るだけは辛いです…。」
不満を訴える。ただの居候は辛い。
「うーん、お絵かきセットとか絵本とか、行商人に持ってきてもらいます?」
ロイがそんなことを言う。
「一時的に幼児化しましたけど、私は幼児ではありません!一応シンドリア王国の一般教育は高等学校までのものをたたき込まれています!」
お絵かきセットは勘弁してくれ…。必死で訴えると、二人は今更、私の身分を思い出したらしい。微笑ましい目線をやめて、考え込む。
「確かに…皇女さまに、庶民の子供向け絵本は駄目か…」
「えー、でもそうすると家事もさせちゃだめじゃん。」
あ、それに気付かれてしまった。
「え、ええと、今日は取り敢えず、ロイとカイルの後をついて、眺めていて良いですか?この家の事とか知りたいので。」
と、提案すると、他に思いつかない二人は、諦めて承諾してくれた。
…
…
まずはカイルの後を付いて行く。
「私が主に旦那様と…これからはミア様のでもありますね、家の中の事を担当しています。」
そう言って、1階の、先ほど食事をした居間に戻る。食事の食器を片付け出したので、便乗して手伝おうとするが、手が届かないのであまり役には立たなかった…。
大人しく背後で、食器を洗うのを眺めて待つ。
「次は掃除をします。先ずは2階から。」
掃除用具を手に、階段へ向かうカイルを再び追いかける。
「2階は、旦那さまとミア様専用になりますね。食事は皆で1階で食べる事が多いですが、2階には掃除以外では、あまり上がりません。」
「ご飯は、いつも皆で、なのね?」
それはかなり嬉しい。
「ええ、旦那様の方針です。家の中まで貴族でいたくない、と言っていました。」
うん、それは大賛成だわ。でも…、
「国王陛下の前でも、ラグはあのままだったよ?」
そう言うと、カイルはさもありなん、という顔で頷いた。
「親友だそうですからね…。ああ、こちらがミア様のお部屋になる予定の場所です。狭くて申し訳ありません、これがこの家の限界でして…。」
そう言って、ラグの部屋の隣のドアを開けてくれた。
8畳くらいの板の間で、大きな窓が一つ。家具は何も置いていない。
おお、なんか新生活の夢が広がるわ。なにより、この広さが懐かしい。
「今日、明日にでも、村の家具屋に注文に行きますので、希望の物があったら仰ってください。あっちの壁の向こうが物置になっているので、浴室に改装する予定です。クローゼットや鏡台、机と椅子…ああ、何より寝台が真っ先に必要ですね。」
「いらない。」
「へ?」
しまった、思わず本音が。
「そ、そんなに急がなくてもいいと思います、私も成長期ですから、じっくりと長く使えるものを選ぶ必要がありますし?」
そう、こういう物は一生ものだからね!じっくりと考えないと!
「ふふっ、…失礼。そうですね、寝台は、ミア様の反抗期が来るまでには作るようにいたしましょう。」
くっ、見透かされている…。
…
…
カイルは風魔法を上手に使って、チリやホコリを集めていく。魔力も多くて調節も上手だ。
「カイルは風魔法が得意なの?」
「ええ、便利でしょう。昔は行商をやっていたので、荷運びや船旅で必要になって覚えたのですよ。」
ヘー、なるほど、人生経験豊富そうだもんね。
…掃除をあっという間に済ませていくので、手伝う隙がない。
あれ?…窓ガラスを拭くために取り出したタオルを見て、既視感を覚える。
「あ、そのタオル…。」
「ああ、コレですか?旦那様のお知り合いの魔道具士が試作品でくれたとか…。便利なので重宝しています。」
ほう、そう言うことにしていたのか。
「どんな事に使っているの?」
さり気なくリサーチする。
「そうですね…、食器を棚にしまうときの仕上げや、窓ガラスや鏡の拭き掃除の仕上げ、濡れた靴に突っ込んだこともありましたね…。
なるほど、つまりは新聞紙の変わり…。新聞紙のスペックがむしろ凄いのか…。
「ただ、定期的に製作者の方にメンテナンスに戻さなくてはならないという点が、残念ですね。…思いっきり使えないので。」
そうなのよね、だから一般販売は出来ません。だが!この家に関しては、ご安心ください。
「これからは大丈夫ですよ、製作者が常駐しているから。」
そう言って、ちょっと胸を張る。
カイルは、驚いて、
「製作者…ミア様が…?」
タオルと私を見比べる。
信じられないようなので、タオルに魔力を補充してみせると、ようやく納得してくれた。
「…あなたは、色々と奇想天外な面を持っていそうですね。」
「ただの文化の違いです!、私にとっては、魔法でお掃除出来るカイルのが、不思議の国の住民に思えるわ…。」
不思議なものを見るように言われたので、言い返す。…カイルなんて、某魔法使い家政婦並みじゃないか!
…
…
お昼は、パンに具を詰めて焼いた、フォッカチーネのようなものだった。美味しい!これ森でも作れそう!
午後はロイの後を付いて歩く。カイルは家具屋に行くらしい。
「可愛いのを特注してきます。」とか言っていたから、シンプルで!!と、お願いしておいた。残念そうにされたので、最終的にはお任せすることにした。…まあいっか。こういうのもなんか嬉しいし。
「ロイはこれから何するの?」
「俺は庭の手入れですよ。水やりと、草取り。」
うわあ!あの素敵な花壇か!
「手伝う!」
ビシッと手を上げたのだが…
ですよねー。そんな気はしていました。
ロイは一瞬で庭中の花壇に霧雨を降らせてしまった。
くっ、ジョウロが見当たらない時点で気付くべきだった…。
がっくりしていると、
「雑草は手で抜かなきゃならないし、植え替えなんかもほぼ手作業だから、その時は手伝ってくれると助かります。」
と、優しく言われた。
「うん!よろこんで!」
それにしても…
「これ全部、ロイが手入れしてたの?」
どっちかというとカイルかと思った。
「…実家が花屋なんです…。」
「…なるほど、だから好きなのね。」
「いえ…好きなわけではなく…花を育ててないと落ち着かないって言うか…」
「それは、大好きって事じゃない?」
「いえ、季節の行事みたいなもので、生活サイクルなんです。」
…生活の一部になるほど花を愛しているようにしか聞こえないけどなあ…。頑なに好きだとは認めないのは不思議だが、そっとしておくことにした。
ちびちびと、しゃがみこんで小さな雑草を抜く。毎日手入れしているようで、ほとんど生えていないのですぐ終わった。
「次は薪割りですね。」
薪小屋は、カイルとロイが暮らしている建物の方にあった。
ラグの住む建物から、歩いて数十秒しか離れていない。
こちらも、普通の住宅ぐらいの大きさだ。
「ここに、二人で住んでいるの?」
「そうです。旦那様の母屋と違って、小さい部屋がいくつかあって、独立している感じですね。カイルとは住み分けているので、こっちの建物ではかなり自由に過ごしてますよ。」
アパートみたいになっているのかな?
「部屋がいくつかあるなら、他にも人がいたこともあるの?」
「使用人は俺達だけですよ。5年前に俺が雇われる前はカイルだけだったそうですし。時々遊びに来た人が泊まっていくことはあります。騎士団の部下とか…。」
「なるほど、客間も兼ねているのですね。」
「いえ…客間と呼べるほどちゃんとしたところではないので…。国王陛下が遊びに来たときは、泊まりたいと仰っていましたが、流石にご遠慮いただきました…。」
そりゃあそうだ。何やっているんだ国王。…本当仲良いな。
薪割りも、ほとんど手伝えることはなかった。
しかも、「先にお風呂に入りましょう」と言われて、入ったのだが、…ずっと扉の外で見張っていた。昨日溺れそうになったからしょうがないかもしれないけどさ…何だか落ち着かなくて、大急ぎで済ませた。足手まといしているよなあ…邪魔だと思われたらどうしよう…。
しょんぼりと、庭で花壇を眺めていると、
遠くから、馬の足音がした。
しゅたんっ
と立ち上がると、先ず家に飛び込んで、
「ラグが帰ってきた!」
と、夕飯の準備をしているカイルに呼びかける。
その後は、門へ向かって猛ダッシュした。




