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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
王妃編
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再会

 固まったままの私を見て、ラグは、怖がらせたかのと慌てたようだ。


「すまん、蜂の巣に首を突っ込もうとしているのを見て慌てて声をかけたんだ。」

「へっ?あ、ええ、蜂蜜が採れないかと思いまして…」

 硬直が溶けてあわあわと答えるミアに、ラグが蜂について教えてくれる。

「採るのは初めてか?夜に採るのは正解だが、光は向けないほういい。こいつらはルル蜂といって、光に向かってくる習性がある。」

「そうなんですか!危ない所をありがとうございます!」

 ミアは早速光魔法を消して手探りで採ろうとする。


「ちょ、っまてっ」

 首根っこ掴んでミアを巣から引き離すラグ。

「そんな手も顔も丸出しの装備で、つかみかかるな!」

「うっ、蜂用の装備なんて持っていませんもの。そこに甘味があるのに諦めきれません!ちょっとやそっと刺されたくらい、死ななければ治癒魔法でどうにかなります!とめないでくだい!」

「どんだけ甘味が好きなんだよ…。稀にだが死ぬやつもいるんだぞ。ましてやお前みたいなちびっこいやつ毒の周りも早い。」

「そんなっ、そもそもラグが悪いんです!私にヌガーなんて渡すから!あれから冬中甘味にうなされたんですよ!餌付けするだけして、放置なんて‥あんまりです〜」

 目の前に待ちに待った甘味をぶら下げられて、お預けを食らった気分になった私は、べそべそとラグに八つ当たりをする。

「ああ?!俺のせいか?!」


 幼い少女にベソをかかれたラグは、弱ってしまい、とりあえず私の口に、持参したジャムクッキーを押し込んだ。


 突然口の中に待望のお菓子を詰め込まれた私は、目をぱちくりとさせ驚いたのだが、


 ホロリと崩れるクッキーの感触と、甘酸っぱいジャムの香りに気づいた所で、ころっと気分が変わり、幸せ気分でゆっくり残りを噛み締めた。


 そんなわたしの様子を見たラグは、思わず脱力し、全くしょうがない奴だと言うふうに、頭を撫でてくれた。

 ジャムクッキーを頬張りつつ、大きな手で頭を撫でられたミアは、すっかりいい気分だ。

 何でベソをかいたかもすでにわからない。だって子供だもん。


「おい、そろそろ落ち着いたか?」

 ラグが頭を撫でるのをやめて顔を覗き込んだ。


 離れていく手を名残惜しそうに見ながら、ミアは、

「はい、お騒がせして申し訳ありませんでした。」

 しゅんとしながら3つ目のジャムクッキーを大事にちびりと齧る。

「本当に反省しているのか?まったく」

「してます!明日にでも刺されないように装備を整えて、採集しに来ます。えっと、素肌を露出する部分をなくせば良いんですね?」

「ああ、なるべく入り込まれないように隙間をなくして、顔から首にかけては薄布でも垂らせばいい。あと全部の蜜は採るなよ!ルル蜂は春と秋に採った花の蜜だけで生きているんだ。食べる分がなくなったら、巣ごと全滅するからな。」

「なるほど。何度でも頂きたいですからね。ちょびっとずつ頂くことにするよ!」

「…本当に大丈夫か?森中の蜂の巣が危なそうだな。…菓子ならまた持って来てやるから、程々にしろ。」


 その言葉にミアは思わず目を見開いてラグの顔を見た。

「いいの…?」

 菓子を持ってきてくれるということ、また来てくれということ、事情も聞かずにほおって置いてくれること、全部に対して良いのか、と聞いたが。

 ラグは、頭を掻きながら、なんて事なさそうにしている。


「あんまり重くなければ他にも持ってきてやるぞ?」

「そこまでは良いです…。お金も払えないもの。」

「でもなあ、お前栄養足りてないだろ。この前あった時と身長全く変わってないぞ?成長期だろうに…」


 そう言われて初めて、はたと気づいた。後宮入りしたときに持ってきたドレスが、2年たった今も丈がぴったりだということに…。ウエストや肩周りはかえってゆるくなっている。


 うつむく私を慰めつつ、ラグは一つ提案をする。

「金は別に良い…つっても気にしそうだなお前は、なんでも良いから何か持っているものでも良いぞ。狩りの成果とか、毛皮とか」


 私は、それなら、とかなるかも知れない、と思った。最悪…後宮から金目の物を…、いや、それは足が付きそうだな。


「うん!わかった!今度来るまでに何かお金になりそうなもの採集して置く!頑張って探すから!」

「頑張らんでいい。危なくないもんでいいから。見つかなければまたその次でいいんだ。お前一人の食料で金に困ったりしねえよ」

 私は、はうんうんと適当に頷きながら、何がいいか必死で考える。


「とりあえず何がほしい?森の中だと食えねえのは…パンとかか?」

「パン!…パンかあ…」

 うっとりと最後に食べたパンを思い出した。確か離宮の入り口から投げ入れられた最後の食事に入っていたな…。カッピカピだったけど、結構あれで凌げたのよね。でも、カビたらやだな…。


「えっと、小麦粉でいただけますか?確か水で捏ねて焼けば食べれるんだよね?」

「食い物にはなると思うが…ふわっとはしないと思うぜ?」

「うーん、いいの、長持ちが優先です。」

「それもそうだな‥」

「あっあとお塩をお願いします!」

「塩もねえのか!?今までどうやって生きてたんだ?!」

「なんかしょっぱい植物があって、何とか生きてこれたよ。」

「ああ、ソルプラントか…。また珍しい植物に出会えたもんだな。生きてるのが奇跡じゃねえか。」

「私もそう思います。何度も死にかけて生き残るのを体験すると、むしろ幸運に恵まれているような気が最近してきたよ…。」


「はあ…取り敢えずこれ舐めとけ。ソルプラントだけじゃ絶対足りてねえから。」

 そう言ってラグは岩塩を渡してくれた。

「ふおぉぉ、塩だ‥。」


 私は、急いで焚き火の所へ行き、朝用にとっておいた、うさぎ(仮)の串焼きに、岩塩を風魔法で少し削り、ふりかけた。そのまま軽く炙って口に入れた。


「おいしいいいいいいい!」

 思わず足をバタバタさせた。ああ塩ってなんて偉大な存在…。


 ほうっと息をついていたら、ラグが苦笑しながら側に腰を下ろした。

「あうっ、ごごめんなさい。」

 塩を恵んでくれた人をお礼も言わずに放置してしまった。


 なんだか、ラグには尽くアホを晒しまくっていることに、今更気付いて反省して落ち込む。

「お礼言わずにごめんなさい。本当にありがとうございます。色々…。あ、あの良かったらこのお肉食べますか?今はお塩の対価もなくて…」

 もごもごとうつむいて串焼きを差し出した。


「貴重な食料貰っちまっていいのか?とっておいたんだろう?」

「お肉はまた採れますから…。ラグのおかげで美味しくなったので食べて欲しい…。」

 首をブンブン振って串焼きを差し出した。

 少し済まなそうに受け取ると、口に入れた。


「うまいな!なんだこれ、なんか香辛料使っているのか?!」

 塩味だけの、野趣あふれる肉の味を想像していたら、予想外に美味しくて驚いたらしい。


「春はいっぱい薫りのある植物があるから…。嗅いだことのあるもの片っ端から試したの。」

 美味しいと言われて、喜びが隠しきれずに、口元をふにゃふにゃさせながら。答えた。

「こういうハーブが対価でも良いぞ。家で食ってみたい。ミアは料理上手だな。」

 良くできた子を褒めるように、また頭を撫でてくれた。


 目を瞑って、撫でられる感触を噛み締めていた。


 …

 ……

「じゃあ、次に来られるのは5日後の夜になってしまうが大丈夫か?」

「うん、本当にありがとう。ここで待ってる」


 


 夜が明けないうちに、ラグは帰っていった。



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