幸せな朝
ん〜。なんか良い匂いがする。
ルシアがシチューをつくってくれたのかな…。ん?いや、私はとっくに帝国を出て、森暮らしをしていたはず…いや、あ、私離婚して引き取られたんだった!
ハッと身を起こそうとしたら、
ごんっという頭への衝撃と、「いてっ」と言う声が聞こえた。
「おお、やっぱり起きてしまいましたね。」
ええと誰だっけ…あ
「ロイ?おはよう。ラグは?私寝過ごしました?」
きょときょととあたりを見回す私に、ロイが優しく答える。
「いえ、旦那さまもさっき起きたところですよ、今顔を洗っています。一緒に朝食を食べられますか?」
どうしよう、起きたら朝食ができているという状態が、あり得ない奇跡に感じる。
浴室の中の洗面台の場所に行くと、ラグがヒゲを剃っていた。その隣に行くと、抱えあげてくれたので、洗面台で顔を洗う。
…何だこれ、水を魔法で出していること以外、物凄い既視感だ。無言で流れる様にやってもらってしまった。「お父さん、歯ブラシとって」とか言ってしまいそう…。
一緒に一階に降りる。私は寝ていたときのワンピースのままだ。このゆるさ、最高。
「おはようございます。今朝はパンとシチューですよ。」
カイルが器に盛り付けしながら言ってくれる。
「ふぉー!」
いかん、興奮のあまり声に出てしまった。はしたなくてごめんなさい、お祖父様。
ラグとロイに笑われてしまったが、気にせずにいそいそと、席によじ登る。おっ昨日より机に届く!直してくれたんだ!
「有難う。カイル!」
「どういたしまして、シチューは熱いですから気をつけてくださいね。」
横を見ると、ラグは既に食べ始めていたので、私も簡単にお祈りをしてから口をつける。
ふーっ、はふっはふ!
「美味しいです!」
満面の笑みで告げると、カイルもニコニコしてくれた。
ああ、いいなあ、四人がけのテーブルに皆で朝食。前世の生活に戻ったみたいな暖かさだ。前世はお父さんと二人きりか、仕事で忙しいときは一人だからもっと良いかもしれない。
「ミア様は美味しそうに食べるから作り甲斐がありますね。昨夜は夕食食べていないのですからたっぷり食べてください。」
「ありがとう。私あの後すぐ眠ってしまったのね。…久しぶりにこんなに寝ました。」
初めての場所でこんなに熟睡したのは自分でもびっくりだ。後宮や森で鍛えた警戒心は何処へ行ってしまったのだろう。ただ、今も癖で治癒魔法を何時でも発動出来るようにはしているが。
すると、ロイがからかうように言ってくる。
「いや〜?そこまで熟睡じゃなかったですよ?旦那さまが、引っ付いたミア様を降ろして夕食に行ことするとぐずって泣き出すから、最終的にミア様を抱えたままで夕飯食べたんですから。」
な、何ですと…、ぐずって泣くなんて…赤ん坊やないか。
精神年齢アラサーの心が折れ、机に突っ伏した。多分耳まで羞恥で赤く染まっている。
「ミア、気にするな。危険な状態から解放されてちょっと幼児化しただけだろう。可愛かったぐらいで迷惑ではない。…トイレに行くときはちょっと困ったな…。」
ぐぅぅ、余計に恥ずかしくて顔があげられない。
「ご迷惑おかけいたしました…。」
これ多分一生言われるやつだ…黒歴史だ…。
頭をポンポンされると気分がちょっと浮上する自分がまたアホだと思う。
ラグは今から出勤らしい。昨日は休みをとってくれていたそうだ。朝食後、準備をしたラグを、皆でお見送りする。
「これから俺は、仕事に出掛けるが、夕方には戻る。その間はカイルとロイと過ごしてくれ。…体調が万全になるまではなるべく家の敷地内で過ごしたほうが良いだろう」
「わかりました。行ってらっしゃい…」
私は多分、物凄い切ない顔をしてしまったのだろう。ラグは私の頭を何度も撫で、馬上からも何度も振り返って手を振ってくれた。両脇のカイルとロイにまで頭を撫でられた。
ラグの姿が見えなくなるまで見送った。




