番外編:夢のダンジョン(1)
「ねえ、レオンさん。ギルドの依頼板を眺めてたんだけど、
『ダンジョン探索』って項目、全然ないよね。
もしかして、この世界にはダンジョンって存在しないの?」
宿の一室。使い古された革の防具を磨いていたレオンさんは、
手を止めずに鼻を鳴らした。その横顔には、どこか呆れたような、
あるいは懐かしむような、奇妙な色が混じっている。
「いや、あるぞ。この街のすぐ近くにだって一箇所、
『古の魔穴』と呼ばれている有名なやつがあったはずだ。
なんだ、ハヤト。お前、ダンジョンに行きたいのか?」
「うん! だって異世界といえば、やっぱりダンジョンでしょ!
松明の明かりを頼りに進む薄暗い回廊、闇に潜む凶悪な魔物、
死を覚悟した先に見つける伝説の武器が入った宝箱。
冒険者になったなら、一度は憧れるロマンだよ!」
僕が熱弁すると、レオンさんは何とも言えない、
憐れみを含んだ眼差しを僕に向けた。
「そうか。ロマン、な。
いいだろう。お前がそこまで言うなら、お膳立てをしてやる。
ちょっとギルドに準備に行ってくる。お前はここで待ってろ」
レオンさんはニヤリと不敵に笑って、足早に部屋を出ていった。
きっと明日は、命懸けの大冒険になるんだ!
数時間後。戻ってきたレオンさんは、ひどく上機嫌な様子だった。
「手配は済んだぞ。明日の朝、ギルドの前に行け。
俺は行かないが、同行者はダンジョンのベテランだから安心だろ。
最高の相手を付けておいたから、しっかり探索してこい」
翌朝。僕はフル装備を整え、予備の松明やロープを詰め込んだ
大きな背負い袋を担いで、意気揚々とギルドの前へ向かった。
だが、僕を待っていたのは、屈強な男たちではなかった。
いつもの制服を着た、受付嬢のミナさんだった。
「おはようございます、ハヤトさん!
今日はお供させていただきますね。……あら、その大きな荷物は?」
「えっ? あ、これ? ダンジョン攻略用のフル装備だよ。
松明に予備の食料、毒消しに脱出用ロープもバッチリ!」
僕が胸を張ると、ミナさんは困ったように眉を下げて笑った。
「ふふ、そんなに気負わなくて大丈夫ですよ。
そのお荷物、ギルドのクロークでお預かりしておきましょうか?
帰りにピックアップしたほうが楽ですよ」
「えっ、預けるの? ……あ、そっか!
ダンジョンに入るには、何か専用の道具が決まってるのかな。
レンタル装備とかがあるタイプの特殊な場所なんだね!」
「ええ、まあ……。現地で必要なものは全て揃っていますから」
ミナさんに促され、僕は首をかしげながらも重い荷物を預けた。
きっと、もっとすごい魔法の道具を貸してくれるに違いない。
僕は得体の知れない期待を抱えながら、彼女と馬車に乗り込んだ。




