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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
皇女編
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お祖父様

 

「遅い」

 憮然としたその声を聞き、恐怖で強張った身体が緩む。


「お祖父様…あ…」


 真白な髪に、雪のように白い肌という、繊細な色合いに対して、その容貌は、頬が痩け、鍵鼻と浮き出した頬骨、何よりその眼光の鋭さが、厳冬のワシを思わせる。

 応える暇を与えず抱えあげ、ミアの祖父、センドリア上皇は人気のない廊下を進む。

 

 上皇の私室らしき部屋に着くと、私はソファの上に無造作に放られた。


 乱暴な扱いに不満を感じるが、今この宮殿で頼れる唯一の味方だ。黙ったまま、その場で裾を整えて座り直す。


「カドルアは死んだのだな」


 確認するように言われた。

 私はただ頷く。頷いたまま顔をあげられなくなる。目から何も溢れないように口を噛み締めて耐えた。


「−−下を向くな。バルファルク帝国第一皇女ともあろうものが」


 咎めるような口調に、ビクッと肩を震わせ、それでも何とか顔を上げる。

 赤く鈍く光るお祖父様の目を見る。お父様と同じ色の目だ。その目に映った私はとてもひどい顔をしていた。

 

 お祖父様は小さくため息をつき、後ろを振り向く。


「ルシア。茶を」

 お祖父様の声で、待機していたお祖父様の侍女のルシアがカートを押して入ってきた。ルシアは紅茶を入れ、その場で一口毒味をしてから優しく微笑みながら渡してくれた。


「ミレイア様には蜂蜜をたっぷり入れた特別製です」

「ありがとう…」


 こくんと一口飲むと甘さが脳に染み渡り、それと同時に現実感が一気に押し寄せてきた。


 水滴がボタボタとカップを持つ手に落ちてくる。涙が勝手に流れ出して止められない。

 

 早く泣き止まねば。お祖父様の表情を伺うと苦い顔で横を向いており、不快に感じているのだと分かり焦るが、涙は止まってくれない。


 そんな私に見かねたルシアが口を挟む。


「センドリア様は怒ってなどおりませんよ。ことが起こったのを知りながら宮殿に行くこともできずに、隠し通路の出口でずっとやきもきしながら待っていたのですから」


 その言葉にびっくりしながらも、ああ、だから「遅い」だったのかと納得する。お祖父様は、眉間にシワを寄せルシアを睨むが、ルシアは素知らぬ顔だ。

 ルシアはお祖母様の侍女を長年努め、親友のようであったと聞くから、お祖父様もあまり頭が上がらないのかもしれない。そんな事を考えて少し身体から力が抜けた。


「…まあいい。ミレイア、お前はこれからどうするつもりでいる。私にできる事は少ないぞ」


 お祖父様は5歳児にも容赦がない。こんな状況で未来展望など語れるか。それでも考えなくちゃいけないんだよね…


 お祖父様の言うとおり、生き延びてここに辿り着けたとしても、黒幕をやっつけて宮殿に戻って生活。なんてことは出来ない。お祖父様が住むこの場所は、宮殿にほど近い場所ではあるが、帝国の国教であるフォルモナン教の聖地である。

 全ての信徒、つまり大多数の国民の頂点に立つ大司教、センドリア上皇のみが住まうことのできる、王ですら不可侵の領域である。

 但し、絶大な影響力を持つ代わりに、大司教は政治に口を出さないという決まりがある。お祖父様にできることは、私を匿うことくらい……それもそう長くは無理だろう。


 お父様を殺した黒幕は、恐らく、ほぼ間違いなく、叔父上。カルディア皇弟殿下である。

 これはクーデターだ。私を閉じ込めた使用人たちの様子から考えて、叔父の味方はかなり多いのだろう。

 お父様を殺し、宮殿を制圧してしまえば、あとは逆らう人間はいない。お祖父様に限っては、国を分裂させ、壊しても良いと考えるなら出来てしまうだろうが。そうはなさらないだろう。

 お父様から聞くお祖父様は、常に国のために生きていた。息子がもう一人の息子に殺されたからと言って、民を内乱に巻き込むことは許さないだろう。


 それに何より、私は、

「生きたい、です」


 叔父に復讐するより、皇女の立場を守るより


「生き延びるためなら、どのような立場になっても構いません。力を、どうかお貸しください」


 深く頭を下げる。


 頭上で深いため息が聞こえた。


「…よかろう。完全に安全な道は、其の方にはないが、出来る限り生きられるように手配しよう。…それがあの馬鹿を野放しにした私の、其の方と息子への償いだ」



 …

 後にお祖父様にむしろ殺されるのでは。と思うほどのスパルタ教育が待っていることを、この時の私はまだ知らない。




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