国王陛下の要件
気まずそうな表情で、オジさんの方が口を開いた。金髪金目のキラキラな…、口髭が全く似合っていない。ああそうだこっちが陛下だった。
「…ミレイア王妃…」
「わざわざ足をお運びいただきまして、大変光栄に存じます、国王陛下」
と挨拶する。立ち上がって挨拶をしようとするが、ソファに深く座っているため降りれない。まさか国王の前で、エイッと飛び降りるわけにはいかないなあ、と思い、そばにいた兵士に助けを求める視線を送るが、陛下が手を上げる。
「そのままで良い」
国王が、正面の椅子に腰を下ろした。
「…………」
国王は何も喋らない。ただの屍のようだ。
「…陛下、本日はどのようなご用件でしょうか?」
仕方なくこちらから問うと、
「用件…ああそうだな…用件…」
おい、用件もなきゃ、あんた絶対ここに来ないだろ。
「ええ、陛下自ら、初めてこのような所にいらっしゃったのです。何か大切なご用件がお有りなのでしょう?」
さあ、何だ!さっさと言え!ヤバそうだったらとんずらしてやる!
手荷物を手探り引き寄せ、お祖父様の贈り物の場所を確認する。
「ああ、…まずは何か口にしたほうが良いのではないか…?誰か使用人を呼ぼう」
兵士に、呼び出すように指示を出そうとするので、慌てて止める。
「いえ!結構です!今お腹いっぱいなのです!」
この場で、改めて毒をもられるかもしれない!そしてお腹いっぱいは嘘ではない。芋は結構、腹持ちがいいね。
「私の目の前で毒などは盛らせないぞ。」
ああ、見透かされている。しかし誰が信じるかボケ。
「用意させるにも時間がかかりますでしょう?まずは用件をお教えくださいませ。」
皇族スマイルで話を促す。さっさと吐け、コラァ。
「私の方からお話いたしましょう、ミレイア王妃。この国の宰相のバルディ・マクレーンと申します。」
お爺ちゃんが変わりに喋った。いたな、そんな奴、………やばい、王国貴族リストが頭から消えかかっている。微笑んで頷きつつ、冷や汗が出てくるのを感じた。
「まずはお詫びを申し上げます、ミレイア王妃。この度の、ミレイア王妃様への扱いは、後宮管理を行うグスタフ侯爵による汚職が絡むものと考えております。他の王妃達に命じられたという使用人の証言も上がっております。厳正なる処分を行いますゆえ、御容赦ください。」
へー、グスタフ……ちょっと思い出すのにお時間をください。
「本日参りましたのは、また別の用件でして、それをお伝えするべく、参ったところでこの状況に気付いた、というわけでございます。陛下は今ショックを受けておりまして。」
「ふふっ、こうなっているとは思わなかったとは、やはり国王陛下は女性に疎い純粋なお方なのですね。」
放置しといて知らなかったで済むかボケェ!あらいけない、うっかり嫌味が…。
国王の表情が強張ってしまった。
「毒を盛ったり、盗みを働いた者たちは早々に出ていきましたので、一人でのんびり暮らしておりましたので、お気になさらず。…それで、用件とは?」
餓死寸前だったがな!…まあ、それはそうと、話を進めましょう。
「…え、ええ。実は、近頃のバルファルク帝国とわが王国の情勢は緊張状態にありまして、その中で第一王妃にミレイア様が務めていることを疑問視する声があがりました…」
なるほど、帝国の叔父様はやはりちょっかいをかけているらしい。それに今この話が来るということは…もしや、お祖父様が…
「加えて、ミレイア王妃様の後見であるセンドリア上皇は2年前にお隠れになっておりますし…」
「え…」
お祖父様が、2年前?こっちに来て直ぐってこと?
「…知らなかったのか。」
国王、呟くが、どうやって知れと言うんだ。噛み付きたいところだが、気力が沸かない。
伸ばしていた背筋が、急に重くなり、ふっと力を抜いてソファに身を預けた。
もういいや。
お祖父様が亡くなったと聞き、しかもかなり前に。知らずに頑張っていた自分がアホらしくなり、緊張の糸も切れてしまった。
帝国を出るとき、お祖父様自身から、早いうちに眠りにつくと聞いてはいたが、もうしばらくは大丈夫だと、勝手に思っていた。何より、ずっと知らずにいたということが、口惜しくて仕方が無い。
………
…
やや投げやり気味に、宰相に尋ねる。
「それで?私は追放ですか?下賜でしょうか?それとも処刑?」
ちなみに私は追放希望だ。
「…下賜となります。帝国とは緊張状態とはいえ、開戦には至っておりませんので。」
「なるほど、決定的な理由は作らせたくないけど、抗議の意思は伝えたいと言う事ですわね。」
ああ、政治ってほんとクソだ。この感覚をようやく思い出してきた。自分の希望など持つだけ無駄。個人が尊重されることなどない世界。
「お相手はどなたですか?」
さて、どんな変態ジジイでも驚かないよ!嫌なら逃げるからね!…実際に開戦するまでは辛抱しないとだけど。
「我が国の騎士団長で、私の友でもある男だ。今年で30になるため、…少し年上だが、良い奴だから何の心配もいらない。」
へえ、国王の友達。…信用できる人間に預けて監視させるってことかな。30歳なら国王とそんなに変わらないから、どうとも思わない。
「王命とあらば、謹んで拝命いたします。」
…けっ。
「…改めて迎えをよこそうかと思っていたが、ここでは暮らせまい。このまま王宮
に参るか?」
ずっと暮らしてたけどね!でも扉が壊されたとなると、危険が増えそうだな。ここは大人しくついていこう。
「はい、そうさせていただきます。」
「何か運ばせるものはあるか?私物をまとめる時間はあまり無いが…」
私物…、生き残りのドレスくらいかな、ルシアが選んでくれた…。
お祖父様がくださった魔法石やお守りの紋は全部まとまっているし…
あ、そうだ。駄目元でお願いしておこう。
「グスタフ、とか言う者が、汚職をしていたと言うならば、後宮を捜査されますよね?…その際に、使用人に盗まれた本と、もしも私宛の手紙が届いているようでしたら、お調べになったあとで構いませんので、お返しください。」
国王を、じっと見て言った。頼むからそれくらいはして。
「わかった、手配する。…どのような本だ?」
「古語で書かれた神話の本です。表題や注釈は帝国語です。皇族しか持てない貴重なものなので、わかるはずです。…お祖父様が持たせてくれたのです。」
そう、元々はお祖父様の私物だ。思わず口を噛み締めた。
国王が「出来るだけのことをする」と了承し、傍に控えていた兵士も、口を添えてくれた。
「仲間に伝えておきます。ドレスもまとめて、団長の家に届くように手配しましょう。」
ラグといい、この兵士といい、この国の良心は騎士なのかもしれない。
なら騎士団長という人も、良い人なのかな…。




