マイホーム建設
…明け方、見事に落っこちた。
頭のすぐ近くで、キキッ、という声がしたので、ハッと目を覚ますと、空中で滑空してくるでっかい緑色のムササビみたいなやつと目があって、避けようと身をよじったら、地面に激突した。
こんなこともあろうかと、ハンモックの下に落ち葉を敷いてふかふかにしておいて良かった。絶対にやらかすと思ったんだ、私は。ドヤッ
…さて、今日も一日頑張ろう。
干し肉を齧って腹ごしらえし、すぐに作業に取り掛かる。昨日掘った穴を丁寧に整形し、表面を魔法で押し固める。
穴の外側に柱穴を4つ掘り終えたところで、柱と食料を、探しに出かけることにした。
まずは丈夫で、真っ直ぐで、程よい太さと重さの木…。それと細めの枝も沢山。ロープの代わりになりそうな蔦は多めに集めておく。見つかるか、不安だった材料も、何とか代用できそうなものが見つかった。
この身体では、何度も往復しなければならず、非常にくたびれるが、マイホームのためにせっせと集め続ける。
途中で物凄い棘の鋭い、荊棘の藪を見つけた。棘が小刀くらいはある。
マイホームの回りに植えるのはどうだろう?獣対策に、落とし穴で囲うことは考えていたが、これも使えるかも。…でもどうやって持っていこう?
マントを強化すればいけるかも?
「痛たっ、いだだだだっ、」
うわあ、腕にブッスリ刺さってる〜
「ぐわっ」
足首が切れた!
「うっうっ、もう嫌〜。」
髪の毛が物凄い持ってかれる。ぶちぶちいってるよー
身体とマントがズタボロになりつつも、なんとか根こそぎ引っこ抜き、紐でくくってずるずると引っ張って持って帰ることができた。
マイホーム建設地から半径10m程の距離に、荊棘を適当な長さに切り分け、等間隔に植えていく。茎から根付かせるのは大変だが、私には魔法があるのだ。
ソルトプラントが生えなくなったら死んでしまう、という状態にあった私は、なんとかして増やそうと、色々と試行錯誤をしたのだが、治癒魔法が植物の成長に良いということは、早い段階で判明した。考えてみれば当然である。植物も生き物なのだから。
耕したり、肥料をやったりも当然したが、もっとも効果があったのが、魔法紋で作り出した、光魔法の光を長時間当て続けると、急成長することがわかった。
お祖父様に教えてあげられたら、「面白いな」と、レアなご機嫌顔が見せてくれそうだけど…、会える可能性も、手紙に書ける可能性もないことに思い至って少し落ち込む。
…気を取り直して、水や治癒魔法をかけて回る。これで根づいてくれるといいな。
疲れたので今日はお終い。マントを繕ってから、すぐに寝た。
次の朝は、お腹が空いて目が覚めたので、しっかり朝食を作る。
昨日、家の材料と一緒に集めた森のめぐみと、干し肉を細かくして入れたスープだ。
「ふう、美味しい」
干し肉は使い勝手がいいな、つい食べてしまう。もっと沢山作らなくちゃ。
今日は組立作業だ。
4本の柱の片方を束ねて結び、2本ずつ、左右に開く。そのうち一本ずつを柱穴にセッテイングする。柱を結んだ場所に蔦を引っ掛け、力いっぱい引っ張ると柱が持ち上がるはず…だけどなかなか持ち上がらない。昔やったときは3人で引っ張っていたし、他にも柱を支えてくれるメンバーもいたからな…。
少し持ち上げては固定し、反対側からテコで持ち上げては固定し、柱を引っ張ったり押したりを一人で奮闘してなんとか、4本の柱が頭上で組み合わさる、四角柱の形が出来上がった。
よし、今日は一気に作業を勧めたいから頑張るぞ!
4本の柱に横木を渡して、縛りつける作業に取り掛かる。これも反対側を持ってくれる人がいないから一手間多くかかるね…。
一番下の横木を渡し終えたら、それを足がかりに2段目の横木を縛り付ける。その作業を、頂点に近いところまで続けると、5段まで行った。
「順調、順調。」
朝の鍋にチーズを加えて一杯食べながら休む。
今日はあまり、魔力を使わないで済みそうなので、荊棘に治癒魔法をたっぷりめに与えておく。無事に根付いたようで、どれもしゃんと生えていた。
「大きく育ってね…。」
さて…作業に戻ろう。
次は茅葺き作業だ。茅はないから、それっぽい植物を近場から寄せ集めただけだけどね!
それらを一掴みしては束ねて横木に結びつけていく。地味で気が遠くなる作業だ。
1段目がぐるりとできたところで、日が暮れてしまった。
まだ完成途中だが、中に入ってみよう…として、入り口を作り忘れた事に気付く。
いや、中にはちゃんとそれ用に階段も作ったんだよ?ただ、忘れて横木を渡して、茅まで葺いちゃっただけで…。
取り敢えず結びつけた草の束を数本外して入れるようにする。
改めて中に入ると、だんだんと家っぽくなっているのを実感できる。周りが囲われているせいかとっても安心感がある。
ちょっと感動した。ふふっ
「明日こそ完成させるぞ!」
今夜は最後のハンモックかな…。
朝だ!頑張るぞう!
せかせかとパンを齧ってすぐに作業を始める。
束ねて、結びつけて、材料がなくなったら採りに行って、
急ぐけど、しっかり、頑丈に。
一番てっぺんは、少し隙間が空いているくらいが煙穴になるので、
雨よけの木の板をかぶせるだけにする。
屋根の裾の方は、掘ったときに出た土を盛り上げて、隙間風を無くす。こうしておけば、雨が流れ込んでくるのも防げる。さらに土魔法で固めて、補強もする。
これで大体…「完成だ!!」
多分。入り口は、小さく開けたにじり口のような小さなものになったけど、私の体格なら不自由はない。
床の中央を掘りくぼめて、囲炉裏にして、初めての火入れをする。
よし、ちゃんと煙が上へ抜けていく。半地下だからひんやりして寒いくらいだから焚き火もちょど良い感じだ。夏も案外涼しいかもしれない。
例によって、野草の干し肉入りスープを作りながら、明日からの算段をする。
そう、なぜなら、
「これでようやく、肉の燻製が作れる…!」
離宮から調味料を持ってきて、ここで作ろう。
あ、いやまて、獣対策がまだ十分じゃないのに、ここに食料をたくさん持ち込むのはまずいかもしれない。
「まずは、周囲の安全対策、それからゆっくり調理だね。」
燻製用の肉も狩に行かなければいけないし…やることがいっぱいだ。
「ああ、そうだ。」
今日は魔力が結構余っているから、荊棘用の光魔法の紋を石に刻む作業をしよう。あれから、使えそうな石を見かけたら、拾う習慣がついたので石はいっぱいある。
スープを啜りながら、寝る前までに10個完成させた。慣れている治癒魔法の紋によく似た、光魔法の紋は比較的早く作れた。
早速荊棘を植えた所に置いていく。すっかり深まった夜の闇の中、ポゥッと光る明かりに囲まれていると、不思議な気分になる。
獣も怪しんで近づかなそうだな…。
パチパチと、良い音のする火のそばで、マイホーム入居後、初めての夜を過ごした。




