王宮での裏話1
婚姻が決まる、議会での話です。
「それでは、獣が魔物化している、という事はやはり本当だということですな?」
「200匹のワーグなど…護衛のいない少人数の行商人では、ひとたまりもない!」
議会で、魔物調査のための遠征の報告と、魔法学研究塔の調査結果報告を、騎士団長である俺と、研究塔の所長である、オスカー…何とか、が終えると、大臣達が騒ぎ出した。
それをジークフリートが冷静になだめる。
「魔物化の原因が判明していない事は、確かに脅威だ。だが、調査のおかげで対策を取ることを、民に知らせる事ができる。先ず、魔物化しているものは、全体に比べると僅かな数だ。また、一頭一頭は、そこまで驚異ではない。集団になるとたしかに厄介だが、それでも纏めている魔物化した獣以外は普通の獣だ。なにより、奴らが狙うものははっきりしている。『より魔力の多い人間』だ。」
順に説明していくと、大臣たちも、冷静さを少し取り戻す。
「…魔力が強い者に最初に向かうならば、対処の仕方は考えやすくはありますな…」
クラーク公爵が、思案するように、自分の首のたるみを弄んでいる。
「…民に伝えれば、不安は広まるだろうが、対処方法と、危険の度合いを、正確に伝える事が肝心でしょうな…。」
「ああ、街道沿いの備えも怠らなければ、パニックにはならないだろう。」
マルク侯爵も賛同する。
「騎士団長殿が、王国中を走り回っていれば解決じゃな、ほっほ。」
「シルバ公爵様を騎士が担いで回っても、似たような効果が得られるでしょうな。」
ジジイが面倒くさいことを言い出すので、適当に言い返しておく。
「騎士団の小隊を、定期的に各地に派遣する事が、一番の方法ではありましょうな。」
…魔力を持て余した人間の巣窟が、うちの騎士団だからな…。
その心の声が聴こえたかのように、シュールベルト伯爵が、嫌味を言ってくる。
「ほう、破壊行為にしか使えぬと思っておりましたが、思わぬ使いどころがありましたな。」
…破壊行為が一番得意なのは否定できんな。
ここでジークフリートが、話をまとめる。
「この件に関しては、王都主導で配備を進める。だが、領主の私兵や、傭兵でも、十分に対処が可能な範囲だということは、各領主に伝えることとする。」
騎士以外にも魔力の多いやつはいっぱいいるからな。
「魔物化については、最優先で調べを進めてくれ。」
研究塔の所長にもそう指示が出される。その他、街道配備の方法などを、細かく打ち合わせてから、この議題は終わった。
バルディが、次の議題を提示する。
「帝国との緊張状態についてじゃが、皆存じている通り、き奴らは図に乗る一方じゃ。後は、どの段階で最後通牒を突きつけるかだと、わしは思っておる。」
…いきなりふっかけたな。バルディはさっさと片付けたい方のようだな。
「迷惑は極まりないが、帝国はむしろそれを待っているような所がある。こちらから最後の手段に出るのはいかがかな…。」
マルク侯爵は慎重派か。
「戦力の差は歴然でしょう。どんな兵器を持ち出そうが、こちらの破壊兵器集団が居れば、すぐ方がつくでしょう。」
シュールベルトは、うん、ムカつくな。
「帝国との戦争より、国内の魔物に騎士団を割くべきでは?…帝国に攻め入るとすると、季節は夏になるでしょう。魔物の出る季節と重なります。」
ふむ、クラーク公爵の意見は、いつも正論だな。
「全騎士団で、ことに当たらせる必要はないでしょう、少数でも火力は十分だ。」
シュールベルトはちょっと黙っていて欲しい。俺達にも休みはいるんだよ。
「うーん、戦争はお金も面倒も掛かるから、あまりやりたくはないけどね…。でも、帝国の、どうせ何もしてこないでしょう?っていう感じは腹立つから、ほっておくと、民衆にも戦争ムードが広がっちゃうよ?」
シルバ公爵の意見は……、このあたりか。
「あー、一つ良い…でしょうか?」
軽く右手を上げ、発言の許可を求める。大臣ではない俺が発言するには、陛下の許可がいる。ジークフリートがうなずいて許可をしたので、発言をする。
「俺としては、クラーク公爵に賛成だ…です。何を用意しているかわからん帝国の連中も、どう変化するか予測が立たない魔物の事も、片手間に対処するには危険すぎる。」
先ずは言いたいことを言わせてもらう。俺の部下をなんだと思ってやがる。
「ほう?ではどうするのかね?このまますべて放置かね?代替案を出さずに、ただ嫌です、無理ですは通らんよ?」
シュールベルトは、ムカつくな✕2
「帝国には、同盟に関しての不満をきっちり表明したほうがいい。」
「…どのように?」
そう尋ねるジークフリートに、はっきり聞こえるように告げる。
「ミレイア第一王妃を、俺にくれ。」
……
……
ジークフリートが固まってしまったので、丁寧に説明する。
「同盟の証である王妃を、今のままの地位にしておくからやりづらいんだろ?俺に下賜すれば、帝国は勝手に良いように受け取るだろう。…戦争したけりゃ、同盟の反故だ、とかいって、向こうから攻めてくるでしょうし、未だする気がないのら、文句を言ってくらいでしょうから…」
「…なるほど、あくまであちらに決めさせる、という事か。」
「ええ、敵地に攻め込むのは厄介が多いですが、あっちから攻めてくるのを防ぐ、と言う事ならば、終わらせ方も簡単だし、季節を心配する必要もない。来てしまうのなら仕方が無いですからね。」
この意見に、真っ先にシルバ公爵とマルク侯爵は賛成する。
「ほう、良い案だ。国民にとっても、国王の意志として解りやすく伝わるな。英雄の嫁取りという、慶事にもなる。ぶふっ」
「ええ、捉えようによっては、この上なく目出度い事です。王国国民が支持する英雄への下賜ならば、帝国への言い訳もしやすい。」
シュールベルトも、妙に嬉しそうにに賛成した。
「実態は、平民に帝国の皇女を嫁がせるのですから、思いっきり馬鹿にしたとも受けとせられますしね!」
それも狙いだ、バーカ。
「防衛に専念するというのは良い案ですね。帝国への諜報活動は密に行う必要がありますが。」
クラーク公爵が、ホッとしたように言う。さて、バルディはどう出るかな…?と、そちらに目をやると、ジークフリートと目があった。
…何考えてんだてめえ…という目だな。
今は無視だな。
バルディは…、複雑な顔だな。だが、絶対反対と言う訳では無さそうだ。よし、
「じゃあ、議会の承認はこの場でもらっちまっていいですかね?書類書くの面倒なので。お願いします。」
早い方が良いしな。
大臣達は特に問題なく肯定する。
『異議なし』
さて二人は…
「議会の決定は承知した…。ラグレシオン騎士団長は、この後、私の執務室に来るように。」
まあそうなるわな。




