騎士団より
「何処へ行く気ですか?」
そっと目を盗んで騎士団の執務室の扉を、音を立てずに開けようとしているところで突然声をかけられた。
声の主は、ヨシュア・ルベール。騎士団の副団長だ。
「またこっそりと抜け出そうとしていらっしゃる?…まさかねえ?このクソ忙しいときに?」
バサバサと、分厚い書類の束を目の前に突きつけながら脅してくる。ちなみに脅されている俺は団長である。
「あーほら、その議会への報告のためにももっと見回りして情報集めなきゃならんだろ?仕事だ仕事。うん、ちょっと王都をひと回り行ってくる!」
急いでノブを回して脱出を試みる。
ドカンッ
副団長の足が扉に突き刺さった。足で扉を締めるという、どこの輩かわからん事をやった、このヨシュアという男は、上位貴族の出身だ。
整った顔立ちと、上品な立ち振る舞いで、入団当時はかなり浮いていたが、今やすっかり荒くれ者揃いの騎士団に溶け込んでいる。
うん、団長としては嬉しい限りだ。
「ヨシュア、扉が壊れるぞ?先月俺が壊したときはあんなに怒っていただろう。」
「この際、団長を閉じ込められる内鍵がついた扉に変えようと思っていたので、丁度いいです。」
おお、怖い怖い。
「そうか、予算がおりるといいな!」
ならば良いか、と考え、
バキィッ
扉を外側に押した。
「ではな!あとは頼んだ!」
扉を廊下にそっと降ろし、走り出す。
怨嗟の声が背後から聞こえたが、気にせずに、息抜きという大事な仕事に向かう俺であった。
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ふーっと息を吐くと、白くなる。その白い息を目線でたどると、遠くに雪を被ったダルタン山脈が見える。
道の向こうから馬車が、やってきたため、馬を動かし、脇に避ける。
「おう!団長さん!寒い中お疲れさん!今日は何処へ行くんだい?!」
王都に買い付けに来る行商人のようだ。見回りで時々見かける。
「ああ、今日は森の方に行こうかとな。今日も寒いな。」
「ダルタンの森へ行くのか!そらあ大変だな。
ところで…夏にあった魔物の騒ぎはどうなったんです?」
声を突然潜めて聞いてくる。これを聞きたくて声をかけたな。
「ああ、こうして見回りをしているんだが、寒くなってからはパッタリ聞かなくなった。
そっちは何か聞いたりしたか?」
「やっぱりそうですか、私が聞いているのもそんな感じでさ。
騒ぎになったのは本当に魔物だったんで?」
これまでは、南の辺境ぐらいでしか心配されていなかった魔物の存在が、今年の夏に王都にかなり近い村で見つかったという話が、あちこちで広まったのだ。街道を一人で動く彼のような仕事の者たちは、どうしても気になる事だろう。
「ガンガルドにいるような、明らかな魔物ではないようだ。ほとんど他の動物と変わらないんだが、ちょっと妙だったという話だ。草食の筈なのに肉を食ったとか、夜しか活動しない筈なのに日中現れたとか、そんな感じだな。」
出来るだけ事実を話す。こういう事は不安を煽りすぎても、油断させてもいけない。
「そうかい…、それならなんとか対処できそうだが…なんだか不気味な話だねえ。」
「そうだな…。あんたもなんか見たら教えてくれ。」
そう言って彼とは別れた。
やはり魔物の件は、不安を与えているな…。しかし騎士団では原因がさっぱりわからないから、対処も説明もしようがなく、途方に暮れているのが現状だ。
…南の方での報告が多いが、こちらのダルタン山脈の方面も確認しておくべきだろう。
ついでにあの少女を探してもいいだろう。広い森でもう一度会う可能性は非常に低いだろうが。




