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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
王妃編
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斃してくれたらしい


そろそろ…一ヶ月だよね。


そう気づいてからは、ほとんど森のマイホームで暮らしている。荊棘の藪も順調に茂り、周りに備えた獣用の罠も充実した。これ以上居心地良くしたら、離宮にはもう戻れない。


しかし、私が失踪したせいで戦争になったら嫌なので、それは絶対に駄目だとは思っているのだけど…。

同盟の為に嫁入りした皇女が嫁ぎ先で死に、さらにそれが国王の責任であったなら、民衆感情を考慮しても、戦争になる可能性が高い。あの叔父は戦争は大好物な人種だから尚更だ。


それでも最近は、3日以上続けて、離宮を開けてしまうことも良くある。

置き手紙でも書いておこうかな…、「ちょっと散歩に行っています」とか。


 

こうして、のんびり森暮らしをしつつ、ラグを待っていた。

やがて約束の一ヶ月が過ぎ、何かあったのではないかと不安にかられ始めた頃の、ある日の夕方近くに、突如地響きと爆音が聞こえた。


「何事!?」

かなり離れた場所のようだ。迷ったが、原因を確かめねば、夜眠れなくなりそうなので、見に行くことにした。

あんな音をさせるのは人間の仕業か…、とんでもない獣がいるのか。人だったら見つかると不味い。

ラグによると、こんな森に来るのは大体不審者だから、自分以外の人の前には絶対姿を表すな。と言っていた。…自分を棚に上げているが、まあそうなんだろうな。


音のする方に走っていると、さらに何度か音が聞こえたが、やがて静かになった。

河の方だな…。あの大きなルナゲイルとかいう奴が立てた音だろうか…。慎重に気配を探りながらも、先に進んでいくと、知っている魔法の気配がした。

緊張が解け、自然と足が早まる。その人を発見すると、手をブンブン振って、駆け寄った。


「ラグ!」

向こうも気づいていたようで、驚きもせずに、片手を上げて軽く挨拶をする。

「よう、丁度良かった。確認してほしくて呼びに行こうとしてたんだ。」

突然そんなことを言うので、首を傾げると、

「この前話していたルナゲイル。多分そいつがいたんだ。」

「えっっ」

やっぱりあいつか!思わず後ずさりすると。慌ててラグが説明する。

「大丈夫だ。もう倒した。ミアが会ったやつと同じ個体か確認したいんだ。」


こわごわ後を付いていくと、川辺に、巨大なワニがひっくり返っていた。

「ひぃっ」

思わずラグにしがみついたが、そうっと見ると、首がねじ曲がっていて、明らかに死んでいるのに気づき、気を落ち着かせる。

「ラ、ラグがこれやったの?」

「ああ、ミアが話をしていた川辺はこのへんかな、と思って、河を覗き込んだときに、こいつがグバッと、来たもんで」

「グ、グバッ…」

「だから顎の下に潜り込んで、下からドッカンと、」

「あのドッカンは、ラグだったんだね…。」

「それでも死ななくて逃げようとするから、ぶん殴ったんだが、物凄い頑丈でな。」

「殴った手は大丈夫なの?!」

「ああ、俺のほうが頑丈だったらしい。それで最終的には頭を掴んで首をゴキっとしたら、死んじまった。」

ちょっと残念そうに言った。

「剣は使わないの!?」

何故こいつと素手でやるのか。


「生け捕りにしたかったんだ…。」

うん、私の常識では測れないくらいこの人は強いらしい。

「そ、それは残念だっだね…。」

「ああ、だが死んじまったもんはしょうがない。

…怖いだろうが、よく見てくれ。これがミアを襲ったやつか?」

「う…、多分…色や見た目は一緒だよ…。前より大きくなっている気がするけど…。」

同じ個体かまでは、自身が持てない。

「成長したんだろうな。この大きさのルナゲイルが他にいることは考えにくいし、こいつは他のより黒っぽい色だから、同じ色と言うならほぼ間違いないだろう。」

うん、こんなのが他にもいたら大変だよ。

「ありがと、ラグ。こんなすごいやつ倒してくれて。」

私には、絶対むりだからね!…ところで…大事なことを聞いてみる。


「ルナゲイルって食べれるの?」

「は!?ああ…、食えないこともないが物凄い臭いらしいから止めておけ。あと、多分こいつは突然変異だ。そういうよくわかんないやつは食わない方がいい。」

そうなのか…。大きくて食べ出がありそうだけど…、確かに妙な病気とか持ってたら嫌だしね。

「食料は持ってきたから、そんながっかりするな。…こいつは、死骸を持って帰るのも厳しいから、ここで燃やしちまうか。」

そ、そんなにがっかりしてないもん。

「聞いてみただけだよ!でも、燃やしちゃうの?」

「ああ、尻尾くらいは調査用に持って帰ろうと思うが、他は、残しておいて獣が食べて、変な影響が出るのも嫌だしな。」

なるほど。騎士ってそこまで考えて動くんだ。

「じゃあ、埋めたほうが良いんじゃない?

燃やすと生き物が持つ魔力が空気中に漂ってしまうっていうじゃない?」

「ん?言うのか?」

え、あれ?

「フェルモナン教の教えでは、亡くなった人を火葬にすると、その人の魔力と魂が風に運ばれて、空気と一緒に散ってしまうから、地下深くに埋めて、大地の女神のもとに還さなければ、この世界に生まれ変われないって…、いわないの?」

おかしいな、王国でもフォルモナン教の教えはほとんど変わらないって習ったけど。

「ああ!聞いたことあるような…?土葬にしなきゃいけない理由なんてしっかり覚えてねえからな。」

まあ、そんなもんかもしれないな。

「人と獣は違うかもしれないけど、変な病気を持っているかもしれないなら、燃やすのは危ないかも…」

前世では、どっちもどっちだったが、この世界では土に浄化の効果があるとされている。理解の及ばないことについては、先達に従っておくに限る。

「でも、俺土魔法はからっきしなんだよな…。」

「え、こんなに魔力がすごいのに…。私も苦手だけど、埋めるくらいなら多分できるよ!」

ちょっと良いところを見せたくなった私は、いそいそと土魔法を操り、ルナゲイルを土に沈めていく。沼状にして埋めてしまうのが一番魔力消費が少ない。

十分な深さまで行ったところで、今度はカチカチに固めて、魔物が掘り返せないようにする。

「出来た。」

ヘヘ、とラグの方を振り返ったら、


急に視界が歪んだように感じ、ぺしゃっとその場に潰れた。

「おい、大丈夫か!?」

焦った声が聞こえる。しまった、調子に乗った。


「ただの魔力切れです…。」

うう、恥ずかしい…。


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