王の意向、宰相の思惑
「ラグレシオン、また手柄を挙げたようじゃな」
ジークフリートに会いに、王の執務室に来たのだが仮眠中で、もう少しで起きる時間とのことで、バルディ宰相と話していると、先日の魔物退治の話になった。
「まあ、魔物と言えるほど強いものはほとんどいなかったからな…あれなら1小隊だけの派遣でも、油断しなければ大丈夫だろう。」
「ふむ…そうか。それは朗報だな。各領主からも、騎士団が回った先はパッタリと被害の報告が来なくなったと喜んでいたぞ」
「そうなのか…打ち漏らしが無かったことは喜ばしいが…。」
調査の為の遠征で、その地域の捕獲対象を一網打尽にできたとは考えにくい。そうなると考えられるのは…。
「ふむ、騎士団の豊富な魔力に惹きつけられて、あちらの方からやって来た可能性が高いとも言えるな。」
バルディが、ラグレシオンの考えを読んで先に言う。そういうことだ…、魔力に惹きつけられるのは魔物の習性でもあるため、今回捕まえた動物は魔物になっているといえる、ということだ。
「議会にはもう話したのか?」
「次の議会で報告の予定じゃ。騎士団と魔法研究塔からも直接報告してもらう。」
「はあ…わかった。」
いやいや返事をすと、付き合いの長い宰相は、ほとんど白くなりかけた髭をいじりながら可笑しそうに笑う。
「ほっほっ、お前さんは現場に出ているのが一番じゃからな。…遠からず帝国との戦もありうるからの、頼りにしておるぞ。」
「…開戦の兆しがあるか?」
「今の所は国境付近をウロチョロして様子を伺っているようだの。今の皇帝は、下準備をしてからの仕掛けが得意なようでな、こちらとしてはあまり準備万端にはさせたくないのじゃがな。」
「先の帝位簒奪の時も、やたらスムーズだったからな…。」
全く情報がないまま、あっという間に皇帝がスゲ変わった、という感覚だった。
「そういうことじゃよ、あれから密偵も増やしてはいるが…油断はできんやつじゃ。」
その時、ガチャ、と隣の部屋に続く扉が開いた。
「おう、陛下おはよう。」
ラグレシオンが挨拶をすると、ジークフリートが、やや不機嫌そうに、国王らしくない乱暴な口調で答える。
「何がおはよう、だ。人がようやく睡眠時間が取れたときに押しかけて、隣で仕事の話をしやがって。おかげで最悪の目覚めだよ。」
「宰相が話題を振ってきたんだ。俺だって仕事の話なんかしたくねえよ。」
「なんじゃ、わしのせいか?わしは別にプライベートの話をしても構わんぞ?お前最近また女を変えたと噂になっておるぞ?そこんとこどうなんじゃ?」
突然、ニヤニヤと迫ってくるバルディ。
「どっから仕込んだ噂だよ!ああ、もう、大体宰相に話したから俺は帰るぞ。」
「ふん、こいつの女の噂なんて20年近く流れっ放しだろ。帰れ帰れ。仕事サボって遊びにいけ。俺は今晩も深夜残業だけどな!!」
ヤケクソのように八つ当たりしてくるジークフリート。
「おい…、もうちょっと仕事のやり方見直せよ。人にやらせんのも仕事うちだぜ。」
「人にやらせてばっかのお前が言うとサボってるようにしか聞こえん。」
ちっ、不貞腐れてしまった。今日は日が悪いな。今日はとっとと帰ろう。
「じゃあ、魔物の件は報告読んで、何かあったら呼び出してくれ。」
「ああ、遠征が効果があるようだから、あと何箇所か行ってもらうことになるだろう。」
「わかった、そういう仕事は任せろ。魔物相手は得意だ。」
そう答えると、ジークフリートは満足そうに頷いた。バルディが横から、注文をつける。
「人間相手も頼むぞ」
…こいつの中で、帝国との開戦は決定事項か。
「…グスタフ侯爵を、後宮で泳がせたままにしているのは、2人の意向か?」
俺が尋ねると、ジークフリートはチラッと宰相を見てから答える。
「…私の意向だ。」
「そうか」
とだけ答えて、退室した。




