番外編:夢のダンジョン(5)
「さあハヤトさん! 次はあちらの『戦慄! アンデッドの館』です!
本物のゾンビやスケルトンが追いかけてくる、一番人気の歩行型
アトラクションなんですよ!」
ミナさんに背中を押され、僕は最後のアトラクションへ足を踏み入れた。
不気味な霧が立ち込め、呻き声が聞こえてくる。
ようやく僕が求めていた「ダンジョンの恐怖」が味わえるのか――!
「ウ、ウオォォォ……ッ!」
闇の中からゾンビが這い出してきた。僕は反射的に身構えたが、
ゾンビの胸元にあるプレートを見て、言葉を失った。
そこには『本日の驚かせ担当:ジャック(勤続五年)』と書かれている。
「ゾンビに名前と勤続年数の名札を付けさせないでよ!
一気に所帯じみた感じになったじゃないか!
っていうか、今のゾンビ、角を曲がる時に『お疲れ様です』って
小声でスタッフに挨拶してなかった!?」
館を出ると、通路の魔導ランプがいつの間にか紫やオレンジに変わり、
地下空間全体が「夜の演出」に切り替わっていた。
僕はツッコミすぎて喉がガラガラになり、肩を落とした。
「もう、帰りましょう、ミナさん。十分堪能しました。
僕のロマンは、もう粉々です」
「あら、何を言っているんですか! メインイベントはこれからですよ!
いい場所を確保しなきゃ。ハヤトさん、こっちです!」
期待を込めて顔を上げると、ミナさんは広場を横切る大通りに面した、
一番見晴らしの良い場所へと陣取った。
周囲には、場所取りをする家族連れやカップルで溢れかえっている。
「あの。みんなレジャーシートを広げて、お弁当の残りを楽しそうに
食べてるんだけど。……あっちのカップル、イチャついてない?」
「決まっているじゃないですか! 『古の迷宮・ナイトパレード』です!
七色に輝く魔石を散りばめた山車に乗って、
歴代のボスモンスターたちが練り歩くんですよ!」
「パレード……。魔物が、着飾って、行進するの?
命懸けの死闘を繰り広げるはずの相手が、
BGMに合わせて、沿道の客に手を振るの?」
遠くから陽気な音楽と、魔導の光を放つ行列が近づいてくるのが見えた。
一番前で、煌びやかな衣装を着たサイクロプスが、
リズムに合わせて愛想よく腰を振っている。
「もういい。レオンさん、僕が、悪かったよ……っ!」
僕は岩の天井を見上げ、異世界のダンジョンが作り上げた、
残酷なまでに明るい「現実」に、ただただ立ち尽くすしかなかった。




