ラグへの対価
「むにゃ…はちみちゅ…」
その場に倒れてたまま眠ってしまっていたが、日暮れに伴い辺りが冷え込んできたため、やがて目を覚ました。
「はっ、もう夕方?」
どうやら日中丸々眠ってしまったらしい。
今から出発すると暗い中での移動となる。しかも今はかなりの空腹状態だ。
…無理してうっかり死ぬのは嫌よね。今日はもう日が完全に落ちる前に、近場で食料を確保するだけにして、ゆっくりベッドで寝てから明日出発しよう。
そう考え、付近に仕掛けている罠を見回りに出た。獣が通ったら起動するようにあちらこちらに魔法紋を仕掛けていたのだ。
塀の穴から3つ目の罠に、キジが尾羽根の長い大きめの鳥がかかっていた。
そっと素早く首を落とし、血抜きをした。
逆さに肩からぶら下げて、プロの猟師になった気分で、鼻歌を歌いながら戻る。
今日は豪勢に丸焼きにした。内蔵を取り除き、木の実とハーブを詰め込み、外側にもハーブとラグにもらった岩塩を揉み込んだ。
大きな葉っぱで包み、じっくりと焼いていく。
焼けるのを待ちながら、ラグに渡すお礼のことを考えた。
…ハーブでいいっていていたけど、それだけじゃ駄目だよね…。
ハーブはもちろん一杯採って渡そうと思うけど、普通の人なら街ですぐ買えるものだろう。
ラグ自身で簡単に採集することもできる。
…うーん、私が渡せる価値のある物ってなんだろう?
…魔法紋を刻んだ道具はそれなりにありだとは思うのよね…。
ただ、帝国の皇家直伝の技をさらっと渡してよいのか…。
魔法紋のようなもの、魔道具はシンダルシア王国にも沢山あるから、それっぽい物ならごまかせるかな?
ラグってあんまり詳しくなさそうだよね。剣士っぽいし。
何となく、…悪いようにならないようにしてくれる気がしてしまうのだ。
何より、串焼きを食べた時みたいに、喜んでくれる顔が見たいと思っている自分がいる。
貴族同士贈り物って、家族が相手でも必ず裏の意味とか読まなければならなかったから、普通に喜んでもらえる物を考えるのは久しぶりだな。
相手の喜ぶものを考えるのは難しいが、結構楽しい。焼けた鳥の塩加減が最高で、余計その思いが募った。
…うーん、その辺でも良く見かけるような魔道具で、便利でもらって嬉しいもの…。
皮パリパリうまっ
…騎士だから、戦闘で使えるものがいいかしら…?
おう、木の実ホックホク!
…でも危ないものはあげたくない…。遠征とか野営に便利なものなら私でも考えやすいかも。
っなんてジューシな肉なんだ!
…必需品は国から支給されるし、必要なものはすでに持っているよね…
細かくして混ぜて食べると…はあっ神様感謝しますっ!
全部は食べ切れなかったから、朝にとっておいた。
…あ、保温箱とかどうだろう?明日もホカホカを食べれる。
とりあえず寝よう。徹夜して日中寝るようじゃ効率が悪い。うんまた賢くなったね。
目が覚めた。やはり目覚めるのは朝に限りますね。
昨日の残りを温め直す。
…火で温め直せるなら保温箱の必要はないか…?
…でも温かいスープとか携帯できるのは便利かもしれない。
朝食を食べ終え、出発の準備をする。
ハーブ類を中心に採集しながら蜂蜜のもとへ向かう。
途中、鹿(仮)と遭遇し、捕獲に成功した。群れの中では小さめな個体ではあるが、私の体重よりはずっと重い。
必死に引きずり、川まで運び血抜きの作業をする。
日中は汗ばむ陽気になってきた。
一息付け、氷魔法と水魔法を練り合わせて冷たい水を出して飲む。
ふう、やだなぁ、またしんどい夏が来るわ…
この国の暑さは、帝国生まれの私にはきつい。
…あ、今なら温かいものより冷たい飲み物を持ち運べるほうが喜ばれるかしら?
…冷たくして保管する倉庫などは王宮にもあるのだろう。冷たい飲み物が出たことがあった。
…氷魔法を使える人は水魔法ほど一般的ではないと聞くから、そういう物があったら喜ばれるかもしれない!ラグが必要なくても、誰かにあげることもできるし。
よし、この方向で行こう!
やる事が決まってスッキリしたところで、鹿の解体を始めた。
今までは、こういった大物が獲た時は、持ち帰れる分だけを切り取り、氷らせて保存しつつ食べていたが、塩が手に入るようになれば干し肉が作れるかもしれない。
おいそしそうな腹肉と太ももの部分の肉だけを切り出して、葉と布で包み、両手が塞がらないように身体に括り付けた。
持てる量だけを持ち、移動するという分別がついたのは最近だ。
以前はせっかく捕れた食料を他の獣に食べられてしまうのが悔しすぎて、獲った獲物の近くで、食べられるだけ食べようと居座って、周りを狼どもに囲まれてしまい、命からがら逃れた木の上から獲物が食い散らかされるのを指を加えて見るハメになったりした。
気合で持って帰ろうとした事もあったが、途中で襲われて…以下同文。
そんなわけで、獣に対抗できるだけの身軽さを確保できるギリギリの量だけを持って、解体した場所からはすぐに立ち去る。
森で育ったものを森に還すのだ…
…悔しくなんかないもん!
まあまあの量を荷物に詰め込んだ、肉の重さが足を引っ張り、蜂の巣の近くに着いたのは、お昼時をかなり回った頃合いだった。




