お父様の願い
「ミア…早く逃げろ…」
頼む、私が死んだらお前を守るものは、もう
「早く、お祖父様のもとへ…!」
もう望みはあそこしかない。
体中を襲う苦痛の中で、最後にあの子を視界に納める。
私のたった一人の幸せ。
重すぎる責任と、大きすぎる権力が産まれた瞬間からついて回り、周りは敵だらけだった。
物心つく頃には人を信じることを諦めた。
尊敬していた父である皇帝も、突然現れた異母弟の存在によって疑心が生まれた。
皇帝になりたくて仕方がないらしい弟が、何度も私を殺そうとしてくるのにも嫌気がさす。
私は、ずっと逃げたくて仕方がなかったのに。
教会に入り、継承権を放棄したいと言っても聞き入れられず、あっさり皇帝の座を押し付け、父の方が教会に入った時は腹立たしくてしょうがなかった。
后を娶らされ、跡継ぎを繰り返し強請られ、
何年も掛かりようやく産まれたのに、変わりに后が死に、
后の侍女だった女に殺されそうになっていたあの子を、奪って抱きしめたとき、
あぅ、と笑った顔のあまりの無垢さに心を奪われ、
指を握る強さに愛おしさがこみ上げた。
初めて喋った舌足らずな言葉が「おとうたま」で、
おぼつかない足取りでこちらに必死に歩いてくる姿に、人前で初めて膝をついた。
周りの敵は増える一方で、粛清するには帝国の平和と天秤にかけるしかない状態だったが、あの子だけは守りたかった。死ぬのは対して怖くない。この世は苦痛しかなかったから。
でも、あの子が死ぬのは嫌だ。
どうか、生きて、見つけてくれ。
私の様に、それだけで生まれてきた意味があったかのような幸せを。
ミア。私のたった一人の幸せ。




