騎士団長の…嫁?
騎士団の執務室は妙な空気が漂っていた。
事務仕事を行う隊士達は、チラチラと団長席を盗み見て落ち着かない雰囲気だ。
その空気に耐えかねた副団長のヨシュアが、声をかける。
「団長、なにかありましたか?」
「は?何が?」
きょとんとする団長だが、明らかにおかしい。
「どっから見ても変でしょう!あなたが執務室で半日も仕事しているなんて!いつもは保って1時間で、すぐ外の仕事か鍛錬場に行ってしまうでしょう。」
「あー、あれも仕事だ。サボっている訳ではない。」
「やるべき仕事から逃げるのはサボりです。
なぜ今日はそのサボりがないのか聞いているのです。」
「だから仕事だって。いつもは外の仕事のあと、お前に捕まって机仕事をやらされて遅くなるだろ?今日は早く帰りたくてな。」
「…まさか、それは突然あなたが嫁をもらったと言う事と関係ありますか?」
ヨシュアがその話を聞いたのは今朝だ。今ごろ王宮中に、噂が広まっていることだろう。まさに寝耳に水の心境だ。
今も隊士達が俄然聞き耳をたてている。気になって仕方がないのだろうが、政治が絡む話のようだから、あまり踏み込んで聞いて良いのかわからないのだ。
「まあ、そうだ。まだ小さいから嫁と言われる変な感じがするがな。」
「どんな方なのですか?…皇族の姫君なのですよね?貴方の家に住むのですか?」
団長を迎えに行く際に、家の様子も見たことがあるが、とても皇女が住むような場所ではない。商人の家でも、よっぽど豪邸がたくさんある。
「うん?どんな…そうだな…。ちっこくて、白っぽくて、ガリガリだが毛並みは良いな。ちょっと離れただけでぴーぴー言う寂しがり屋でな…、今朝も出かけるときは今にも泣き出しそうにプルプルしてた。だから今日は早目に帰りたいんだ。」
「…猫を飼い始めたわけではないですよね…?」
ヨシュアを始め、部屋にいる隊士たちが揃って首を傾げた。
……
こうして知らぬ場所で、自分の恥ずかしい話が拡散されてくことを、ミアはまだ気づいていない…。




