国王と宰相の打ち合わせ
「今度の議会で、議題に上がる予定の資料です。前日までに目を通し、質問事項をまとめておいてください」
「わかった、今回は多いな」
ベルディが手渡した、本一冊分程もある資料を受け取った陛下は眉をしかめる。
「ええ、帝国の動きが怪しくなる一方な上、南方からの魔獣による被害についての噂が広まっておるようです。陛下の治世で力を入れてきた、地方領地の経済発展が、ようやく実を結んできたというのに…このまま民に不安が広まるようであれば、足止めになりかねませんぞ」
「ああ…、騎士団の優先順位や、支援の有無などを取り決めねばならぬな。…どれも頭の痛い問題だ。人手が足りん」
忌々しそうに陛下がつぶやく。
「その上、その隙を付いて最近、グスタフ侯爵の動きが派手になっております。例の数名の連中と教会の司教クラスも何人か関わって、帝国との戦争を煽って、国境の領主たちに武器や戦闘員の確保を請けおい、儲けを出しているようですじゃ。傭兵ギルドや武器商人と組んで不当に値段を釣り上げ、証拠はありませんが、帝国にも物資を融通しているそうですな」
「侯爵は昔から、商売上手だからな」
「ええ、このまま戦争に突入したときに、国の蓄えがなくなったときには侯爵に頼らねばならない事態になりかねません。早急に対応せねば」
「だが、動きが派手になっていると言っても、罪を問えるほどのことはしておらぬのだろう。ギルドや商人たちとの繋がりはいつまで立っても掴めぬし、値段を不当に上げていたとしても、本人を拘束できる程の罪ではない。帝国にも武器売っている証拠が見つかれば、反逆罪で処罰できるのだがなあ…」
「そのあたりはきっちり隠しておるようですな。手足として使っている下級貴族だけは、頑張れば罪に問えるか…と言うところですじゃ」
「本人の動きを止めたいところだな…」
頭を悩ませる陛下を見て、ベルディは内心でそっとため息をつく。
我が王国は約300年前に、議会制度を導入して以来、貴族の台頭が激しく、国王の権力は弱体化の一途を辿っていた。
先王陛下の時代、貴族同士の覇権争いが露骨になり、内乱も激化した。当時の国王にそれを止める力はなく、体調を悪くし、ただ引きこもっていたのだが、それを、まだ十代半ばの王太子に過ぎなかった陛下が自ら兵を率い内乱を治めて回ったのだ。
平和を望む民や、多くの良識ある貴族はこれを歓迎した。
愚鈍な王であれば、有力な貴族が政治を行ったほうが良い。ただ、この聡明な陛下には、もう少し風通しの良い場所で、力を奮って貰いたくなる。
若くして即位して以来、長い間をかけ、議会には有能で話が通じる者達で固める事が出来た。
後は、利益を求めて彷徨う、膿の大掃除をするだけだ。
「どのような罪でも良いならば、一つ案がございますぞ」
「ほう…言ってみろ」
「…いえ、これについては時期を待てばよいだけなので、後でお話いたします」
「…勝手に動くなよ?」
「なにもしやしませんよ」
そう言ってベルディは不敵に微笑んだ。




