表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
共和国編
248/250

聖地

 

 飛び出た小屋の外は、見たことのない景色だった。


 木々の向こうに目を凝らすと、見慣れた尖塔と、遠くに縦長の王宮の図書館が見えたため、位置関係からして確かに教会の敷地内なのだと解った。


 …それにしては人の気配がない。


 多くの人が住んでいるはずの教会にしては、不思議なほど静かな場所だった。周辺には鬱蒼と緑が茂っており、自分が寝かされていた小さな小屋の他にもう一棟、やはり見たことが無い

 建物が建っていた。

 周囲の木立に隠れてしまうほどの低く平べったいその建物は、白くぼんやりと輝いている。


 …聖地だ。


 始めて見るはずの場所なのに、なぜがそう分かった。

 そう理解すると同時に、嫌な予想が的中したという怒りと恐怖で頭が真っ白になった。身体が勝手に動き、真っ直ぐそこへ突進する。


「ぐぅっ!」


 建物の外側に等間隔で並ぶ柱を通り抜けようとした時、バチバチッと光が弾け、身体が痛みでよろめいた。

 …くそ、結界か。


 痛みを無視して力尽くで通り抜けようとするが、ビクともせず弾き返され、自分の肉が焼ける匂いがした。

 腕輪の魔道具もミアがこの中にいるとはっきり示しているのに、入れない。


「ミア!!!」


 見えない壁に手を何度も叩きつけ名を呼んでも、手が壊れていくだけで返事はない。


「旦那様!、おやめください!」

「今の旦那様の身体は前ほど強くないんです!死んでしまいますよ!」


 追いすがってきたカイルとロイがいつの間にか俺にしがみついて何かを叫んでいた。


「ミア……ミア!!!」


 無駄だと分かっていながら、立ち入りを拒む白い建物に向かって叫ぶ。なぜお前がそこにいる。どうして俺を置いていった。こんなだまし討ちのように…!


「団長!!、…失礼します!」


 俺を羽交い締めにして止めにかかったのはヨシュアだ。何処からか駆け付けたのか、荒い息を吐いている。


「いくら団長でもこの先には行けません!…何があったのか説明をいたしますのでどうか落ち着いて下さい」

「…お前もか?お前も協力したのか?」


 土魔法で足元から固めにかかってくるのを払い除け、反対に胸ぐらを掴み睨みつける。

 誰に、とは聞かない。ミアが聖地で眠りにつくことを望む人間が誰かは、はっきりしている。


「団長…」


 ヨシュアは苦い表情で目を反らす。

 その目線の先にそいつがいた。



「ラグレシオン…」

「ジークフリート」


 目を合わせず、顔を伏せたその態度ではっきりした。コイツは「また」ミアをこの国の犠牲にしたのだ。


「ふざけるなぁ!!」

「これは彼女―――がふっ」


 ジークフリートが何かを言おうとしていたが、怒りで気付いたら殴り飛ばしていた。先ほど痛めた手は肉が溶けて骨が出かかっていて、激痛が走る。そのせいで思ったよりダメージが与えられなかった。

 ぼろ切れのように吹っ飛んでいった奴にもう一度殴る為に地面を蹴ったのだが、

 視界いっぱいに壁が現れ、進路を塞がれた。除けようと力を貯めたその一瞬に、背後左右、ついでに上も壁で塞がれ、閉じ込められた。


「よし、間に合ったぞ!」

「油断するな!急げ急げ!」

「もっと重ねるんだ!全力で押さえ込め!」

「う、内側の壁は柔らかくしてください!旦那様の怪我が取り返しのつかない事に…!」


 壁の外から聞こえる声で、騎士団の連中が土魔法で俺を閉じ込めたことが分かった。ヨシュアを中心に複数の騎士達による展開された厳重な檻は、さすがに破るのは時間がかかる。


 …何より、今の俺の身体では…


 身体が思う様に動かないのは起きたばかりのせいだとばかり思っていたが、どうやら違うようだ。痛みやダメージが普段より酷く、回復も遅い。


「へ、陛下ぁ!しっかりしてください!」

「まずいぞ!近衛にバレたら団長が罰せられるじゃないか!」

「だれだよ、とりあえず陛下に怒りを受け止めて貰って落ち着かせようって言った奴!」

「全員ですよ、誰も最初灰屋でしたからねー」

「陛下、一発殴られたぐらいで死んでいては又殺されますよ?!」

「鍛錬不足じゃないっすか?」


 …あの馬鹿ども。


 どうやら俺がキレるのを見越して待機していたようだ、身体が柔くなっているせいで少し手間取り、数分後ようやく亀裂が入った。。


「で、出てくるぞぉ!」

「ぎゃあっ血まみれ!?」

「旦那様!…レオニダス、治癒を!」

「…治ったらもっと暴れんるんじゃないか?」


 おびえる隊員達の中に、生意気な小僧の声が混じっていた。


 …そうだ、奴なら事情を知っているに違いない。


 ミアにつきまとい、いつの間にか居座って、俺なんかよりずっとミアの事情を知っているという顔をして二人でこそこそやっていたあいつなら。


「…レオニダス、状況を説明しろ」


 苛立ちを込めて睨みつけた。

 しかし、それを庇うように前に出たのは隣で呆然と立っていた大司教だ。


「その前にどうか私から謝罪をさせて欲しい」

「ハルマン様!俺が説明しますから…」

「私のせいなのだ、私がふがいないばかりに」

「…失せろ」


 訳も話さずただ謝ってしまいたい、といわんばかりの大司教の情けない姿は不快でしかなかった。近づいて来るのを振り払っただけの腕ががまともににあたってしまい、枯れ葉のように飛んでいった。

 神官共が大げさに騒いでいるが死にはしないだろう。

 なぜかこの場に、大司教以外にも何人もの教会関係者がいて、一様に地面に這いつくばって許しを請うていた。情けなさく眉を下げ、怯えた顔で喚く姿に、怒りが膨れ上がる。


 …それではまるでミアが、もう二度と戻らないようではないか


「失せろ。………ミアを、返してくれ…」


 自分の語尾がみっともなく揺れた。頼むから、俺からあの子を取り上げないでくれ。

 おそらく、俺は今とても情けない顔をしているであろう。レオニダスと目が合うと、奴まで表情を情けなく歪めた。


 するとそこに、ふわりと白い影が割り込んだ。と思ったら左頬に軽い衝撃があった。


「……ルシア?」


 ペチンッと良い音がしたが、痛くは全くなかった。しかし頬を叩かれたという事実に驚き固まってしまう。


「しっかりなさりませ!…そもそもは旦那様のせいなのですから」


 常に貴婦人のお手本のような彼女が、感情をむき出しに、唇を震わせ目に涙を浮かべてこちらを睨んでいる


「は…?」


 言われた言葉がとっさに理解できない。彼女は明らかに俺に怒っていた。


「ミレイア様が聖地に入られたのは旦那様のせいと言うことです!」

「……役立たずの国王と大司教のせいではないと言う事か?」


 ミアが自ら聖地に?

 …あぁ、俺が、俺が彼女を襲ったから。


 意識を失う直前の事を思い出し、表情を失った俺をヨシュアが揺さぶる。


「ルシア殿、正しくは『せい』ではなく、団長の『ため』です!」


 …同じ事だ。


「いえ、旦那様がミレイア様をデレッデレに甘やかして依存させたせいです!」

「は?」

「先々代皇帝センドリア様は、ミレイア様を『1人』で生きていけれるよう教育しました。それがミレイア様にとって寂しくつらい事であっても、ずっと見守っていくことが出来ない以上、生きていけれるようにすることが最優先だったのです」

「…あぁ」

「自分がいないと生きていけないように策を散々巡らせておいて!ちょっと襲ってしまったくらいで自死を図るなど!!」

「うっ…」


 痛いところ突かれた。俺がいなくなる位なら、と考えてミアは目覚められないかも知れない眠りについたというのか。

 離れた場所で隊員達が「襲う?」「襲っちゃったの?とうとう?」などと、ザワついている。…そっちは誤解だ。


「そこにいる軟弱な王と怠惰で無責任な教会が原因であるのは確かですが、彼らの為にミレイア様が動くはずがないでしょう!?」

「なっ」

「ふ、不敬では…」

「あら、当然ではありませんか。あなた方は無知が故に、国を魔物に明け渡す寸前にまでしたのです。血筋も能力も歴史も自らの醜い争いで失った…要はいくらでも代わりはきくのです。帝国から派遣された神官達の元でせいぜい学び直しなさいませ」


 堂々と国のトップを嘲笑された事に苛立つ者達を、ルシアは冷たく鼻で笑った。冷然としたその態度は、この場にいる誰よりも気品が溢れていた。


「…旦那様、ミレイア様がその身を賭して守りたいのは貴方だけなのです」


 俺の目をじっと見つめ、ルシアが叱る。


 「しっかりさいませ!…ミレイア様を取り戻せるのは貴方様だけです」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ