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ヒトに恋した怪物たちへ  作者: キョウさん。
古き世界のハガネの乙女
13/17

五話~煙草の煙と荒くれシスター~



「あーっもう!あーーーーーっったく!!お前らさえ来なけりゃあそこで堂々とサボれてたってのによっ!!タバコだって没収されたしマザーに目ェつけられちまったし!ホント今日はロクでもねーってねーって!!」

「こわいわぅわぅ…」

「タバコは肺機能へのダメージやガンへのリスクが大きい……可能な限り控えるべき」

「んなことパイセンのシスターに100回言われてるっつーの!あーーーとっとと終わらせてサボりだサボり!早足で行くから耳かっぽじってよーーく聞いとけよ!一回しか言わないからな!!」


 シスター・シャルは機嫌が悪かった。


 理由は本日付けで教会の雇われとなった、二人の新人の存在だ。口減らしや奉公のために新人が入ってくることはよくあるが、その場合長い教典の暗記や礼拝の仕方、当番割から何なら何まで”しっかりとしたシスター”の先輩方が教育を担当する。

 ここまでで自分がその範囲内に入らないことを改めて自覚して唾を吐き捨てたくなったが、自分はそのはずのならず者シスター、教会の爪弾き者なのだ。清らかなれ、慎ましくあれ、そんな精神を教え込むなら自分に任せるはずないだろう。


 つまりこの二人はそういう立場じゃない、雇われだとかお手伝いだとか、関係者がやりたがらない仕事をやらされるだとか、そういうものだ。早い話が込み入ったところまで教えなくていいから最低限、ここのルールを教えて迷わないようにしろというお達しだ。あの狸ババアのマザー・オーキスのやりそうなことだとシャルは心の中で悪態をついた。


 もちろん、自分への罰も兼ねてるだろうが。


「で、お前らは何をしたいってここに来たんだよ?親に捨てられたクチでもねーだろ」

「……アタシは医療補助」

「見た目若いし回復魔法が使えるってクチか、まあいい仕事先だな、出世万歳」

「わ、わたしはわかんない!」

「なんだそりゃ」


 赤毛の回復術師の子連れ、というわけでもないし、なにより若すぎるとシャルは勘ぐる。

 まあどちらにしろ、教会は人手が常に不足してるものだからおいおい適正のある仕事に割り振られるだろう。


 それにしても、とシャルは廊下を立ち止まって二人を見た。


「ホンットにどういう組み合わせなんだお前ら」

「わぅ」

「…さぁ」

「犬耳の方はカッコはともかく耳がおかしいし、赤毛のはカッコからしておかしいだろ、どっから来たんだよお前ら」

「お、狼だよぉ」


 それを聞いているんじゃない、と言いそうになるのをおさえて彼女らを、シャルはあらためてまじまじと見つめた。


 片やベージュと白を貴重としたブラウスやスカート、あたたかそうなストールはまあいいだろう、でもそろそろ暑い季節になるぞ。だが頭に生えたまっしろな犬耳や尻尾、それに今は部屋に置いてきているが大の大人が背負えるかという巨大なリュックを年の頃十代をようやく慣れた頃合いの乙女が背負っていたのは浮き世離れしている。

 もう片方も片方で、こっちはなおさら常識ハズレだ、スカートだけならまあ及第点だが、その上はなんだ、じゃあ下もなんだ、全身をピッチリ覆っている赤色基調の衣服やら頭の珍奇な眼鏡やら、都の仮装大会の季節になるのははもっと先だと言いたくなった。


「あーっもーっ、考えりゃ考えるほどワケわかんねー……とりあえずここが礼拝堂!」

「もうみたっ!」

「じゃあ次!!こっちが厨房!!」

「ひとつたべてもいい!?」

「時計の針くらい読めるだろ!」

「二時わぅわぅ…」


 シャルに怒鳴られ耳をぺたんとさせるレラ。

 メディが一緒になってしゃがみこんで頭を撫でて慰めていると、厨房にいたシスター達から夕飯のために仕込んでいただろう、ポトフの味見を頼まれてにっこり、世界は優しい、やはり人類とはかく素晴らしきものなのだ、こわいお姉さんシスターなんていなかった。


 一方シスター達からのシャルへの、一方通行にしょうもないものを見る目線が彼女のこの場所での立ち位置を表しているのだろうと、一緒になってポトフを味見していたメディは察した。


「塩分濃度が抑えられている、食物繊維もたっぷり、高得点」

「そんなことまでわかるの?助かるわー、当番制なせいでいつも栄養管理がまちまちで…よかったらまた今後も」

「だーっ!キリがねえ行くぞっ!!」

「ごはん~…」


「こっちが洗濯場!こっちが倉庫!こっちが……医務室!赤いのはこっちで働くんだろ?」

「医療器具の常備や薬剤の質、その他マニュアルの方を……」

「わかんねーけどそーいうのは実際動き出してからだろ!はい次!」

「マニュアル……」


 厨房からふたりを引っ張り出したシャルが、レラとメディを次から次へと案内していく。その実背中には『はやく仕事を終えてサボりたい』という意識がくっきり透けて見えるのがなんとも声をかけづらかったが、おかげでやれトイレから展望台まで、鐘のある展望台に関してはレラがはしゃいで欄干から落ちそうになるのを二人がかりで引き止めるというトラブルがあったものの、時計がひとまわりするより早くおおむねの教会内部構造を二人は頭に叩き込めた。


 生活に必要な部分だけ覚えておけば、あとは野となれ山となれだろう。

 それから下って下ってなつかしい地上へと戻ると、シャルは役割を果たしたとばかりにおおあくびをする。これで今日の仕事は終わりだ、あとは勝手にやってろやってろ、わかりやすい背中がレラとメディの二人に挨拶した。


「んじゃあたしは倉庫の方でサボってるから、お前らも部屋で休みなー」

「ありがとうございました!」

「……助かる、ケド、たばこはやっぱりだめ」

「うるせっ、先輩だぞあたし先輩!新入りが生意気なこと言いやがってかーっ!」


 まっしろな短髪をわしわしと掻きながら、シャルは悪態をつきつつ去ろうとする。

 そのあとをレラとメディはついていくのだ、廊下の途中まで行き先は一緒だった。


 そうするとふと、レラはまだ通っていない大きめの扉に気がついた。

 古ぼけた扉で、閉ざされた隙間からわずかに冷たい空気が漏れ出している。元が狼であるレラは鼻がきくから、とてもイヤな感じをしてあとずさった、死臭だ、死の臭いだ、そこにかすかに何か薬品じみた臭いが混ざってとても近寄りたくない感覚をもたらしている。


「……わぅ」

「あー、そこカタコンペだよカタコンペ、気味が悪ぃけど隠れるトコ多いし、マザーがたまーに来る程度だからよくサボり場所にしてる……言うんじゃねーぞ!?お前らがあの部屋貸しきったせいで、あたしの大事なサボり場所がひとつ潰れたんだからよ」

「かたこん」

「カタコンペだよカタコンペ、共同墓地? …まぁ聞こえはいいけど死人の行き着く先さ、あたしらも最後はここに行くって考えたらちょっとくらい棺桶に礼儀正しくしておいてもいいかもな。あたしはゴメンだ、あと基本許可された時以外立ち入り禁止だから気をつけな」

「それなのにシャルちゃんは入ってるの?」

「ちゃんって……あたしはこれでも17だ17、成人済みだ成人済み!へへっバレなきゃいいんだよバレなきゃ!あたしは隠匿系の魔法が使えるから足音消せるんだよ、逆にカタコンペは足音がめっちゃ響くから誰か来たかすぐわかるって寸法さ」

「尊厳の愚弄……」


 苦い顔をするメディ、だがはいはい気をつけます、と手をひらひら振り、シャルは背中を向けた。


「じゃあ今度こそあたしはサボりに行くから邪魔すんなよ。

 あ、でもわからないことあったら聞きに来い、他に言うなよ!バレるから!」

「どっちなの!?」

「臨機応変!」


 行き先の違う廊下を歩いていき、周りを注意深そうに見ると倉庫に入っていくシャル。

 レラはそれを呆然とながめつつも、その手をメディが引いてようやくはっと戻ってくる。


 メディとしてはシャルの”適当ぶり”には期待が持てなかったようで、今日はもう戻ろうと誘いかけた。



「うん、そうしよっか。お部屋もきれいにしないとね!」

「除菌は得意だけど掃除は苦手…」

「わたし得意だからまかせてっ!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ほんとにひとりでやらせるとはわたし思わなかったですわぅわぅ」

「適材適所、足手まといになるならやらないのが吉」

「うぐぐ…」


 ほうきで掃いて掃いて、ちりとりで取って取って、ベッドの下から窓の枠まで、ぜーんぶわたしがお掃除したの。これからふたりで使うお部屋だからふたりでお掃除したほうがいいーって言ったんだけどメディちゃん『お掃除ロボットみたいに床を這う機能はない』ってずっと座ってた。


「あ”ーあ”ー、テステス」

「メディちゃんなにしてるの?」

「音波滅菌」

「めっきん」

「……消毒」


 なるほど消毒、おじいちゃんの家にいたときはワインを使ってやってたやつだ。

 これでお部屋も清潔、さすがメディちゃん!わたしもあーあー叫んでみた。


「ちょっと、うるさいよ!」

「ご、ごめんなさい……」


 おとなりのお部屋のヒトに怒られちゃった、わぅわぅ。

 わたしのお声は遠くまでよく響くかわいい声だって言われたことがあるけど、ならメディちゃんの声はきっとキレイな声なんだ。聞いてて安心するというか、気を張らないっていうか、寝る時に子守唄歌ってくれたらすぐ眠っちゃうようなそんな声。


 ママみたい。


「メディちゃんがママになったら、赤ちゃん夜泣きしないで済みそうだね」

「生理機能に関しては検証が必要……だケド、それは保留。一応後継型に簡易量産型がいるからそれがアタシの子供…後輩?になるのかな。どちらにせよ、今のアタシもレラも身体的成熟がまだ足りない、若年期の不純な行為は母体のリスクを考えても慎むべき」

「わからないけど、とりあえずわたしはまだ小さいってこと?」

「それは間違いないと……思う」


 メディちゃんが言うにヒトは子供を産めるようになるまで10年から15年くらいかかるらしいけど、実際はもっとかかるらしい。わたしは狼としてもそんなに経ってなかったけど、シルバーファングも子供を産めるようになるまでうまれて二年はかかるってあとから聞いた。

 わたしは元の身体はシルバーファングだけど、いまはヒトの身体だ、そうなるとどうなるんだろう?元の身体のとおりならもう大丈夫だけど、ヒトの基準になるとわたしはあと10年くらいまたないといけない。けどセドラちゃんが言うにわたしの身体はだいたいそれくらいになってて、しかも他の娘より成長がはやいってことだった。

 

 メディちゃんに至っては元の身体がキカイってやつらしいし…うぐぐあたまが。


「おーばーひーと」

「レラ難しい単語を知ってる」

「はっ、わたしは今なにを……うーん」

「アタシ達アニマの身体的特徴に関してはデータがないから、最終的に自分たちで実証する必要がある」

「えーっとえと、どういうこと?」


 メディちゃんはくるくる指をまわしたあと、わたしと、それからメディちゃん自身を指さした。


「ぶっつけ本番」

「ぶっつけ」

「病気になったとしたら最悪、ヒトの使う薬や器具、果ては栄養素まで真っ当に通るかわからない。閾値、血液型、アレルギー、すべてが不明、麻酔ひとつも猫とヒトでは量が大きく異なるし、例えば狼ならタマネギ食べられないとかもあるハズ」

「たまねぎ嫌いですわぅわぅ、あ、でも煮込んであったらだいじょうぶ!」

「そういうトコ」


 狼のシルバーファングとして生きてた頃は、そういえば食べちゃいけない毒草とかきのこ、虫なんかを教えられたなあ……。


 でもヒトがそれらを持っていくのを見たことがある、いまになって思うとたぶん、食べたんじゃないかなって思った。おじいちゃんから聞いたんだけどヒトってすごい毒に強くて、なんでも食べられちゃうんだって。わたしも今はたまねぎ食べられるしつよくなった、つよい。


「もっとも病気になるかすらわからないケド」

「おじいちゃん達が風邪ひいたとき、ずっと一緒にいたけどわたしだけ大丈夫だったことがあったなあ。でもすっごくしょんぼりしたときとか、似たような感じになったことはあるの、落ち込むと身体も苦しくなる」

「風邪はとりあえず免疫がある……?偶然ってこともあるけど、でも人間って生き物とはだいぶ異なる免疫機能をしてるのは間違いないハズ。アタシの見立てだけどきっと、マナを使って身体維持をしているから精神的な弱体化がそのまま肉体に反映される、んだと、おもう」


 メディちゃんのいうことはむつかしい。

 でもヒトと違うから、ヒトの中で生きるためにはきっと違うところが目立たないようにしなきゃならないんだなってのはわかる。耳としっぽがもう生えちゃってるけど、みんながダメって言ったらダメにしなきゃならないんだなって。


 あ、メディちゃんわたしのお荷物とってくれますか。


「………ぐぐ…」

「ごめん重いよね」

「人間が持つべき重量じゃない」

「えへへ……」


 おじいちゃんはわたしの力がヒトと比べてすごーく強いってことをわかってて入れてくれてくれたんだろうから、すっごく嬉しい。でもまだ使いみちがよくわからないものが多いからしっかり確認しないと、結局ぜーんぶ把握する時間がいままでとれなかった、このあいだはすやすやだったし。


「……見れば見るほど文明レベルの低下を感じる」

「メディちゃんのいたころはもっと便利なものがあったの?」

「山程、便利だからいいってワケじゃないケド…たとえば」


 あれかこれか、って考えるそぶりをしたあと、メディちゃんが”変身”する。

 わたしと同じ変身の力だけど、メディちゃんのその姿はまるで違う。やっぱり前見た赤い花瓶をひっくりかえして羽根と手をつけたみたいなぶかっこうな物だ、それがふわふわ浮いていて、目?なのかな、そんなとこがチカチカ光ってる。


 うわっまぶしっ、お目々がぱあっと光った、そしたら変身をすぐ解いた。

 全身ぴっちりお姉さんのメディちゃんに逆戻りだ。


「こういう感じに、少なくとも灯油ランタンなんか使う時代じゃなかった」

「火を使わないなら安心だねー……うわわまだ目がチカチカする」

「ごめん」


 お目々をつむって開いて、またつむって、ちょっと繰り返したらもどった。

 メディちゃんはわたしが出していく荷物を、ひとつひとつ見ては興味深そうにぐるぐる回して見る。それでぶつぶつつぶやくんだ、革の水袋や干し肉をみては『食糧事情が……』とか、火打ち石をみては『ライターが……』とか。


「よいしょっと、これで全部かな」

「水筒、鍋、ピッケル、財布にランタン、着替えに寝袋エトセトラ、旅道具には明るくないけど過剰なまでに揃っている気はする」

「おじいちゃんがそろえてくれたんだもん、ぶいぶい!」

「……あ、これ、この時代にもあるんだ」

「わぅ?」


 そういってメディちゃんが手にしたのは、白色に透き通る結晶。

 布にくるまれて大事につつまれてた、ヒトの頭くらいの大きさの結晶だった。


 きれい、って思ったけどこんなものがあるなんて聞いてなかった、おじいちゃんがこっそり入れたんだろうかな。


「なんだろうこれ?わたし聞いてない!」

「魔結晶……マナの水晶、鍾乳洞のつららみたいにマナが長い時間をかけて凝り固まったもの…だったハズ」

「しょーにゅー……つまり、わたし達が魔法を使うためのマナがはいってるの?」

「そう、それも膨大な量。古い時代は個人が魔法を使うとき、周辺のマナが枯渇したら魔法が行使できないから携行して補充するために使われてた……ケド、キカイの燃料として使われてたアタシたちの時代にはもう枯れ果てかけてたハズ」

「ふぁえー……すごいんだ、だいじにとっとこう」


 わたしはそれを、大事にまた布にくるんで荷物にしまった。

 それからもしばらく荷物の使い方とか、いろいろ話し込んでたんだけどやっぱりわたしもメディちゃんも、このヒトの世界のじょーしきにはすごい疎いんだってのがわかってきて、頭がぐるんぐるん回りそうになった。


 やっぱりヒトのことはヒトに聞こう、時間があったらシャルさんを呼んでおしえてもらおうっと。


 そういえばお部屋、すごいたばこ臭いなあ、きっとよくここで吸ってたんだろうなって鼻をきかせて想像する。たばこは身体にわるいよっておじいちゃんが言ってたけど、村人さんにも吸ってるヒトがいたなあ、身体にわるいのにどうして吸うんだろう?でもお酒もわるいって言われてたのにおじいちゃん、こっそり夜に飲んでたりしたなあ。


「高カロリーのものほど美味しい」


 メディちゃんがぼそっと言う。

 こうかろりーがなんだかはよくわからないけど、身体にわるいものほど気持ちよくなれるんだろう。



 わたしも気持ちいいことは大好き、縁側でおひさま浴びて寝てるのも大好きだったし。セドラちゃんは日焼けが進むからイヤって言ってたけど、あれも身体にわるいものだったんだろうかな?でもおひさまが悪かったらお外歩けないし……うぐぐ、わからないわぅわぅ。おじいちゃんごめんなさいわたし、お日さま大好きです。

 


 壁にしみついたたばこの臭い、とれないかな、あーあー。


「静かに!」

「ふえぇごめんなさい……」



(´・ω・`)ハンバーガーとコーラは世界一おいしい

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