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彼女はファザコンをこじらせている  作者: 花摘
王妃編
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出会い

 

 わぁ………人間だ………。


 私はうっかり、そんな気の抜けたことを考えていた。


 なにせ人に久しぶりにあったのである。

 思わずまじまじと観察してしまった。


 大きな男の人…熊と同じぐらいかしら。戦闘力は…これまた大きな剣を腰に挿しているから熊よりは強そうね。明らかに私より強い魔力も感じる。どうしよう‥。

短髪…目と髪の色は暗いから分からない…年も良くわからないが、そう若くはなさそうだ。


「…あー、その、お嬢ちゃん?でいいよな?こんなところで何しているのかな?」

 と男が口を開いた。


 喋った!

 再び、当たり前のことに驚いてしまい、目を丸くして顔を凝視した。 

 男はそんなミアの反応に困ったようで、

「お嬢様ちゃんどこから来た?言葉わかるか?」

 と言いながら近づいてきた。


 私は慌てて立ち上がり、モップの柄を構えて警戒の体制をとった。

「ああ、違う、落ち着け。何かするつもりはない。」

 男は慌てたように両手を前に出し害がないことを主張するが、信用できるわけがない。

 さっきまでは、久々の人間との交流で、思わず警戒心が薄れていたが、獣の百倍、人が恐ろしいということを思い出した。


 全く警戒を解かないミアを前に、男は困ってその場にしゃがみ、

「ほら、怖くないよ〜。おじさん怪しい人じゃないよ〜。」

 と片手を前に出して、おいでおいでをする。道端で猫を見つけたときにやるやつだ。


「私は猫じゃない」

 と思わずツッコんでしまった。悲鳴以外の声は久しぶりに出したのでかなりかすれていたが、男には聞こえたようで、驚いたような顔をして尋ねてくる。

「言葉はわかるのか。この国の子か?」

 密入国者と思われては捕まってしまうと思い、うなずいた。今は一応王国に籍をおいているのだから、嘘ではない。


「そうか、お嬢ちゃん甘いもの食べるか?」

 男が突然ポケットから包を取り出した。

 餌付けか?餌付けだろう!誘惑するんじゃない!と思いながらも、男の手元を凝視してしまう。あ、甘いもの‥


 男はその様子を見て、吹き出すように笑って、

「ほら、変なものは入っていないぞ」

 パキッと割って一部を口にいれて見せ、残りを放り投げてきた。


 ああ!お菓子が!と思わず掴んで男の顔を見た。

 くそう、笑ってる‥。


 男の顔をにらみながら、それでも恐る恐る口に入れる。体が!勝手に!


 …!!ヌガーだ!

 甘い〜おいひぃ〜、

 はあ、こんなに美味しいものだっけ…はう…幸せ…


 思わず脳味噌が溶けかかったところで、はっと我に返り、男を見ると、

 子猫を愛でるような目で見られていた。


 くっ…かなり恥ずかしい、が…

 こんな悪意のない、むしろ情の籠もった目で見られたのは久しぶりだ。


 目元にできるシワが、お父さんに良く似て見えた。


 そんな表情と、温かい声で聞かれたから、思わず答えてしまったんだ。


「名前はなんていうんだ?」

「えっあっ、ミアよ」


 !しまった!不味い!いや…愛称だからセーフか?!


 慌てるミアをよそに男はますます笑みを深めて


「ミアか、名前まで猫のようだな」

 と優しげな声で言った。


 う〜、やっぱり猫扱いされていた。


「…何か事情があるのは見てわかるが、こんな森の中に一人ってのは良くない。力になるから相談してみないか?」

 男がそんなことを言う。事情なんて話せるわけがないじゃないか。

 けど、もういっそ拾われてしまいたい。なんて思ってしまった。

 …のだが、


「ああ、自己紹介がまだだったな。名前はラグだ。一応‥騎士団に所属してるから怪しいもんじゃないことは保証する」

 そう言って首にかけた騎士団所属の証であるプレートをチラッと見せた。


 ヒョッとミオは思わず身をこわばらせた。

 騎士団!ということは私を後宮で飢え死にさせようとした陛下(元凶)のお膝元ではないか!

 焦っていると、男はさらに、

「今日ここにいるのは調査のためなんだ。最近森で大きな魔力反応が報告されるようになってな、さっきもこの川下で大きな爆発の痕跡があったから調査していたら、君が焚き火しているのを見つけたんだ。」

 なんてことを言い出す。


 ひいっ

 私だ!やっぱりあれはまずかった!

 あああ、一年近く森で人に合わなかったからすっかり油断していたあ!


「魔力反応からして、特異変化した魔物の可能性もある。とにかくこの森は危ねえから、安全な場所に連れて行かせてくれ。知り合いの孤児院なら、事情を聞かずに面倒見てくれる。」


 なに?私魔物じゃないよ?

 とりあえず疑われはいない?


 …孤児院…良いかも…。


 思わず考えてしまっていたら、頭の中のお祖父様が冷たい目をした。


 お祖父様は王族や貴族の義務から逃げ出す人を、殊の外軽蔑していた。

 お祖父様に軽蔑されるのはやだなぁ…



「大丈夫。私は家があるから、そこに帰ります。」


 家なんかじゃないけど、帰らないといけないから。


「…そうか?ならばそこまで送ってく」

 怪しまれているな。しょうがないけど。

「いえ、知らない人に家を知られるのは良くないから」

 納得してくれないだろうが、こう言えば無理にはついてこないだろう。


「本当に大丈夫か?助けは必要ないか?」

 去り際まで何度も私に確認しくる。

 ああ、優しい人だなあ。


 政治とか権力とかのしがらみがなければ、案外人は優しいのかもしれない。

 最近忘れかけてたけど。


「大丈夫だよ。ありがとう、ラグ。」

 色々な思いを込めて伝える。


「見回りは時々するから、見かけたら声をかけてくれ。元気でな、ミア。」

 温かい声でミアと呼ばれると、忘れていた感情が込み上げてきそうで、


 無言でうなずき、走ってその場から立ち去った。




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