ラグと魚獲り
「暑っっっいいよう!」
ギラギラする太陽に文句を言う。今は、夏真っ盛りだ。
予想していたとおり、獣が取りにくくなり、動物性タンパク質が欲しくなって、河に来たのだが…、木陰のない河原は物凄い暑い。しかも、北国育ち&温室育ちの私は太陽にとことん弱い。
しばらく前、初めてのマイホーム露天風呂に入った日、夏の太陽に肌を晒し、全身火傷みたいになったのだ。今までも顔がヒリヒリ程度は良くあったが、治癒魔法ですぐ直せたし、森の中はあまり日が当たらない事もあって、ここまで弱いとは思っていなかった。
…垢がとれたせいもあるんじゃないかと内心思っている。
そんなわけで、私はこのクソ暑い中、しっかりとローブで頭まで覆い、魚を狙っているのだ。
この辺りは岩が多く、例の巨大ワニもいる可能性は低い。
そこで、魚のいそうなところを狙って、ラグに教わった様に熱した石を放りこもうと考えているのだが、当然魚はすばしっこくて逃げてしまう。
木で挟んだ熱々の石を慌てて持って投げても、木で挟める程度の小石ではちっとも捕らえられないのだ。
「暑い…もう無理…」
諦めて河に飛び込んだ。
ふい〜、思ったよりぬるいけど気持ちいい〜
バシャバシャと遊んでいると、ちょっと楽しい。油断すると流されそうほど深さがあるが、水は澄んでいて底まではっきり見える為、あまり不安はない。
小魚は見えるんだけどなあ…、堰でも作って追い込み漁でもしてみようかしら。
しかし今でさえ、浅瀬でも腰ぐらいある河の水が、もしも堰を作ったら、溺れる深さになりかねない。
「うーんやっぱ無理なのかなー」
干し肉と小麦粉達があるから、食料事情はそんなに切迫はしていないのだが、私に根付いた狩猟採集の本能が…新鮮な肉を求めている…。
なんてことを考えながら、プカプカ浮いて流されるのを楽しんでいると、
「何やっているんだ!!!」
うわあすごい声、鳥が一斉に飛び立ったわ…
いや、そうじゃない、ラグだ!
焦ったように河に入って来たラグに、ビックリしているうちに襟首を掴まれて河から引っ張り出された。わあ苦しい。
「ラグ、苦しいよ。」
「やかましい、河で何してるんだ。一瞬死んでるのかと思ったぞ!?」
「浮かんで流されるのを楽しんでいました…」
正直に答えると、本気で怒られた
「バカヤロウ!足がつかないとこや流れが急な岩場まで流されたらどうすんだ!
そんな小さい成りで河で一人で遊ぶんじゃない!」
怒られた…。
思わずしゅんとして、そうだよね、小学校低学年の子供が、河で一人で遊ぶなんて怖くて見てられないよね…、と納得していたが。
あれ…?小学校低学年の子供が、森で一人で暮らしているぞ?と思いだし、ラグの顔を首を傾げて見てしまった。
ラグも、今更すぎる心配だと気づいてしまったらしい。なんとも言えない顔で頭をガシガシとかいている。
「あ〜、下流にはこの前みたいなルナゲイルがまだいるかもしれないから、流されないように気をつけろ。
…ところで、河には水遊びでもしに来たのか?暑いもんな最近。」
一言注意しただけで、話題を変えた。
「違うよ、魚を捕りたかったんだけど、上手く行かなくて…」
むう、と口を尖らせると、
「はは、そういう事か、じゃあ獲ってきてやろう。」
そう言ってさっさと河に向かったラグ。
河の中ほどに突き出している岩に向かって、火炎放射をした。
…あっという間に岩が真っ赤になったよ。
そしてひょいと私を抱き上げ、熱した岩の下流にジャバジャバと入っていく。そして、私を河の中に降ろして、上流に顔を向けさせた。
「ほら、流れてくるから捕まえろ」
うわあ、次々と魚が流れてくるう。プカプカと漂う大小様々なお魚さんたちに驚き、思わず声を上げる。
「う、うわあ大量虐殺!こんなに獲りきれないよ!」
それでも出来るだけ魚を掴みにかかる。
「すまん、ちょっとやりすぎた…。でもすぐ岩は冷えるから!もう魚も気付いて近付かないから!」
ラグは謝りながらも、捕まえるのを手伝ってくれる。そして私の背後もしっかりキープしている。もう流れたりしないよ。
「う…人聞きの悪いこと言ってごめんなさい。ビックリして。」
私のために魚を獲ってくれたのに大量虐殺者呼ばわりしてしまった。
「いや、無駄な殺生は良くないな、ちゃんと腹一杯食おう。」
「うん!」
河原から少し森に入った木陰でご飯にする事になった。
ラグが例によって豪快に焚き火を作ってくれたので、鍋を作ることにする。ラグが嬉しいお土産を持ってきてくれたからだ。
「今日は野菜を持ってきたぞ。」
うっほう!
見たことない野菜だ…、帝国は寒いから夏野菜の類はほとんど採れないんだよね。
まあ、黙って知っているふりをするが。
「これはスージャ。水気が多くてスープに入れて煮るとトロトロになってうまいぞ。これはパルメ。酸味があるが、さっぱりして夏は元気になる。こっちは…」
…バレている気もする。
野菜も魚もたっぷり入れた鍋と、焼き魚を二人で作った。残りの魚もラグがさばいて、「干し肉みたいに燻製にするといい。」と言って、荷物にまとめてくれた。なるほど、干し魚が出来る!
ご飯は目茶苦茶美味しかった。物凄く。
魚も野菜もとても美味しかったのもあるが、誰かとお喋りしながら食べたのが久しぶり過ぎたのだ。「美味しいねーっ」と言いながら食べるとこんなに美味しくなるんだね。
食べているうちに夜になった。
もう帰っちゃうのかな…と思ったが、危ないから、という理由で夜が明けるまで、一緒にいてくれると言った。嬉しかったので、今まで夏のこの時期でも、何度も野宿をした経験がある事は黙っておく。
日も暮れたので、河原に移動する。森の中より安全だ。水辺は少しは涼しいが、獣避けに火は絶やさないため、暑いので座っている岩に冷却魔法石を置く。
「それは水しか冷やさないんじゃないのか?」
「石をおいた下側を冷やすように設定してあるの。冷たさが伝わって、気持ちいいんだよ。」
ラグが不思議そうに聞くので、ちょっと自慢げに答えた。マイホームが暑くて寝れなかったため、考えた手法だ。
「へえ、これは良いな。」
じんわりと冷たくなる岩を確認して、気持ち良さそうに寛いだ。
「ミアは寝て良いぞ、俺が見張りをする。」
そう言ってくれるが、首を振って断る。
ヤダもったいない。
「いい、ラグとお喋りしたい。」
「…そうか。」
ラグは、王都で売っている物や、商人たちの話、最近流行っている物語やファッション、見回り先であった面白い話なんかをいっぱい話してくれた。
一方私が話すのは、森での暮らしの事くらいで、主に聞き役になってしまうが、とても楽しい。
夜明け近くなった頃、事務仕事が嫌でサボろうとすると鬼のような顔して追いかけて来る仕事仲間の愚痴を聞いていた。それは全面的にラグが悪いんじゃ…と思いながら少しウトウトして聞いていたのだが、ふいにラグが尋ねてきた。
「ミアは、自分の仕事をやり遂げて死んじまうのと、全部放り投げてでも生き延びるのはどっちが良いと思う?」
事務仕事のサボりの話が随分と大袈裟になったな…と思うが、むにゃむにゃしながらもちゃんと答える。
「そりゃあ生き延びるのが一番大事だよ」
我慢し過ぎは良くない。
「大事な人が傷付かない範囲なら、自分の身が大事だよね」
仕事仲間も大事にしてね、と言う意味を込めて答えた。
「そうだな、そうだよな。我慢は良くないよな。」
うんうんと頷くラグ。
あれ?サボりを助長してしまったかしら。
まあいいか…。
結局、私は寝落ちしたらしい。
しっかり日が昇ってから起こされ、ラグは帰って行った。




