出迎えてくれたのは
国王陛下一行と、離宮から王宮に向かう。後宮が広すぎるので馬車で移動だ。途中、他の宮の前を通り過ぎるのだが、手入れが行き届いているようには見えない。…私の所よりマシだけどね。
……
…
王宮へ向かう階段の前で馬車を降りる。階段上の門を見ると、一人の騎士が立ったっていた。警備の騎士は入り口の両脇にいるため、あの騎士は出迎えだろうか。
放っているオーラが圧倒的な強者の風格だ。黒光りする鎧は、地位のの高さが伺える拵えだ。体格も非常に大きいく、私の身長が腰に届くかどうかぐらいか。ちょうどラグくらい…
………妙な予感がしてきたから、驚きが表面に出てしまわないように、歩きながら呼吸を整える。
その騎士に、王が声をかける。
「わざわざ出迎えか。ラグレシオン」
「ええ、陛下。待ち遠しくてね。」
ラグが答えた。王に対する気安げな口調と、この流れからある程度ラグの立場に推測が出来てしまった。嘘だろおい、…心の混乱が収まらない。
「廊下で挨拶をさせるわけには行かない。部屋についてからにしろ。」
王が呆れたようにため息をついてから、そう言って、また歩き始める。
私はどう行った態度を取ればよいのだろう?
ラグをちらりと見ると、素知らぬふりをして、王の少し先を護衛しながら歩いていたので、私も無表情を貫くことにした。脇を歩く宰相の視線が少し痛い。
しばらく、居心地の悪い想いで歩くと、部屋に到着した。かなり奥まった場所であることから、王の執務室や自室に近い場所か。
部屋に入り、王の指示で護衛を外に残して4人だけになると、ラグがくるりとこちらを向いた。
「ミア、大丈夫か?」
ラグが普通に話してきた。
えっ、いいのか?これ。王も事情を知っていたということか?もしくは王の指示で今までラグが私に接触していた…いやそうではないのか。王と宰相が驚いたように固まっている。
…ついでに私も固まっている。
そんな私達をよそに、ラグは私を抱えあげ、ソファに乗せた。ついでにラグもその隣に座った。その様子を見た王と宰相も、我に返り、向いの椅子に腰を下ろす。
王が一息ついて、紹介を始める。
「さて、ミレイア王女。この男が王国騎士団長のラグレシオンだ。…君と婚姻を結ぶ予定になっている。」
やっぱりか。…ラグが騎士団長…森であった時の雰囲気では、どう見ても平民の振る舞いだったから考えもしなかった。装っていたのか…?ラグの真意が解らず、考え込んでいると、国王が詰問するような口調で、ラグに問いかける。
「ラグレシオン、どうやらミレイア王妃のことを知っているようだな。…そういえば後宮の現状も良く知っているような口振りであったな?知っていて俺に黙っていたのか?」
対してラグは、なんて事ないように答える。
「ミアが王妃だと知ったのは、かなり前だ。1年ぐらい経つかな…。森で狩りをしながら生活している所を発見して、それとなく生活をサポートしていた。話をしている中で、後宮の現状も薄々察しがついたんだ。」
「なぜ黙っていた!」
「それとなく言ってはいただろう、『後宮にもっと気を配れ』と。ミアについて中途半端に伝えても、お前じゃ王妃同士の争いを丸く収めるなんて無理だろうし、一層関係が悪化したかもしれない。」
うん。ラグは、女同士の泥沼についてよくご存知らしい。私はラグに同意しつつ礼を言う。
「ありがとうございます。もし森に出ていることが陛下に知られてしまっていたら、本当に宮殿から逃げ出すしかなくなっていたでしょう。」
「まあ、陛下にできることといったら、皇女の世話をちゃんとするように指示することぐらいだったでしょうから、確かにそれではなんの解決にもならなかったでしょうね。」
宰相も賛同する。本当にこの陛下は、後宮がどうでも良かったのだろう。
「そういう事だ。だから俺はミアが生き残れるように様子を見つつ、後宮を出られる方法を探したってことだ。」
王はぐうの音も出ないといった様子で、黙り込んでいる。ラグと宰相と王の関係はかなり気安い関係なのだろう。率直なやり取りからそれを感じる。…そんな親しい関係なのに、私の現状に気を配ってくれていたのか。
しかし、私もここでき聞いておくべきことを聞かないと。
「申し訳ありません。私はご存知の通り、情報が一切得られない状況にありましたので、この婚姻に関わる情勢や、ラグ…レシオン騎士団長様との婚姻がどのような影響があるのかを理解しておりません。可能な限りで宜しいのでお教え頂けませんか?」
これに対し口を開こうとした王を制して、宰相が説明してくれた。
「センドリア上皇が亡くなった今、帝国とはいつ戦争になってもおかしくない状況です。そのような状況で第一妃が帝国の皇女というのは、問題が多い…、この為議会で、下賜の案が出たが、問題は下賜先ですじゃ。」
「皇女を下賜させるには、ある程度の身分があるものでないと体裁が整わず、帝国に付け入る隙を与えてしまうし、かと言ってそのような身分のものが望んで引き受けるわけもないですものね。」
言いにくいだろうから、代わりに言う。誰でもそんな貧乏くじは引きたくない。
「…ラグレシオンは何度も大きな戦功を立てている王国の英雄だが、…貴族の出ではない。一代限りの身分だったのを、家名を与える理由として皇女の下賜が適当であったのじゃ。王国の英雄ならば、下賜させる対外的理由も立つ。」
…平民出身だったのか。通りでわからなかったわけだ。この他の理由としても、王の側近ならば私を監視するにも最適だったのも大きいだろう…。
そんなことを考えていると、頭の上に、大きな手が乗った。
「あまり考え込むな。俺にとっちゃそんな難しい話じゃない。俺が引き取らなきゃ、お前が死んじまう。それが平気でなくなるくらいはお前に情が湧いていた。だから引き取ることにしたんだ。」
ラグが私の頭を撫でながらいう。
猫を拾う理由みたいだな…。ラグにとってみたら正にその通りなのかもしれない。そう考えたら気が抜けた。捨てられないように頑張ろう。
皆、事情は知ってそうだが、一応ここで宣言しておく。
「帝国の現皇帝には、なんの義理もなく、たとえ命令されても何も従わないと言うことはここで、宣言しておきます。」
「真ですかな?親しいものを人質に脅迫されても?」
宰相が、確かめるように聞いてくるので、ルシアを思い出しながら、正直に答える。
「…帝国で親しいと言えるものは、あと一人しか残っていません。その者が生きているとしても、大人しく人質になるような者ではありません。第一、私になんの権限も持たせない為にこの婚姻を行うのでしょう。私にできる事など何もありません」
ルシアがお祖父様の意思を裏切ることはないだろう。そう言えば、宰相も頷いて同意した。




